トランプ米大統領と中国の習近平国家主席は今週、貿易から台湾に至る数多くの難題について協議する。双方が一致している点が一つある。AI開発にブレーキをかける余裕は、どちらにもないということだ。

シリコンバレーではAIが人類を滅ぼす可能性を巡り論争が続いているが、米中両政府はいずれも、テクノロジー覇権争いをより懸念しているようだ。

トランプ政権も習指導部もAI開発を減速させる意向を示していない。この議論は、米アンソロピックの共同創業者ダリオ・アモデイ氏が3800語に及ぶ論考で、歯止めのない進歩の危険性を警告し、開発ペースの「減速」を求めたことで再燃した。

トランプ氏はAIの開発抑制を求める声をほぼ即座に「デマ」だと一蹴し、米国の主導的地位を維持すると表明した。中国側も開発を減速させる理由はほとんどないとみている。その一因は、差を縮めつつあるとはいえ、AI分野でなお米国に後れを取っていることに加え、米エヌビディア製先端半導体へのアクセスを巡る米国の規制に制約されているためだ。

習氏のワシントン訪問は23日に始まる。その直前、中国のアリババグループは最大10兆個のパラメーターを持つ巨大モデルを開発中だと発表した。また、中国で最も高性能だとするAI半導体を投入し、20ギガワット規模のデータセンターを建設する計画も明らかにした。ある試算によると、このデータセンター計画は1600億ドル(約25兆円)のクラウド収入につながる可能性がある。

中国のAI業界ではここ数日、動きが活発化。北京智譜華章科技(Z.AI)と小米(シャオミ)は自社のAIシステムが自ら能力を向上させる仕組みを披露し、華為技術(ファーウェイ)はエヌビディア製プロセッサーの代替を狙う高性能AI半導体の投入を前倒しした。

エージェント型AIのパイオニア、マナスは米メタ・プラットフォームズとの関係がようやく整理された後、次の事業展開に必要な資金を確保するため、評価額40億ドルで資金調達を目指した。中国当局は、いったん決まっていたメタによるマナス買収を阻止した。

欧州政策分析センター(CEPA)テクノロジー政策プログラムのシニアフェローで、元米情報分析官のエリー・ロストゥム氏は「どちらも開発を諦めることも、開発を減速させることも望んでいない。だが、双方とも、これは協議しなければならないほど重大な問題であり、企業同士も話し合う必要があると理解している」と述べた。

中国の低コストなオープンウエートAIモデルは、米国の競合モデルとの差を縮めている

米中双方がAI開発を前進させたいとの意向を共有していることから、24日の首脳会談では、AI開発そのものに速度制限を設けるよりも、対象を絞ったガードレール(歯止め)の設定に重点が置かれる公算が大きい。

一方で、重大なリスクを巡る合意形成に向けた初期的な取り組みも進めている。ベッセント米財務長官はニューヨークで20日に行われた中国側との会合で、米政府がAI関連の事故に対応する緊急ホットラインの設置を提案し、対話の枠組みについて協議したと述べた。

元グーグル最高経営責任者(CEO)エリック・シュミット氏の組織で中国・AI政策研究を率いるセリーナ・シュー氏は、オンライン投稿で「中国はすでに、米国による技術封じ込めと半導体輸出規制によって開発ペースを抑えざるを得ないと認識している」と指摘し、「中国の政策当局者から聞いた言葉の一つは『われわれはすでに減速させられている』というものだ」とコメントした。

オープンウエート推進

米国との差を縮めるため、中国は国内での追い上げと海外での影響力拡大に向けた戦略として、オープンウエートAIに力を入れてきた。中国政府はこの勢いを維持したい考えだ。

DeepSeek(ディープシーク)の「R1」やムーンショットAI(月之暗面)の「Kimi K3」といった急速に台頭したモデルは、世界中の開発者がダウンロードして改変できる。

このため中国の研究機関は互いの成果を基盤に開発を進め、限られた計算資源からより高い性能を引き出すことが可能だ。こうしたモデルは海外でも支持を集め、中国製ソフトウエアが業務フローや製品に組み込まれるのを後押しし、収益化への道を開いている。

例えばムーンショットは、顧客によるモデルの導入やカスタマイズを支援する専門エンジニアのチームを構築しており、中国を皮切りに世界へ展開する計画だ。また、ファイアワークスAIやベーステンといった米国のクラウド事業者と、モデルをホスティングするための商業提携も進めている。

Z.AIはマレーシアの主権型AIインフラ構築を支援した。一方、サウジアラビアの政府系ヒューメインは、中国のミニマックス・グループに対し、同社のオープンモデルの一つを基盤とする国家プラットフォームの構築を委託した。

コストと柔軟性、性能を兼ね備えたこれらのモデルが人気を集めたことで、米国の大手AI研究企業が独自モデルへのアクセスに料金を課すビジネスモデルが脅かされている。

アンソロピックとOpenAIはいずれも、中国企業が最先端モデルの出力を利用し、わずかなコストで競合システムを構築していると主張している。この手法は「蒸留(distillation)」と呼ばれるが、中国側はこれを否定している。

ミニマックスとヒューメインとの契約には、米国の国家安全保障強硬派から直ちに反発が出た。米外交問題評議会のシニアフェロー、クリス・マクガイア氏はX(旧ツイッター)への投稿で、中東諸国が米国製のソフトウエア基盤を利用するとの約束を前提に、米政府がAI半導体の販売に同意したにもかかわらず、サウジが中国の技術を採用したとして、米国は「出し抜かれている」と論じた。

ベッセント氏ら当局者も同様に言及しているこうした疑惑を受け、中国が開発競争を続けるのに必要な計算リソースを断つため、輸出規制の執行が一段と厳格化される可能性もある。

合意の余地

AIのリスクに焦点が移っていることは、長らく中国による先端半導体へのアクセスを制限する米国の措置が中心だった両国の競争関係で、重点が変化していることを示唆している。

輸出規制は依然として大きな緊張要因で、習氏の訪米中にも議題に浮上し得るが、訪問を控えた数日間はこれまでほど注目されていない。

米通商代表部(USTR)のグリア代表は、中国の何立峰副首相や李成鋼商務次官(国際貿易交渉代表)との20日の会談では、輸出規制は議題にならなかったと述べた。中国側は米国による会談内容の説明を確認しておらず、双方がAIについて協議したとだけ明らかにした。

中国が重要鉱物の世界供給を引き続き牛耳っていることは、習氏に重要な交渉力をもたらしている可能性が高い。一方、アリババを含む中国企業は先端半導体の生産に向けた取り組みを加速しており、実現すれば米政府の規制に対する中国の脆弱性は低下する。

ただ、中国もAIテクノロジーの危険性を全面的に退けているわけではない。OpenAIが2022年後半に「ChatGPT」を投入して以降、規制当局はチャットボットを管理する規則を導入し、子ども向けの仮想コンパニオンに対する規制も提案している。

治安当局も、第三者によってこうしたツールが悪用される脅威について警告している。テクノロジー系ニュースサイトのジ・インフォメーションは今週、中国国家インターネット情報弁公室(CAC)がムーンショットとDeepSeekによる潜在的なデータ漏えいについて調査していると報じた。機密性の高いコンテンツを中心に、AI業界への監督を徹底する北京の姿勢を浮き彫りにしている。

こうした懸念は、アモデイ氏が指摘し、OpenAIのサム・アルトマン氏とスペースXAIのイーロン・マスク氏も同調した深刻なリスクとは一致しないものの、トランプ政権との間で共通の立場を見いだせる可能性がある。

米ブルッキングズ研究所のフェロー、カイル・チャン氏は「AIによる存亡に関わるリスクは、中国では実際のところ主要な議題ではなく、中国の政策決定の世界でも主要なテーマではない。一方、サイバーセキュリティーや生物兵器、非国家主体といった、AIがもたらす他の主要リスクを巡る懸念には、共通する部分が増えている」と語った。

ただ、こうした分野で何らかの合意に達するには、相手側が真剣に安全性の確保に取り組んでいるのか、それとも単に優位に立とうとしているだけなのかを巡る根深い不信を乗り越える必要がある。

アモデイ氏は、中国がAI分野で優位に立つのを阻止することが安全確保の上で極めて重要だと主張し、この立場を輸出規制の強化を正当化する根拠としてきた。

中国政府はこうしたロジックについて、安全性を求める声が中国封じ込めの根拠として利用され得る証拠だとみており、「恐怖をあおる」と批判している。

コンサルティング会社アジア・グループのパートナー、ジョージ・チェン氏は「両国間の信頼水準が低いため、協力は依然として限定的だ」と予想。中国政府は、米政府がAIやその他の新興技術分野で中国の台頭を抑え込もうとしているとの見方を引き続き持っており、こうした認識が今後の関与のペースと範囲を左右すると分析した。

原題:Xi and Trump Seek Safe AI Without Slowing the Race for Supremacy(抜粋)

--取材協力:Luz Ding、Saritha Rai、Rebecca Choong Wilkins、Vlad Savov.

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