要点

・高市政権は、官民投資を通じた供給力強化と経済成長を目指す。
・財政規律の曖昧さや対象分野の広さが、今後の政策課題である。
・政府はバラマキを防ぎ、成長と財政・物価の安定を両立すべき。

骨太方針と日本成長戦略を決定

高市政権は7月21日、「経済財政運営と改革の基本方針」(骨太の方針)と「日本成長戦略」を閣議決定した。両文書には、官民の戦略投資を通じて供給力と稼ぐ力を高め、成長による税収増を通じて財政の持続可能性を確保しようとする姿勢が色濃く表れている。一方で、財政規律遵守の実効性を巡っては、市場の信認を十分に得られるかについて懸念の声が聞かれる。また、外国人政策や地方創生などには、高市政権の独自色がみられる。金融政策面では、追加的な金融引き締めが意識される局面にあるなか、政権と日銀の適切な距離感をいかに確保するのかが大きな課題となっている。

本稿では、こうした政策環境を踏まえ、高市政権の経済政策について、成長戦略、財政・社会保障、金融政策、地方創生・副首都構想、外国人政策の観点から、個々に評価と課題を整理する。

高市政権の政策の概観

まず全体像をみると、高市政権の政策運営は総じて成長重視の色彩が強い。世界的に政府主導の産業政策が復権し、経済安全保障や重要技術を巡る国家間競争が激しさを増すなか、官民投資を通じて供給力を高めようとする方向性は、国際的な潮流に沿ったものと評価できる。財政面では、「財政の持続可能性」の実現に向けた「中長期経済財政計画(計画期間は 2027~2040年度)」が示された。複数年度で予算運営を管理する枠組みは、諸外国でも財政規律の向上を目的に導入されており、財政運営に対する信認を確保するうえで重要な一歩といえる。金融政策についても、日本銀行の独立性に一定の配慮が示された点は前向きに評価できる。さらに、外国人政策、地方創生、防災など、国民の関心が高い分野について具体的な方向性が示されたことも注目される。

もっとも、課題も少なくない。成長戦略については対象分野が多く、政策資源の分散を招く懸念がある。財政政策では、具体的な数値目標や達成期限が示されておらず、規律遵守の実効性に不安が残る。加えて、GDPギャップがプラス圏で推移すると見込まれるなか、積極財政がインフレ圧力を高めるリスクにどう対処するかについて、丁寧な説明が求められる。金融政策では、日銀の独立性への配慮はみられるものの、政府との役割分担と連携のあり方が引き続き論点となる。外国人政策では秩序維持の視点のみならず、AI等の技術革新が労働需要に与える影響を踏まえた長期ビジョンが必要である。地方創生・副首都構想についても、実効性を高める制度設計が今後の課題となる。

以下ではこれらの項目について、具体的に考えるポイントを整理したい。

成長戦略~次の課題は「選択と集中」

成長戦略については、世界的な経済政策の潮流を踏まえた点が評価できる。世界銀行が公表した「Industrial Policy for Development」は、各国で政府主導の産業政策が力強く復活している(back with a vengeance)と指摘している。こうしたなか、骨太方針が示すように、政府の動きを呼び水として民間投資を引き出し、供給力と稼ぐ力を高めることで経済成長を実現しようとする方向性は、国際的な潮流と整合的である。

高市政権が描く成長の軌道は、大きく二つに整理できる。第一は「危機管理投資」である。経済安全保障、食料安全保障、エネルギー・資源安全保障、健康医療安全保障、国土強靱化、サイバーセキュリティなど、各種リスクや社会課題に対応し、経済的威圧に左右されにくい日本の「自律性」を確保することを目指すものである。あわせて、そこから生まれる製品・サービスを国内外に提供することで世界における日本の「不可欠性」を高め、国際的な交渉力と安全保障上の基盤を強化しようとする意図がうかがえる。

第二は、先端技術を育成する「成長投資」である。日本が優位性を有する技術を活用した事業展開を促進し、模倣困難な科学技術や新たな付加価値を生み出すイノベーションを通じて、「強い経済」の基盤を確保することが狙いである。骨太方針では、ここでも「不可欠性」が示唆されており、政権の安全保障に対する意識の高さが読み取れる。

世界的に地政学リスクが高まるなか、経済安保を念頭に成長戦略を推進することは国際情勢に即したものと評価できるだろう。

一方で、課題もある。第一は、対象分野の多さである。前述の世界銀行レポートによれば、低所得国は平均して 13 分野、先進国ではその半分以下を重点分野としている。これと比較すると、17分野という設定はやや広範に過ぎる印象がある。限られた政策資源を有効に活用するためには、対象分野の選択と集中を進める必要がある。

第二は、産業政策を実施するための運営体制である。前述の世界銀行レポートは、政治からの中立性に配慮した実施機関の運営、低コストの公的支援、市場インセンティブの活用、マクロ経済的な介入リスクへの警戒などを重視している。骨太方針や日本成長戦略では、「5W1H を念頭に置いた上で、今後の概算要求段階を含めた予算編成過程等において、複数年にわたる施策の具体化と施策の実行状況や技術の開発動向等を踏まえたブラッシュアップや見直しを行う『PDCA メカニズム』を、日本成長戦略会議の下で定期的に繰り返していく」とされ、ばらまきを排除しようとする問題意識はみられる。もっとも、その実効性を担保する具体的な体制は現時点で必ずしも明確ではない。産業政策は、適切に設計されなければ非効率な支出の垂れ流しにつながるリスクを伴うため、実施体制の整備が次の課題となる。

3点目が、民間投資をいかに刺激できるかである。財政資金だけでなく、GPIF や NISA の資金等がうまく活用できるかがポイントとみられ、そのための制度的枠組みを急いで議論すべきである。

4点目が規制改革である。規制改革は概して即効性は乏しいものの、財政出動を抑制することができるほか、長期的には民間企業の成長を促して大きな効果を発揮すると期待される。高市政権ではあまり規制改革を重視していないが、いまこそ規制改革を進める必要がある。

財政政策~シーリング廃止の結果、概算要求が過去最高を記録

高市政権においては、「財政の持続可能性」の実現に向けた「中長期経済財政計画(計画期間は 2027~2040年度)」を示したが、財政計画や歳出計画を通じて複数年度にわたり予算運営を管理する手法は、財政規律の向上を目的に広く諸外国で導入されており、財政運営に対する信認を確保するための重要な一歩といえる。

今回の「中長期経済財政計画」では、経済動向や財政指標の分析、経済・財政見通しの推計などに関し、「市場の信認確保と分析・検証の強化」が盛り込まれたほか、「経済財政諮問会議において、原則として5年ごとに包括的な検証を行う」ことが明記されたことは評価できる。

課題としては、具体的な数値目標と期限が欠如していることである。まず、財政運営の目標として、「国・地方の総債務残高対 GDP比の安定的低下」を中核に位置付けるとしたが、目標とする債務残高対 GDP比の水準や達成時期は示されていない。また、基礎的財政収支(PB)は、「単年度の黒字化時期を機械的に追うのではなく、経済・金利環境、歳入歳出の動向を踏まえ、景気変動や危機管理投資・成長投資の必要性に応じて一時的な悪化も許容し得る」と明記された。前年度の骨太の方針では、2025年度から 2026年度の早期に PB黒字化を目指すことや、「債務残高対 GDP比をコロナ禍前の水準に向けて安定的に引き下げる」、という具体的な期限や水準目標が設定されていた。これに比べると、規律の明確さは大きく後退した印象である。さらに、毎年度の予算編成のベースとなる歳出総額や国債発行額についても、「今後の予算編成に当たっては、税収動向等を見極めつつ、歳出・歳入両面の見直しを進めることと併せて、債務残高対 GDP比を安定的に引き下げていく中でも可能となる財政規模を精査し、市場の信認確保に配意しつつ、通年の国債発行額などを具体化する」とのみ記されており、上限や目安となる数字は示されていない。

諸外国の財政計画では、「〇年度に経常予算を黒字化する」、「〇年度に債務残高対 GDP 比を〇%まで低下させる」といった具体的な目標を設定したうえで、毎年度の歳出額の上限や目安を示す例が少なくない。財政目標の達成に向けた予算運営の足取りを評価し、適切に見直していくためにも、政府は財政目標に明確な期限や水準目標を設けるとともに、毎年度の歳出総額の目安を示す必要がある。

また、成長分野や危機管理投資については、要求額の上限となる「シーリング」を設けず、大胆な投資を促す方針が示された。片山財務相は閣議了解後の記者会見で、今回の概算要求基準について「時代の変わり目を象徴する画期的なもの。もはやシーリングと呼ぶべきものはない」と説明している。こうしたなか、概算要求額は過去最高水準である約 143兆円と、26 年度要求額(122.4兆円)を大幅に上回り、4年連続で過去最大を更新した。政府は概算要求について、25年度補正予算と 26年度当初を足し合わせた 140.6兆円を目安としてきたが、それを上回っている。さらに、要求段階で金額を示さない「事項要求」も加わるため、歳出は一層拡大することとなる。

年末にかけて財務省と各府省との折衝が本格化するが、歳出拡大圧力をどのように抑制し、成長投資の質をどのように担保するかが注目される。

当社では、わが国の GDPギャップは今後プラス圏で推移すると見込んでいる。こうした需給ひっ迫が意識される局面で、財政支出を拡大する政策運営を進める場合には、インフレ圧力を一段と強めるリスクにどう対処するかについて、政府は丁寧に説明する必要がある。また、当社では、日本銀行が今後、半年に1回程度、0.25%ずつ政策金利を引き上げ、最終的に2%程度まで利上げを進めると想定している。長期金利についても緩やかな上昇基調が続くとみられ、政府の利払い費が増加する可能性は高い。金利上昇局面において財政運営への市場の信認を維持するためにも、成長力強化と並行して、財政健全化に向けた道筋をより明確に示すことが重要である。

社会保障~2年後、参院選挙前に消費税引き上げを実施できるか

社会保障分野で注目されるのは、給付付き税額控除と、そのつなぎ措置としての食料品に対する消費税率引き下げである。給付付き税額控除については、2029年度から本格導入される予定であり、導入当初は税額控除の仕組みを用いず、減税相当分をまとめて現金給付する「給付一本化」で開始する方針が示されている。日本では、低中所得層の税・社会保障負担率の上昇度合いが OECD 諸国に比べて急であるとの指摘があり、その是正に加え、単なる低所得者向け給付にとどまらず、就労促進型の所得連動支援として年収の壁に対応する狙いがあるとみられる。この点は一定程度評価できる。食料品の消費税率引き下げについても、時限措置とされた点は財政規律への配慮がうかがえる。

また、骨太方針には、「社会保障関係費については、現役世代の保険料率の上昇を止め、引き下げていくとの方針の下、国費だけではなく、給付費全体、公費・保険料負担、現役世代の可処分所得などを踏まえ、給付と負担の改革を継続していく」と明記された。これまで上昇してきた税・社会保険料を含む国民負担率の抑制に向けた姿勢を示したものといえ、この点も評価できる。

一方で、課題も残る。第一に、給付付き税額控除については、制度の早期実施を優先する結果、所得把握のためのデジタル化が遅れる可能性がある。適切な課税と給付を実現するためには、所得・資産情報を正確に把握するためのデジタル基盤整備を急ぐ必要がある。第二に、時限的に引き下げた消費税率を2年後に確実に元に戻せるかが大きなポイントとなる。高市総理は、「消費税」が貴重な社会保障財源であるとの認識を示したうえで、財政の持続可能性と市場の信認を確保する観点から、「2年後に責任を持って税率を元に戻す」と発言している。もっとも、2028年には参議院選挙が予定されており、2029年4月の増税(税率の復元)が政治的に困難となる可能性も否定できない。総理は、景気条項を盛り込む必要はないとの考えを示す一方、感染症や大災害時に消費税率を柔軟に変更できる制度の必要性にも言及しており、税率変更を巡る不確実性が残存している点には留意が必要である。消費税は、歴代政権の制度設計の積み重ねにより、現在では税収全体の3割程度を占める基幹税となっている。国際比較でみても、標準税率や食料品にかかる税率は必ずしも高い水準ではなく、社会保障財源としての安定性を損なわないよう、確実に税率を復元することが重要である。

金融政策~日銀の独立性の担保が不可欠

骨太方針では、日本銀行法第3条が定める「日本銀行の通貨及び金融の調節における自主性は、尊重されなければならない」との趣旨を踏まえ、「金融政策の具体的な手法については日本銀行に委ねられる」との文言が脚注に盛り込まれた。日本銀行の独立性に一定の配慮が示された点は評価できる。骨太方針の原案段階で日銀の独立性を巡る市場の懸念が強まり、長期金利が上昇したいわゆる「骨太ショック」を受けて修正が行われたとみられるが、金融市場への配慮という観点でこれは前向きに捉えられる。

一方で、政府と日本銀行の連絡・協議を定める日本銀行法第4条に関する記述は、本文に置かれている。本文と脚注という位置付けの違いを踏まえると、方針全体が意味するところとして、政府が金融政策に一定程度関与し得る余地があると市場が意識する可能性は残る。

また、報道では、高市総理が日銀総裁に国債買い入れを要請したとも伝えられている。事実関係は不明ながら、こうした報道自体が市場に日銀の独立性への疑念を生じさせる可能性がある。物価安定と財政運営への信認を両立させるためにも、政府は日本銀行の独立性を尊重し、適切に連携・役割分担していく姿勢を明確に示す必要がある。

動き出す地域未来戦略――次の課題は実行体制

地方創生についても、成長戦略を踏まえた政策の方向性が打ち出された。具体的には、①地域未来戦略の推進、②都道府県の枠組みを超えた戦略産業クラスター計画の実施、③地域未来交付金の拡充、④特区制度を活用した規制・制度改革、⑤地方大学・産業創生法の施行状況を踏まえた若者の修学・就業の促進支援、などが明記されている。

これらの政策は、これまで政府が進めてきた地方創生の方向性とおおむね整合的である。一部には、石破政権期に比べて地方創生への政策的な優先度が低下するのではないかとの見方もあったが、今回、幅広い政策メニューが盛り込まれたことで、そうした懸念は一定程度払拭されたとみられる。

もっとも、課題も少なくない。まず、地域未来戦略については、方向性は正しいものの、過去に同様のクラスター戦略が十分な成果を上げられなかった事実に目を向ける必要がある。過去に成功している地域には、①地域の強みに特化している、②良いものを作るだけでなく、全国・世界に向けて積極的に発信している、③地域の大学等を有効に活用している、④地域を牽引するリーダーが存在し、スタートアップ企業のようなスピード感で行動している、といった特徴がある。したがって、議論や計画に過度に時間をかけることなく、実行を最優先すべきである。

また、特区制度については、これまで小粒な規制緩和にとどまるケースが少なくなかった。今後は、地域経済の起爆剤となり得る抜本的な規制緩和を認め、特区制度をより広範な規制改革の突破口として活用していく必要がある。地域未来交付金についても、単なる補助金のばらまきに陥らないよう、その効果を丁寧に検証していくことが不可欠である。政権が積極財政を標ぼうしているなかでは、特に警戒が必要であろう。さらに、地方大学が「地域のシンクタンク」として機能できるよう、改革を進めるべきである。例えば、地方大学を含む大学全体が資金難に直面しているなか、地域の資金が地域大学の活性化につながるよう、資金の地産地消を促す税制や金融商品の開発を支援することが考えられる。あわせて、大学の資産運用等に関する適切な規制改革も検討すべきであろう。

また、骨太方針では、防災・減災、国土強靱化の推進の一環として、副首都の整備も明記された。ここでのポイントは、①国家・社会機能の継続性の確保、②多極分散型経済圏の形成、③規制改革等を含む各種制度を活用した経済成長に資する施策の展開、である。日本は自然災害が多い国であり、南海トラフ地震がいつ発生してもおかしくないなか、首都機能を代替する備えは喫緊の課題であり、それに応える政策である。同時に、長年の課題である東京一極集中の是正にも資する政策といえる。

もっとも、各地域が副首都に名乗りを上げるなかで、地域活性化の側面が前面に出過ぎており、災害時に国の司令塔機能を担うという使命の重大さをどこまで共有して議論されているかについては不安も残る。副首都機能の獲得は単なる地域振興策ではなく、国を守るための責務であることを明確に位置付ける必要がある。また、一つの都道府県や政令市だけでは機能面で副首都として十分でない可能性があり、都道府県間の連携のあり方についても議論を深めるべきである。加えて、現在、政府の第34次地方制度調査会では「大都市地域における行政体制、地方制度のあり方」が議論されており、副首都構想はその議論とも連動させる必要がある。副首都構想を個別の政策として完結させるのではなく、地方自治制度全体の改革と一体的に進めるべきである。

さらに、骨太方針では副首都において規制改革等を含む各種制度等を活用することが明記されているが、そのためには新たに設ける副首都をまさに規制改革の実験場として位置付け、特区制度等を効果的に活用していくことも検討すべきであろう。

高市政権の外国人政策―秩序だけでなく、技術変化等を踏まえた長期ビジョン作成を急ぐべき

高市政権では秩序ある共生という方針のもと、外国人政策について秩序維持の観点に重きを置いた政策を推し進めている。具体的には、①一部の外国人による違法行為やルール逸脱に毅然と対応し、国民の不安や不公平感の解消に向けた取り組みを強化すること、②在留許可手数料の見直しや電子渡航認証制度(JESTA)の導入によって確保する財源を外国人政策に活用すること、③「不法滞在者ゼロプラン」を強力に推進し、不法就労対策に必要な体制を整備すること、④一部の民泊で地域住民とのトラブルが生じていることを踏まえ、適切な運営の確保を徹底すること、⑤外国人に対する日本語や日本の制度・ルールに関する教育を充実させること、などである。

わが国に在留する外国人が 400 万人を超えるなか、今後の受け入れがなし崩し的に拡大することを避け、制度面の整備に着手した点は評価できる。まさに秩序ある共生に向けた第一歩といえるだろう。海外諸国でも、外国人の居住や移民受け入れをめぐる世論は、かつてほど寛容ではなくなっており、受け入れ抑制や国内秩序の維持に目を配るようになっている。とりわけ、先般、スペイン領セウタに多数のモロッコ人が流入した事例にみられるように、移民・難民を先進国に大量に送り込み混乱を生じさせる「移民・難民の武器化」への警戒感も高まっている。今回の方針は、秩序維持という国際的な潮流と整合的なものといえよう。

もっとも、外国人の受け入れをめぐる状況は地域や業種によって大きく異なる。外国人材の受け入れに比較的余裕のある地域がある一方、生活インフラや行政サービスがひっ迫している地域もある。また、業種によっては人手不足が深刻であり、外国人材への依存度が高まっている分野も少なくない。したがって、全国一律の制度設計にとどまらず、地域の受け入れ余力や産業構造を踏まえた、きめ細かな政策対応が不可欠である。

加えて、今後の外国人政策を考えるうえでは、技術革新が労働需要に及ぼす影響をより明示的に織り込む必要がある。AIやロボットの普及は、ホワイトカラー業務だけでなく、ブルーカラー業務にも影響を及ぼす可能性がある。実際、AIの導入が進む米国や中国では、労働力不足への対応だけでなく、技術代替による雇用維持のあり方も重要な論点となっている。すなわち、将来の政策課題は「人手不足」への対応に限らず、「人手余り」が生じるリスクへの備えにも及ぶ。

政府は8月7日、「外国人の受入れの基本的な在り方の検討のためのワーキンググループ」の初会合を開いた。同会合では、人口戦略本部における「総合的な戦略」との整合性に配慮する方向が示された。少子化対策が奏功すれば、外国人労働者への依存度が低下する可能性もあるため、人口戦略との整合性を確保する視点は不可欠である。

一方で、外国人が社会経済に与える影響は検討事項に含まれているものの、AIなどの技術革新が必要な外国人労働者数をどの程度変化させるかという論点は、必ずしも十分に取り上げられていない。外国人政策を持続可能なものとするには、人口動態、地域の受け入れ余力、産業別の人手不足に加え、AI・ロボット等による労働需要の変化を統合的に見通す長期戦略が求められる。

以上を踏まえると、高市政権の経済政策は、成長投資や経済安全保障を重視する点で国際的な潮流に沿ったものであり、方向性としては評価できる。一方で、政策効果を高めるには、重点分野の絞り込み、財政規律の明確化、金融政策の独立性の担保、地方創生・副首都構想の実行体制、外国人政策の長期ビジョンといった課題への対応が欠かせない。成長力強化と財政・物価の安定を両立させる政策運営が求められる。

(※情報提供、記事執筆:日本総合研究所理事/調査部長/チーフエコノミスト 石川智久)