飲酒の運転手 衝撃の行動

2人の妹の面倒をよく見る、優しい兄。スポーツや音楽が得意で、周りから慕われる存在だった。将来は海外で働きたいと、受験勉強に励み、志望校に合格した矢先の事故だった。

真理さん
「当日持っていたものなんです。お気に入りのリュックサックで幼稚園のときから使ってたんです。この中に高校の課題で出された作文が入っていたんですけど、高校に行ったら一生付き合える友達をたくさん作って、大学に行きたいと考えているから、しっかり勉強も部活も頑張りたいと…結局入学できなくて、どれだけ悔しかっただろうなといつも思います」

両親が衝撃を受けたのは、男が樹生さんを助ける前にコンビニへ行き、酒の臭いを隠すために口臭防止剤を買って飲んでいたことだ。

真理さん
「第一発見者に話を聞いたときに、樹生が目を開けていたと聞いて、最後に何を見たのかなとか、もしかしたらすぐに助けてもらえたら、命だけは助かったかもしれないと思うと…」

道路交通法には、「交通事故があったときは、直ちに車両等の運転を停止して、負傷者を救護しなければならない」という条文がある。

男を、この「救護義務違反」の罪に問いたいと望む両親に対し、検察は…

長野地検
「『救護義務違反』を主張した場合、現場に留まっていたと争われる可能性がある。ここで争うと裁判の進行が遅くなる。男の行動の悪質性を主張すれば実刑は取れる」

結局、検察は「救護義務違反」について、起訴を見送った。

真理さん
「もう(過失運転致死の罪で)起訴しちゃったから、その一点張りで、面会してちゃんと話を聞いてくださいと言っても、もう刑事裁判に専念したいからと」

その夏に開かれた1回目の刑事裁判。男の手紙が証拠として提出された。

被告
「私は警察、検察官の取り調べで全て正直に述べました。近くを探し回っていた時、人が倒れていると聞こえました。直ぐに駆け寄り心臓マッサージをしました」

男は、コンビニへ行ったことを認めたものの、判決は禁錮3年、だが5年の執行猶予がついた。

両親の望んだ実刑にはならなかった。

真理さん
「きょうもなんとなく自然に、樹生の好きだったものばかりつくってますね。毎食用意しています。好きそうなものはお皿に載せて」

樹生さんの死に苦しんでいるのは両親だけではない。真理さんは下の妹の日記を、偶然目にしたことがある。

妹の日記
「この日のことは一生忘れない。というより忘れられない。私の人生が真っ黒になった日。
もちろん、犯人はゆるせない。でも、一番は、あのとき寝ていた“自分”が一番許せない」

上の妹は、原因のわからないおう吐が続き、今も入退院を繰り返している。

妹の日記
「あの時みたいに毎日笑顔ですごしたい。家族みんなが心から笑えていた あの時みたいに」

諦めきれない両親は、その後も訴えを続けた。