事故の真相求め…両親の闘い

両親の行動を変えたのは、同じ境遇の交通事故遺族との出会いだった。

事故の捜査が十分に行われなかった経験を持つメンバーから、自分たちで調べ直す方法があるとアドバイスを受けた。

2人は、自ら真相を明らかにすることを決意する。警察が、速度の解析に使わなかった防犯カメラの映像を入手。事故のCGを製作した。

善光さん
「ここではねられて、最終的に加害者車両がとまったのはここ」

映像の専門家に依頼し、映っていた車やライトの反射、現場の測量から事故の状況を再現。専門家は、捜査では時速70~80キロとされたスピードについて、108キロに達していたと指摘した。

両親は、男が事故直後にコンビニへ行ったことが「救護義務違反」にあたると考え、目撃者からも話を聞いた。

同じマンションに住む内堀秀俊さんは、大きな音を聞いてベランダに出た。

和田さんと同じマンション 内堀秀俊さん
「しばらくすると彼は降りてきて、こちらに戻ってきて、横断歩道近辺を何か捜すような感じでした。そのときに前の建物から(年配の)男性が出てきて、何か会話をしていました。たぶん1分くらいだったかな」

会話をした原谷進さんも、男が衝突場所の付近だけに留まっていたと話す。

男と会話した原谷進さん
「人をはねちゃったということは言ってました。まずここを見て、こっちの方をうろうろしていたくらいで。たいして動いてないですね」

原谷さんより前に、男と話したという女性はこう証言した。

男を目撃した女性
「捜しているというか、横断歩道をのぞき込んでいるだけで、もっといろんなところで普通捜すのかと思ったり。『大丈夫ですか、救急車呼びましたか』と聞いたら、その返事がなかった」

男はその後、現場を離れたという。

和田さんと同じマンション 内堀さん
「それで彼は自分の車に戻って、車をどうにかするのではなく、すぐセブンの方に行きました」

心肺停止後の救命率は、1分間に約10パーセント下がるとされている。

両親が調べた、男の行動はこうだ。

午後10時7分ごろ、樹生さんをはねた。およそ100メートル先で車を止めると、1分後には、横断歩道まで戻る。通りかかった女性が「救急車を呼んだのか?」と尋ねるが、応えなかった。3分程度はその場に留まり、近くのマンションから出てきた原谷さんと会話。

事故から4分後には車へ。ハザードランプをつけると、コンビニへ向かった。

最初の119番通報は、事故から10分後、連絡を受け駆け付けた、男の知人からだった。

事故から2年余り、両親は自ら集めた証拠を検察に提出。再捜査の結果、検察は、時速は96キロに達していたとして「スピード違反」の罪で起訴。

2度目の裁判が行われたが、訴えは退けられた。さらに、「救護義務違反」の起訴も見送られ、捜査は終結した。

行き詰ったかにみえた状況を打開する糸口となったのは、刑事裁判と並行して両親が起こしていた民事裁判だった。

2021年、東京高裁は、男がコンビニへ行っていた行動を「不救護・不申告」と結論付け、「救護義務違反」にあたると認めたのだ。

両親はこの判決などをもとに訴えを続け、ついに検察は2人が切望していた「救護義務違反」の罪での起訴に踏み切った。