世界各地で原油輸送コストが高騰しており、一部の長距離ルートの取引では採算が合わなくなってきている。燃料市場がかつてないほど逼迫(ひっぱく)する中、原油の流れに支障をきたす恐れがある。

背景には、利用可能なスーパータンカーが不足していることがある。地域によっては、超大型原油タンカー(VLCC)がほとんど借りられない状態になっている。そのため遠隔地からの原油調達の魅力が薄れ、製油会社は近場からの供給確保に切り替え始めている。

ヒューストンからアジアまでの原油輸送では現在、1バレル当たり約26ドル、タンカー1隻当たり5200万ドル(約81億5800万円)の追加コストが生じている。これはウェスト・テキサス・インターミディエート(WTI)先物価格のおよそ4分の1に相当する。戦争前は、輸送費が供給コストに占める割合はごくわずかだった。

運賃高騰で、タンカー市場を支配する少数の船主は巨額の利益を手にしている。業界幹部やブローカーからは、今回の上昇は従来なら想像もできなかった水準だとの声が聞かれる。

一方、原油トレーダーにとってのリスクは、輸送コストが許容できない水準まで上昇することだ。運賃高騰で一部の製油会社では原油をガソリンや軽油に精製しても採算が取れなくなっており、需要が強くても、長距離輸送が必要な原油の購入を控える恐れがある。

業界の主要指標となる航路では、ペルシャ湾から中国へ原油200万バレルを運ぶVLCCの収益が1日当たり120万ドルを超えている。同様の上昇圧力は世界の海上運賃市場全体に広がりつつある。

商品取引大手トラフィギュラ・グループのチーフエコノミスト、サード・ラヒム氏は17日のブルームバーグのイベントで、「原油輸送がこれほど高くなったことはない」と述べた。輸送費の負担が一段と重くなる中、「物流という観点で考えると、今やはるかに大きな問題になっている」と指摘した。

戦争によるエネルギー供給の混乱後に重要性を増していた一部の長距離航路も、運賃急騰で魅力を失いつつある。

船舶追跡会社ボルテクサのデータによると、米国からアジアへの原油輸送はここ数週間で減少した。運賃がおよそ3倍に上昇しているためだ。事情に詳しい関係者によれば、出光興産は最近、国内の精製設備には必ずしも適していないアラスカ産原油を購入した。輸送距離が比較的短いことが理由だったという。

一方、近場の原油に対する需要の強さは欧州の原油価格に表れている。

北海ブレント先物が先週1バレル=110ドル近辺まで上昇する一方、原油現物取引の世界的指標であるデイテッド・ブレント(積載日確定後のブレント原油)は131ドルを上回った。

買い手が短距離輸送で調達できる原油を奪い合っていることが押し上げ要因となっている。サウジアラビアが欧州の買い手に対し、長期契約に基づく来月分の原油を割り当てなかったこともあり、欧州の製油会社は中東産原油の代替確保を急いでいる。

さらに遠方では、通常なら数千キロを航行して中国の買い手に向かうアンゴラ産原油の販売が低調だ。

データ分析会社ケプラーのモデリング担当シニアマネジャー、スミット・リトリア氏は、「現在の運賃水準は、時間の経過とともに自ら上昇を抑える要因になり得る」と指摘。「最終的には裁定取引のルートを閉ざし、最も輸送コストの高い長距離原油への需要を減らす」と述べた。

Photographer: Mark Felix/Bloomberg

影響はより小型のタンカーにも及んでいる。

アジアの製油会社は米国産原油の一部調達で、通常使うVLCCではなく、積載能力約70万バレルのアフラマックス型タンカーを利用し始めた。ブラジルを含む大西洋岸の港から積み出す原油では、200万バレル積みのVLCC1隻ではなく、100万バレル積みのスエズマックス型2隻を手配する動きも出ていると、トレーダーや船舶ブローカーは話す。

収益も押し上げられている。スエズマックス型の平均収益は1日30万ドルを上回る。通常は戦争地域を航行する際に見られる水準だ。

今回の急騰をもたらした主因は2つある。米国とイランの戦争による波及効果と、戦争開始前から運賃を押し上げていた韓国のある実業家による巨額の賭けだ。

ホルムズ海峡を通る原油タンカーは、オマーン付近での積み替えで拘束時間が長期化している。地中海で原油を積み込むためアフリカを大きく迂回する船もある。さらにアジアの買い手は、中東産の不足分を米州からの長距離輸送で補ってきた。こうした動きにより、利用可能なタンカーが減り、運賃を押し上げている。

原油トレーダーにとって最大の焦点は、高止まりした運賃がいつまで続くかだ。欧州のディーゼル先物は1バレル=200ドル近辺にあり、域内の製油会社が依然として確保できる原油を可能な限り必要としていることを示している。

ボルテクサのシニア市場アナリスト、ザビエル・タン氏は、「これまで運賃が原油の供給コストに占める割合は大きくなかったが、現在は原油市場への影響が格段に大きくなっている」と指摘。「それが最終需要家にも波及している」と述べた。

原題:World Running Short of Supertankers Threatens Long-Haul Oil Flow(抜粋)

--取材協力:Weilun Soon.

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