「点と点が繋がり…説明がついた」

番組ではかつて陰謀論にのめりこみ、今ではそこから抜け出したという当事者にインタビューした。彼は2001年同時多発テロの半年後『陰謀論』に接する。“テロはイラクと戦争するための連邦政府による自作自演”というものだった。以来、世の中は大きな組織に支配されていると考えるようになり、多くの人が巻き込まれる事件が起こるたびに“これは陰謀だ”と思うようになったという。

元陰謀論信奉者 アントニオ・ペレスさん(ハワイ在住・45歳)
「(陰謀論に接して)ドーパミンが出てくる感じだったよ。新しいものに出会ったときにワクワクする感覚あるでしょ、そんな感じ…。興奮した。なぜ自分が鬱状態なのか説明がついたんだ。自分の内面の問題ではなく、外の社会のせいだと思うことができた。新しい陰謀論に出会うたびに興奮が強化されていくんだ。点と点が繋がり“そうだったのか”って思うんだ…」

例えばアメリカの1ドル札に描かれる“全てを見通す神の目”。その目はフリーメイソンの象徴の一つとしても使われている。このことから陰謀論信奉者は1ドル札の目がピラミッドの頂上にデザインされていることを、フリーメイソンが頂点にいて全ての糸を引いていると考えるという。

ペレスさんは当時自らを“トゥルーサー(真実を追求する人)”と呼んでいた。

元陰謀論信奉者 アントニオ・ペレスさん(ハワイ在住・45歳)
「陰謀論によって力を得たような気がした。こういう知識を得た自分は特別な存在だってね。ただ同時に犬が自分のしっぽを追いかけるような感じだった。常に真実を探し続け妄想的になっていったんだ…」

そんなペレスさんがある時、バスに乗るといつもと違うルートを走行していた。バスから降りると街には武装した集団が…。ペレスさんは陰謀論にあった“政府の暴走が始まった”と思ったという。ところが…

元陰謀論信奉者 アントニオ・ペレスさん(ハワイ在住・45歳)
「映画のセットだと知った。その時全てがデタラメだと気付くに至る小さな窓が開いたんだ。恥ずかしい気持ちだったよ。(中略)自己陶酔が強い人は自分が無二の存在だと感じることが大好きだ。他の人にはないものを自分が持っているという考えがね。(中略)多くの人が陰謀論を信じる人を正気じゃないと言うが、必ずしもそうじゃない。(トランプは信奉者の心理を利用している)トランプは自分と支持者VSディープステート、我々VS民主党という言い方をする。陰謀論信奉者には漠然とした不安や怒りがあるからトランプのような政治家が“君たちの怒りの原因はあれだ”と指し示してくれるんだ」

ペレスさんはトンネルを抜け出したが、アメリカには信奉者はまだまだいる。ニューヨーク特派員時代、陰謀論の取材を重ねてきた朝日新聞の藤原学思氏はペレス氏のインタビューを聞いて言う。

朝日新聞ロンドン支局 藤原学思 支局長
「典型的な陰謀論信奉者の方だなぁと…。説明がついたとか点と点が繋がったとか…。陰謀論にハマるのは5つあると思うんです。1つは逆張りすることの優越感。周りの人は知らないけれど自分は知っている…。(2つ目は)自分は正しいことをやっているという正義感。(3つ目は)これをやらなきゃならないという使命感。(4つ目は)無力感、孤独感を解き放ってくれる。(最後は)陰謀論のサークルに入ることで高揚感、連帯感のようなものが生まれる…。そこに居心地の良さを感じ、ずるずる…、(彼らのことを)“ウサギの巣穴にハマる”と言いますが、そういうことで抜けられなくなってしまう」