■9日目(日本時間24日)の決勝種目と日本選手出場予定
3:20【女子100m障害予選】福部真子、青木益未
4:00【女子走幅跳予選】秦澄美鈴
9:40【男子4×400mリレー予選】日本
10:00【男子三段跳決勝】
10:10【男子800m決勝】
10:25【女子5000m決勝】田中希実
10:35【男子やり投決勝】ディーン元気
11:30【女子4×100mリレー決勝】
11:50【男子4×100mリレー決勝】


個人3種目挑戦という世界陸上日本人初の試みに挑んだ田中希実(22・豊田自動織機)が、オレゴン最後レースとなる女子5000m決勝に出場する。日本記録(14分52秒84)の更新と8位入賞が目標になるが、客観的に見ればかなり厳しい。

それを示しているのが大会6日目に走った予選の、ラスト1周に要した69秒72というタイムだ。フィニッシュタイムの15分00秒21は自己3番目で悪い記録ではなかった。だが東京五輪予選を自己記録(14分59秒93)で走ったときと、19年世界陸上ドーハを自己2番目の記録(15分00秒01)で走ったときは、ともにラスト1周が65秒台だった。今年の日本選手権は61秒台である。
5000m予選後の田中はメディアの前ではいつも通りしっかり話をしたが、その後気分が悪くなって医務室に運ばれた。

父親でもある田中健智コーチは翌日の800m予選回避を提案したが、田中本人が「800mを走った方が5000mに整う」と出場へ強い意欲を見せたという。
大会7日目の800m予選は通過できなかったが、2分03秒56と自己記録から1秒20差で踏ん張った。1周目を自身最速の59秒44で入る積極性も見せていた。

大会前の取材では「(個人3種目出場など)誰もやったことがないことへの挑戦」が、自身のモチベーションを上げていると話した。昨年の東京五輪はドーハで決勝に出場した5000mで予選落ちしたが、その後の1500mで日本人初入賞を果たした。

オレゴンでは1500mで予選落ちした後に5000mで入賞する。そのシナリオに田中が予想以上の力を発揮する可能性はある。

やり投・ディーン元気選手
男子ではやり投決勝にディーン元気(30・ミズノ)が駒を進めている。

12年ロンドン五輪以来の世界大会だが、10年前も決勝に進出した。そのときの予選は82m07だったが、今回は82m34と少しだけ記録が上がっている。10年前の9位から1つでも順位が上がれば入賞ができる。

自己記録は12年の84m28だが、一昨年のゴールデングランプリで84m05とほぼ同じ距離を投げている。しかし昨年は記録を狙いすぎてシーズンベストが82m15と下がり、日本選手権など重要な試合でも負けてしまった。「記録を出せるとワクワクするのはいいのですが、興奮しすぎると上半身の筋肉がこわばってしまう」。

意識的に興奮させて一発を狙いに行くこともあるが、30歳のベテランは「今季はリラックスして試合の中でつかむものを確認しながら、後半で記録を上げられるように試技を進めている」という。

入賞ラインの8位記録は東京五輪が83m28。世界陸上ドーハは80m42と低かったが気象条件の影響と考えられる。17年世界陸上ロンドンは83m98だった。自己記録に迫るアーチをオレゴンの空に描くことができれば、入賞ラインもディーンのやりが越えていく。

9日目は3種目で日本勢が予選突破に挑む。

女子100mハードルには日本選手権優勝の福部真子(26・日本建設工業)と、日本記録(12秒86)保持者の青木益未(28・七十七銀行)が出場する。

100mハードル日本記録保持者・青木益未選手
今年4月に日本記録を出した青木は、その前日に100mで強い向かい風の中で11秒66と自己記録に迫り、翌日にハードルでも快走した。日本選手権は福部には敗れたが、100mで11秒51と大幅に自己記録を更新した後にハードルを走った。

今大会でも前日(8日目)に4×100mリレーの1走を走って日本記録更新に貢献した。「ハードルのことは考えずにリレーに集中した」が、そういうときの青木は期待できる。以前はできなかったが、今季の青木は100mを思いきり走っても、翌日のハードル間を素早く刻む走りができるようになった。

東京五輪では予選のタイム通過は13秒00までだった。2人とも12秒を出せば最終日の準決勝に進むことができる。

女子走幅跳予選の秦澄美鈴(26・シバタ工業)には決勝進出を期待したい。前日に女子やり投の北口榛花(24・JAL)が銅メダルの快挙を達成したが、女子フィールド種目史上初のメダルに秦が刺激を受けているのは間違いない(今大会の女子フィールド種目代表は2人だけ)。
19年世界陸上ドーハでは6m53が、昨年の東京五輪は6m60が予選通過12番目の記録だった。今季6m60台を2試合で跳び、向かい風でも6m40台を跳んでいる。安定度が増した今の秦なら6m60台も難しくない。

予選を通過すれば01年エドモントン大会の池田久美子以来、女子走幅跳では世界陸上2人目となる。

男子4×400mリレーは日本記録更新と予選突破を期待できる。

昨年の東京五輪は3分00秒76の日本タイ記録を出したが、決勝進出にはあと1秒70の短縮が必要だった。

96年アトランタ五輪で日本記録を出したときは5位に入賞し、04年アテネ五輪で4位に入賞したときのタイムは3分00秒99だった。スパイクや走路の進歩がタイムに反映されている。予選突破を確実にするには2分59秒台前半を出したい。
東京五輪メンバーから残るのは川端魁人(23・中京大クラブ)1人だけだが、エースのウォルシュ・ジュリアン(25・富士通)が復調したのは心強い。佐藤風雅(26・那須環境)もウォルシュと同程度の力とみられ、今大会400mでも2人は近いタイムで予選、準決勝を走っている。

近年は4×100mリレーがメダルを何度も獲得し、日本の短距離界を代表する種目となっていた。今年は4×400mリレーが存在をアピールする番だ。

(TEXT by 寺田辰朗 /フリーライター)