日本銀行が政策金利を31年ぶり高水準に引き上げたものの、円安傾向が続いている。為替介入や利上げ後も根強い円売り圧力に、政策当局は警戒を強めている。円安は輸入物価を押し上げ、家計の負担増につながりかねないためだ。

日銀は18日の金融政策決定会合で利上げを決めたが、審議委員2人が反対したため市場が想定したほどタカ派的ではないと受け止められた。会合後の記者会見で、植田和男総裁は金融政策運営について「政策の局面が変化した」と述べ、利上げ継続に前向きなタカ派姿勢を示したものの、踏み込み不足との見方もあり市場の反応は分かれた。

同日深夜から19日未明にかけての外国為替市場では、日銀が市場参加者に為替水準を照会する「レートチェック」を実施したと報じられるなど、介入を意識せざるを得ない状況が続いている。

日米の金利差も円安是正を妨げる一因となっている。米連邦準備理事会(FRB)は16日、3年2カ月ぶりに政策金利を引き上げた。年内に追加利上げを実施する見通しも示しており、日銀が利上げしても金利差が縮まりにくいとの見方が円の上昇を阻んでいる。

7月下旬に1ドル=164円に迫った円相場は、同月末の日米協調介入などを受けて一時155円台まで上昇したが、9月初めにかけて160円台に押し戻された。その後、日銀による利上げペース加速観測などを背景に152円台まで再び円高が進んだが、24日午前は157円台後半で推移している。

政府・日銀は8月26日までの1カ月間に月次で過去最大となる15兆3993億円の円買い介入を行った。今年は4月30日と5月4日、6日にも合計11兆円余りの円買い介入を実施している。相次ぐ介入で一時的に円高に振れても持続せず、介入だけで円安基調を反転させることの難しさが改めて浮き彫りになっている。

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円安の背景は?

円安の主な要因の一つは、米国など主要国と日本との金利差だ。低金利の円を調達して高利回りの海外資産に投資する取引が円売り圧力につながっている。日銀は政策金利を1.25%程度に引き上げたが、世界的に見ればなお低い。米フェデラルファンド(FF)金利の誘導目標レンジは3.75-4%。欧州中央銀行(ECB)も10日、中銀預金金利を2.50%に引き上げた。

中東の混乱に伴う世界的なインフレ圧力は、各国の金融政策を通じて円相場に影響を与えている。米国では追加利上げ観測が強まっており、ドル建て資産の相対的な魅力が高まることで、円安が進みやすくなる。

財政拡張への懸念も円の重しとなっている。政府債務残高は国内総生産(GDP)比で200%を超え、主要国で最も高い。財政運営への警戒が高まれば、日本国債や円への信認が損なわれる恐れがある。

中東情勢を巡る緊張の長期化も円安要因だ。原油のほぼ全量を輸入に頼る日本では、原油高で輸入代金が膨らめば、決済に必要なドル需要の増加を通じて円売り圧力が強まりやすい。

なぜ円安が懸念されるのか?

円安は訪日客の増加や輸出企業の利益押し上げにつながる一方、原燃料を輸入に頼る日本経済にはコスト増となる。輸入物価の上昇を通じて家計の負担は高まり、内需企業の収益も圧迫する。

国内ではインフレ定着への懸念も強い。日銀は、為替相場の変動が物価に与える影響が従来よりも大きくなっているとみており、企業の価格転嫁が進む中、円安が物価をさらに押し上げるリスクを警戒している。

米国も円安を懸念する理由は?

円安は米国にとっても懸念材料となっている。トランプ米大統領は、円安が日本の製造業に不公正な貿易上の優位性をもたらしていると繰り返し批判してきた。円安が進めば日本製品の価格競争力が高まり、米国の対日貿易赤字が拡大する可能性がある。

米国にとって、円安の影響は貿易面にとどまらない。海外勢で最大の米国債保有国である日本が、円を支えるために米国債を売却すれば、米国の金利(資金調達コスト)を一段と押し上げる恐れがある。

米国が7月末に円買い協調介入に動いたことは、米政府の姿勢の変化を表している。ベッセント財務長官は、円安が競争的な通貨切り下げを招く恐れがあるとし、円の安定は米国のみならず、アジア地域全体にとって極めて重要との認識を示した。

円安阻止の手段とは?

当局は、政府高官の発言による「口先介入」で過度な変動を容認しない姿勢を示し、投機的な動きをけん制する。財務相や財務官は介入への距離感に応じて表現を使い分け、「必要があれば断固たる対応を取る」といった強い発言で市場の介入警戒感を高める。

政府・日銀が実際に為替市場に介入すれば、より直接的に相場に影響を与えることができる。

日本は長年にわたり大規模な介入を実施してきた。かつては円高是正のための円売りが中心だったが、近年は円安抑制のための円買いに転じている。24年に4回実施した円買い介入は、いずれも160円近辺で行われ、総額15兆円規模に上った。市場では、この水準が介入の一つの目安として意識されてきた。

為替介入の実施方法は?

日本は為替レートは市場で決まるべきだとの国際的な原則を支持している。20カ国・地域(G20)は、過度な変動や無秩序な動きが経済や金融の安定に対し悪影響を及ぼし得るとの認識を示しており、変動が激しい場合には介入の余地がある。

日本では財務省が介入を決定し、日銀が実務を担う。財務省が求める効果や市場の反応が介入規模を見定める材料となる。

市場関係者によると、政府・日銀は7月30日のニューヨーク市場で円買い介入に動き、米通貨当局がレートチェックを行った。翌31日には日米が協調介入を実施。日米財務相はさらなる協調介入も辞さない姿勢を示した。

円買い介入の原資には外貨準備が使われる。24年や今年4-5月、7月末の介入では、米国債を含む外国証券などを活用したとみられる。政府は通常、介入の有無を直ちには明かさず、財務省が月末に「外国為替平衡操作の実施状況」で介入額を公表する。介入への警戒感を持続させる狙いもあるとみられる。

介入の効果は? 

介入が行われると、短時間に数円規模で相場が動くことが多い。もっとも、相場を方向付ける経済ファンダメンタルズ(基礎的諸条件)が変わらない限り、効果は一時的なものにとどまりやすい。

外貨準備は本来、大規模な金融ショックや不測の事態に備えるためのもので、通貨の継続的な下支えを目的とするものではない。介入は市場環境が変わるまでの時間稼ぎにはなるものの、単独で相場の流れを反転させるのは難しい。

為替介入を継続できるのか?

問題は、政府が介入を継続できるかではなく、どのような場合に、いつ実施するのが適切かという点だ。財務省は、8月末時点で9950億ドル(約157兆円)の外貨を保有しており、円買い介入に充てる資金には余力があるとみられる。

片山さつき財務相は、米連邦準備制度理事会(FRB)の「外国・国際通貨当局(FIMA)向けレポファシリティー」を早い時期に活用したいとの考えを示した。米国債を担保にドル資金を調達できるため、市場で米国債を売却して現金を確保する必要がない。

政府・日銀が考慮すべき点は他にもある。介入による急激な相場変動は、商品の価格設定や決済、為替リスクのヘッジを難しくし、企業活動を混乱させる可能性がある。

介入には政治・外交上のリスクも伴う。特に円売り介入は、輸出企業に有利に働くため、為替操作との批判を招きかねない。一方、円買い介入はこうした批判を受けにくい。

他の円安是正策は?

為替介入以外では、金融政策の引き締めや経済ファンダメンタルズの改善も円安是正につながり得る。理論上、利上げで日米金利差が縮小すれば、円を支える効果が期待できる。ただ、日銀がマイナス金利政策を解除した24年3月直前と比べて日米の政策金利差は半分程度に縮小したが、円安基調は続いている。

企業に海外資金の国内還流や国内投資の拡大を促すことも選択肢となる。円建て資産への需要を高め、成長が加速すれば海外からの投資も呼び込みやすくなる。高市首相は6月、AIや半導体、防衛、造船などの戦略分野への官民投資を促進する成長戦略を公表した。

片山財務相は、年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)を含む公的年金基金に対し国内資産への投資拡大を促したほか、少額投資非課税制度(NISA)の対象に国債を加える案を示した。市場では、政府が円相場に影響を与える新たな手段を模索しているとの見方もある。

歳出抑制や政府債務の削減といった取り組みも、財政への信認を通じて日本の資産の魅力を高め、中長期的に円を支える要因となり得る。ただ、こうした施策の大半は効果が表れるまでに時間がかかる。

--取材協力:グラス美亜.

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