「もう電話をかけ直す力もない」。様々な理由から児童相談所に連絡できない、支援を受けられない子どもたちが居ます。虐待を受けていた子どもたちが、なぜ“見えない”存在になっているのでしょうか?

■心や体に深い傷を負いながら…社会から“見えない”子どもたち

体がアザだらけになるほどの虐待を、10年以上受けてきました。趣味の野菜作りで汗を流す、大学生のしろしさん(26)。父親の暴力が始まったのは、小学1年生のころです。「自分が我慢すれば家族一緒に暮らせる」と思い、耐えていました。しかし、父親が包丁を向けてくるようになり、17歳の時、児童相談所に電話しました。

児童相談所と関わらなかった しろしさん
「電話をかけた時、(児童相談所から)『(担当)地区が違うからかけ直してください』と言われて、その時電話を切られて。“終わった”って思ってしまったんですけど」
「もうかけ直す力もないし」

ーー助けを求めることは?

「諦めましたね」

友達には、深刻な悩みを相談したら「引かれてしまう」「学校という居場所すら失ってしまう」と思い、相談できませんでした。

しろしさん
「高校を卒業して、明るく振舞っていたことが無くなって。すごく鬱みたいな状態になって、外に出て人に会うことも怖くなって」

虐待を受けた人は、生活や仕事、心の面に悩みがある時、支援施設が解決方法を探してくれます。しかし、児童相談所などに関わっていない場合、利用条件を満たせないことがあり施設が限られてしまうのです。18歳のしろしさんは支援施設の存在すら知らず、社会復帰できない日々に苦しんでいました。

しろしさん
「キッチンが目に入る時点で、包丁を取り出す父親が思い起こされて」
「動悸が激しくなる」

悩んだ末に1人で始めたのは…“キッチンを遠くから見る練習”です。

ーー最初はこの距離でも辛い?

しろしさん
「辛いですね」

ーー今は大丈夫?

「大丈夫です」

次は、キッチンに近づく練習。包丁に触る練習。野菜を切る練習。再び料理や外出ができるようになるまで、6年かかりました。

しろしさん
「精神的なしんどさは消えない。(社会が)知ろうとしてない気はするので、知ろうとしてほしいというのはありますね」

虐待されていても児童相談所に関わっていない子どもたちは、国に人数すら把握されていません。心と体に深い傷を負っていながら、“社会から見えない”孤立した存在なのです。

8月2日、若者の支援団体が野田大臣に実態の把握などを求めましたが、実際に支援が始まるまで、まだ時間がかかります。