(ブルームバーグ):孫正義氏率いるソフトバンクグループの米OpenAI投資を資金面で支える債券投資家や金融機関は、リスクの高まりを認識し、より大きな見返りを求めるようになっている。
ソフトバンクGは今年、運用会社や銀行、さらには日本の個人投資家から、AI戦略を推進するための資金を調達してきた。柱となるのが、ChatGPTを開発したOpenAIへの約650億ドル(約10兆3000億円)の投資だ。だが、金利上昇に加え、OpenAIの上場まで時間がかかるとの見通しやソフトバンクGの債務拡大を資金の出し手が警戒し、調達コストは上昇している。
ソフトバンクGは今週、約110億ドル規模の起債で世界最大のジャンク債(投機的格付け債)発行体となった。最も年限の長いドル建て債の利率は、同社のドル債としては過去最高の9.75%に設定された。今月は国内の個人投資家向けにも1兆円相当の社債を発行。利率は4.75%と、今年国内で発行された個人向け社債の平均のほぼ2倍だった。
調達コストの上昇は、まだ黒字化していないOpenAIに孫氏がかつてない規模の資金を投じていることに伴うリスクの大きさを映す。ソフトバンクGはこれまでも借り入れで大型投資を賄ってきたが、OpenAIへの投資は過去最大だ。同社への投資を始めて以降、純有利子負債は2倍余りの10兆8000億円に膨らんだ。AIブームに投資する手段である社債や融資への需要は根強いものの、金利上昇局面では資金調達コストが高くつくことも浮き彫りになっている。
ソフトバンクGの広報担当者は取材に対し、世界的なAI変革が生み出す巨大な機会を捉えるため、確信を持って投資していると説明。強固な財務基盤の下、財務規律の維持と、資金調達コストを大幅に上回るリターンの創出を明確に重視していると述べた。同社株は年初来で約44%上昇している。

同等格付けの社債より金利高め
それでも、ソフトバンクGの積極的な資金調達で恩恵を受けてきた銀行関係者やファンドマネジャーは、この流れが近く終わるとはみていない。同社が市場での調達を続け、投資家を引き付けるために一段と大きな上乗せ金利を提示するとみている。3月に調達した400億ドルのOpenAI向けブリッジローンでは、主幹事を務めたJPモルガン・チェースやゴールドマン・サックス・グループなどに1億ドル超の手数料をもたらすもようだと、事情に詳しい関係者が7月に明らかにした。
調査会社クレジットサイツのシニアアナリスト、マーク・チャップマン氏は、「ソフトバンクにとって上乗せ金利の拡大は避けられない」と指摘。「テクノロジー分野の他の主要企業と同様、極めて速いペースで負債を増やしており、それだけ高い金利を払う必要がある」と述べた。ただ、投資が実を結べば、中期的には調達コストが低下する可能性もあるという。
AIの台頭を背景に、データセンターや半導体、ソフトウエア開発の資金を借り入れで賄う動きが世界的に広がっている。ただ、同程度の格付けのジャンク債と比較しても、ソフトバンクGが支払う金利は高めだ。
S&Pグローバル・レーティングとフィッチ・レーティングスは、ソフトバンクGに対し、投機的格付けでは最も高い「BBプラス」格付けを付与している。ソフトバンクGは、テクノロジーや消費分野の多くの企業に出資しているが、AI関連では投資先の集中度が特に高い。主要な保有資産の一つが、英半導体設計会社アーム・ホールディングスの株式86%だ。
ブルームバーグの集計データによると、ソフトバンクGが今年前半に発行したドル建て10年債の利回りは24日時点で約8.9%。格付けが同程度で、年限が7-10年の米社債の平均である6.7%を上回った。今回の起債で最も年限が短い2030年満期のドル債の利率は8.625%と、格付けがさらに5段階低い米社債の平均に近い水準だった。

「AIへのレバレッジ投資」
ソフトバンクGは、コアウィーブやオラクルなどと共に、AIによる利益獲得を目指し負債を急速に積み上げてきた大手企業の一角を占める。このため、投資家はAIの長期的な将来性を左右する兆候に敏感になっている。OpenAIのサム・アルトマン最高経営責任者(CEO)が年内の新規株式公開(IPO)を見送る考えを示した後、ソフトバンクGの信用リスクを示すクレジット・デフォルト・スワップ(CDS)は3年ぶりの高水準を付けた。
アライアンス・バーンスタインのアジア・クレジット調査責任者、フア・チェン氏は、「ソフトバンクへの投資は、レバレッジをかけてAIに投資するようなものだ」と説明。「そのため、AIに対する市場心理が、投資先としてのソフトバンクへの評価を大きく左右する」と述べた。
ベンチャー投資会社メンローパーク・キャピタルのマネジングパートナーで、ソフトバンクの元幹部でもあるハビブ・イマム氏によれば、ソフトバンクGの投資家は、OpenAIとアームの評価額が高水準を維持するとの前提に立っている。
アーム株は年初から3倍に上昇し、時価総額は3550億ドルを超えた。OpenAIの評価額は、ソフトバンクGが初めて出資した2024年の1570億ドルから、直近の資金調達では8520億ドルに増加。同社はIPOに先立ち、1兆2000億ドル超の評価額で新たな資金を調達する初期段階の協議を進めている。
リスクは、OpenAIの評価額引き下げやアーム株の急落により、「借り換えへの道が数四半期閉ざされる」ことだとイマム氏は指摘する。「精査すべきなのは、こうしたストレスが重なった場合、既に約束した投資や追加担保の差し入れを考慮した上で、どれだけの流動性を確保できるかだ」と述べた。
LTV
ソフトバンクGは借り入れを適切に管理していることを投資家に説明するため、保有資産に対する負債の割合を示すLTV(ローン・トゥー・バリュー)という経営指標を用いている。通常は貸し手が個々の融資案件を評価する際に使う指標だが、同社は独自の事業構造を理解する上で最も適していると指摘している。
同社はLTVを通常25%未満に抑え、金融市場の異常時でも35%を上限として管理する方針を掲げる。直近の発表によれば、6月末時点では13%だった。OpenAIへの投資開始以降、保有株式の価値が約2.5倍に増えたと同社が推計していることも、この低水準の一因だ。

ブルームバーグ・インテリジェンスのアナリスト、シャロン・チェン氏によると、予定しているOpenAIやABBのロボティクス事業、デジタルブリッジ・グループへの投資を実行した後、LTVは15-20%に上昇する見通しだ。複数の銀行関係者やファンドマネジャーは、現時点では可能性が低いものの、OpenAIの評価額が約20%下落すれば、追加融資を決める前にソフトバンクGの財務を一段と精査することになると話した。
ソフトバンクGの後藤芳光最高財務責任者(CFO)は8月の投資家向け説明会で、「金利上昇局面では、借り換えを行うタイミングで適用金利が上昇する可能性が高いため、支払利息も増加する可能性がある」と指摘した上で、「金利負担は調達コスト、すなわち投資コストの一部として十分に吸収できるものと考えている。当社が想定する投資利益率は非常に高い水準にあるためだ」と語った。
難航した100億ドル融資交渉
資金調達の条件が厳しくなっていることは、ソフトバンクGが今年、100億ドルの融資を確保しようとした際にも表れた。協議に関わった複数の関係者によると、プライベートクレジット会社やヘッジファンド、銀行と約5カ月にわたり交渉したものの、当初は必要な融資の確約が集まらなかった。
関係者によれば、ソフトバンクGは保有するOpenAI株の価値が一定水準を下回った場合、その株式を貸し手に担保として差し出す案を提示したが、投資家は難色を示した。別の関係者によると、6月に協議が停滞しても、同社幹部は資金が必要だったため融資獲得を諦めなかった。
最終的にソフトバンクGは、OpenAIの優先株の価値が急落するなど一定の状況下で、現金を差し入れるか融資を繰り上げ返済する条件に同意した。期間2年の融資の取りまとめに当たっては、特に関係の深い金融機関を頼った。ゴールドマン・サックスとJPモルガン・チェースに加え、みずほフィナンシャルグループと三井住友フィナンシャルグループが融資に参加した。
これら銀行に交じり、5社目の貸し手として目を引いたのが、ニューヨークに本拠を置く投資会社アポロ・グローバル・マネジメントだ。2021年にソフトバンクGとの取引関係が始まって以来、目立たないながらも重要な資金の出し手となってきた。
アポロは、ソフトバンクGのビジョン・ファンド(SVF)2の保有株式を裏付けに40億ドルを融資した。事情に詳しい関係者が先週明らかにしたところでは、アポロは融資額を90億ドルに引き上げる方向でソフトバンクGとの協議を進めている。実現すれば2度目の増額となる。ソフトバンクGは主にSVF2を通じてOpenAIに投資している。
「ホークスボンド」人気
ソフトバンクGが繰り返し頼ってきたもう一つの資金の出し手が、日本の個人投資家だ。孫氏は変革をもたらす人物として個人投資家の間で特別な存在となっており、年次株主総会では5000席の会場が埋まったこともある。
ソフトバンクGの個人投資家(リテール)向け社債は、ほぼゼロの預金金利に慣れた日本の個人投資家にとって、株式ほど大きな価格変動リスクを負わずに高い利回りを得られるため人気がある。05年以降、国内で個人投資家向けに発行した社債は累計11兆円を超え、このうち5兆円超を償還した。

直近の1兆円の個人向け社債は、孫氏の知名度と日本の野球人気を生かして販売された。愛称は、孫氏がオーナーを務めるプロ野球チームにちなんだ「福岡ソフトバンクホークスボンド」。ホークスは今月、パ・リーグ優勝を果たした。社債は期間7年の無担保債で、日本格付研究所(JCR)から「A」の格付けを取得している。
匿名を条件に取材に応じた証券会社のリテール営業責任者によると、主に高い金利が顧客を引き付け、社債は瞬く間に売れた。購入者にはホークスファンも多かったという。
複数のネット証券では早い段階で完売の表示が出た。主幹事会社の幹部によると、需要が募集額を上回り、購入者の多くが60歳以上だった。証券会社は通常こうした情報を公表しないため、同幹部は匿名を条件に話した。
東京都在住の50代前半の個人投資家タダシさんは、700万円分の購入を決めた。ソフトバンクGの社債への投資は3度目だ。姓を伏せることを希望したタダシさんは、「利率の4.75%は非常に魅力的だった」と話した。「孫さんがいないソフトバンクGの債券だったら買わなかっただろう」とも語った。
大阪府在住の大田晃司さん(38)は既にソフトバンクGの社債を保有し、今回の個人向け社債も購入を検討した。しかし、マンション購入に備えて手元資金を確保したいことに加え、より高い利回りを期待して見送った。
「金利上昇局面なので、次はもっといい条件が出ると思う。その時に買いたい」と話した。
原題:Masa Son’s Huge OpenAI Bet Sends SoftBank Debt Costs Soaring(抜粋)
--取材協力:Vivien Ngo、Mayumi Negishi、Finbarr Flynn、Shadab Nazmi、Dipika Lalwani.もっと読むにはこちら bloomberg.com/jp
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