日本の2つの作品の受賞で注目された今年のアカデミー賞。原爆の開発を描き、7冠を獲得した「オッペンハイマー」にアメリカの変化を見て取ることができます。
日本の2作品が受賞
10日、ロサンゼルス・ハリウッドで行われたアカデミー賞授賞式。
プレゼンター
「(視覚効果賞は)ゴジラ!」
視覚効果賞を受賞したのは、山崎貴監督の「ゴジラ-1.0」でした。
終戦間もない日本を、核実験で巨大化したゴジラが襲う物語。VFX(視覚効果)を駆使した迫力ある映像が特色です。
一方、長編アニメ映画賞を受賞したのは、宮崎駿監督(※崎=旧字体の「たつさき」)の「君たちはどう生きるか」。こちらも戦時中の日本を舞台にした物語でした。
図らずも、かつての戦争の時代を描いた日本の2作品が受賞した今年のアカデミー賞。
「オッペンハイマー」
授賞式でとりわけ大きな話題を呼んだのは、作品賞など7冠に輝いたクリストファー・ノーラン監督の「オッペンハイマー」。この映画も戦争の時代、アメリカの原爆開発を取り上げたものでした。

映画「オッペンハイマー」より
「原爆は作ったが、使い方に関する権利や責任は我々にはないんだ」
主人公のオッペンハイマーは、原爆開発を主導した物理学者。原爆の惨状に苦悩する様子が描かれています。
戦後、水爆の開発に反対し、公職から追放されたオッペンハイマーは晩年、こんな言葉を遺しています。
オッペンハイマー
「原爆が世界を変えてしまうことは分かっていた。私は死神、世界の破壊者になった」

「ゴジラ-1.0」の中で、原爆が生み出した怪物を描いた山崎監督は、この映画を見て、こう語っています。
山崎貴監督
「すごく運命的なものを感じる。オッペンハイマーに対するアンサーの映画は、僕の個人的な思いとしては、日本人として作らなきゃいけないのでは」
オッペンハイマー 被爆地の描写は
12日、被爆地・広島では、この「オッペンハイマー」の試写会とトークイベントが開かれました。映画を見た元広島市長からは…
元広島市長 平岡敬さん
「私は、広島の立場から、ちょっとね、原爆の恐ろしさ、核兵器の恐ろしさというのが、まだ十分に描かれていないんじゃないかなと思った」
被爆地の直接的な描写がないことなどに疑問の声が上がりました。
アメリカに変化…?
その一方で、戦後一貫して原爆投下を正当化してきたアメリカで、原爆開発に苦悩・逡巡する主人公を描いた映画が評価されたことは、大きな変化だと専門家はいいます。
上智大学 前嶋和弘教授(現代アメリカ政治)
「これまでアメリカは一貫して広島・長崎に原爆を投下したことは良かったことなんだと、より多くの人々を命を救ったんだ、という立場。ですが、今回の映画はかなり踏み込んだ感じがする。言ってみれば原爆批判、これはアメリカの大きな変化だと思う」

原爆開発に苦悩するという、これまでのアメリカであればありえないような今回の作品。
広島の高校生からは…
試写会に参加した高校生
「今回の映画では、どのような過程で、広島・長崎に原爆が落とされるのかという、今までにない視点から見た」