3年前、吉野彰博士がノーベル化学賞を受賞した。リチウムイオン電池の発明と実用化への貢献が認められた。現在スマホから電気自動車まで蓄電池つまりバッテリーの主流となっているリチウムイオン電池。生み出したのは日本だ。しかし、現在の世界シェアは、1位中国、2位韓国。日本は3位に甘んじている。

そして今、次世代の蓄電池として注目されるのが全固体電池。これも開発したのは日本のチームだ。半導体やリチウムイオンのように中韓の後塵を拝することなく、その座を守ることはできるのか?近い将来100兆円市場になるといわれる蓄電池の行方を議論した。

■「EVのゲームチェンジャーになる」

時代は脱炭素。再生可能エネルギーが注目されるが、風力は風が吹く時しか発電ができない。太陽光は昼間しか発電できない。となるとこれからのエネルギー問題は“電気を貯める”ことに焦点が絞られる。即ち効率のいい蓄電池の開発が肝だ。

現在蓄電池の主流はリチウムイオン電池だ。スマホ、PC、ハイブリッド自動車などなど。電気自動車(EV)の車両価格の4割はリチウムイオン電池代だといわれる。

しかし、今夢のような電池が実用化に向けて開発されている。EVで例えれば、3分の1の充電時間で、2倍の航続距離を可能にするという。それが次世代の蓄電池『全固体電池』だ。リチウムイオン電池が苦手としていた暑さ寒さによる性能低下もなく、液漏れによる発火もない。自動車産業に精通する井上久男氏は言う。

経済ジャーナリスト 井上久男氏
「日産自動車が2028年に実用化するとアナウンスしている。今年4月に試作が公開されたので見に行った。日産の技術者が、これが実現されればEVのゲームチェンジャーになると言ってました」

蓄電池の市場は2050年には100兆円を超えるといわれるが、その時の中心がまさにこの全固体電池ではないかとされている。

しかし、日産の発表はあくまでも目標であって、実用化の壁は厚いというのが、実際にホンダ、サムスンで電池の開発に従事してきた佐藤氏の見方だ。

名古屋大学 佐藤登 客員教授
「まだ電池の形として完成されたものは見たことがない。確かにポテンシャルはある。ただいつ実用化するとか明言できるようなものじゃない」

先端技術の商品化は確かに時間がかかる。リチウムイオン電池が実用化されたのは1991年だが、その6年後に発売された世界初のハイブリッド車、初代プリウスに搭載されていたのは、一世代前の蓄電池、ニッケル水素電池だ。EV世界シェアトップのテスラでさえ今年の初めまで補助バッテリーに鉛蓄電池が使われていた。

つまり、全固体電池が何らかの形で世に出れば“実用化”と言えるのだろうが、それが商品としてあまねく普及するのは、そこからさらに先のこととなる。

蓄電池が100兆円産業になる2050年には全固体電池が普及しているかもしれないが、しばらくはリチウムイオン電池が、電池産業界の主戦場ということだろう。問題は、この主戦場においてに“生みの親”である日本が、中国・韓国に水をあけられてしまったことだ。