朽ち果てた自宅「こんなショックを感じたことはない」
今も埼玉で避難生活を続ける鵜沼久江さん。新たに野菜作りをはじめた。

――今年はどうですか
鵜沼久江さん
「良くないですね」
――暖冬のせい?
「うん、そうですね」

震災前までは、ふるさと双葉町で夫の一夫さんと50頭ほどの牛を育てていた。だが、原発事故による全町避難でそのほとんどを失った。

鵜沼さん
「ミイラですもんねこれ」
――もう皮だけになっている
「自分の子どもと同じ。お母さん牛は。子牛は孫と同じです。なんでこんな酷い事しなきゃなんないんだろうって」

夫の一夫さんは7年前に病気で他界した。
鵜沼さん
「お父さんと2人で話してたのは、解除になって、双葉に住めるようになったら一番先に帰って農業やるんだ。農業やりたくないと思ったことは1日もないの」

先週、久しぶりの一時帰宅に同行させてもらった。バリケードの先にある自宅は、今も帰還困難区域の中。通行証がないと自由に立ち入ることができない。
自宅前の道路では、伸びきった竹が行く手を阻む。そして自宅に向かうと…

鵜沼さん
「えー、家がない…。本当にない…。半分なくなっちゃったね。潰れた」
――最近、潰れた?
「です。ですよ」

3年前訪れた際、家はかろうじて建っていた。だが、13年間雨風にさらされ続ける中、建物は朽ち果て竹に覆い尽くされてしまった。
鵜沼さん
「玄関はこのへん」
――入口がなくなってしまった?
「入れないですね」

玄関先には13年間干しっぱなしの洗濯物が残っていた。

鵜沼さん
「この中にね、みんな埋まってるんです。アルバムも仏壇も」
――ショックですね…
「はい。こんなショックを感じたことはない。何にも、もう。みんながいなかったら泣いちゃいそう、ごめんなさい。はぁ…」
多くの牛たちが置き去りにされ死んでしまった牛舎。そこには…

鵜沼さん
「なんかかわいそうね。こんだけ骨が。普通だったらそんな死に方しない」
牛舎の横にはかつて広大な田んぼがあった。

鵜沼さん
「あそこがうちの田んぼなんです」
――え?田んぼだったんですか?
「だったんです」
――あんなに木が生えてるのに?
「そうです」

この田んぼでは毎年、牛のフンを混ぜて作った堆肥をまき、自慢の米を作っていた。もはや見る影もない。
鵜沼さん
「もう何百年続けてんのかわかんないですけど、ずっとやってきた。まだまだ農業やりましょうっていうのは程遠いですよね」