ベテランが「一番大変」とぼやいた 10か国・34か所に点在する“印”

一方、番組のベテランディレクターが「制作が一番大変だった」と今でもぼやくのが、やはりシリアル・ノミネーションの代表的な世界遺産「シュトルーベの測地弧」。これはシュトルーベという19世紀の天文学者が子午線の長さを調べるために作った三角測量地点で、ノルウェーから黒海まで10か国 34か所にわたって点在しています。この測量は、地球の大きさと形を把握するうえで大きな貢献をしたとして世界遺産になりました。

しかし、撮影となると移動も大変な上に、それぞれの地点に残っているのは「穴」とか「十字」の印。つまりきわめて「絵になりづらい」世界遺産だったのです。そうした穴や十字を、クレーンなどあの手この手で映像を工夫し放送にこぎつけたそうです。

世界遺産の登録は1978年から始まりますが、最初からシリアル・ノミネーションがあったわけではありません。90年代以降、単体では世界遺産になるのは難しいものでも、同じテーマを持った複数ものと一緒に見ると、「ある時代の特徴的な文化」や「人類の傑作」として高い価値が持っていると認められるようになり、シリアル・ノミネーションが増えてきました。
このように世界遺産の考え方も、時代と共に変遷してきているわけです。
執筆者:TBSテレビ「世界遺産」プロデューサー 堤 慶太