要旨
・アメリカとイランの協議が決裂し、中東の軍事的緊張が再び高まった。
・フーシ派がサウジを攻撃し、原油の迂回ルートが寸断された。
・輸送網寸断と需給逼迫で、価格が一段と高騰している。
イラン情勢を巡る不透明感が高まり、原油価格は再び上昇基調を強めている。米国とイランは6月、停戦合意に向けた14項目の「覚書」に署名し、60日間の停止期間中に追加協議を行うことで合意した。米国とイスラエルによるイランへの軍事行動をきっかけに、原油価格は大幅に上昇したものの、停戦合意を受けて一転して調整の動きを強めた。しかし、米国とイランの主張には数多くの相違点があり、協議の行方は見通せない状況が続いた。なかでも、ホルムズ海峡の管理を巡る認識の相違は、その後も米国とイラン双方による攻撃の応酬を招くことにつながった。
米国とイランが攻撃の応酬をみせるなか、イランはイエメンの親イラン勢力(フーシ派)を通じて、紅海とアデン湾をつなぐ海上輸送の要衝であるバブ・エル・マンデブ海峡の封鎖を警告した。その後、フーシ派はサウジアラビアに海上封鎖を宣言し、サウジが主導する有志連合は船舶への脅威に武力対応する方針を示したことで戦火が拡大する懸念が高まった。一方で、早期の事態鎮静化を目指す湾岸諸国の要請に応じ、トランプ米大統領は7月末にイランへの攻撃を一時停止し、外交交渉を継続する考えをみせた。なお、米国が攻撃を一時停止した背後には、米軍の防空迎撃ミサイルの備蓄が減少しており、追加攻撃のハードルが高まったことが影響したとの見方もある。とはいえ、イランも報復攻撃を一旦控える方針を示し、表面上は沈静化に向かうことが期待された。
しかし、その後も両国の協議が進展する兆しはみられず、イランは米国に対して6項目の新条件を提示した。具体的には、①戦争に伴う損害の完全な補償(賠償金の支払い)、②イランに対する経済制裁の全面解除、③凍結されたイラン資産の無条件解放、④米軍によるイラン周辺地域や港湾封鎖の撤収・解除、⑤イランに対する侵略・攻撃・暗殺の完全停止、⑥ホルムズ海峡におけるイランの主権行使の容認、とされる。これに米国も対抗する構えをみせたことで協議は平行線をたどり、8月16日に60日間の協議期間は終了した。
原油高が一服した背景には、前述した米国とイランによる停戦合意に加え、次のような要因もあった。イラン情勢が悪化する前には、世界の原油需要の2割がホルムズ海峡を通過していた。しかし、イランによる事実上の封鎖や米国による逆封鎖により安全な航行が困難になった。このため、UAE(アラブ首長国連邦)はペルシャ湾岸のハブシャーン油田とフジャイラ港をつなぐADCOP(アブダビ原油パイプライン)を通じ、サウジも大規模石油コンビナートがあるアブカイクと紅海のヤンブー港をつなぐEast-West石油パイプラインを通じ、ホルムズ海峡を回避する形で原油輸出を拡大させた。これらを通じた原油輸出量はホルムズ海峡経由に比べて小規模にとどまるものの、最悪の事態は回避されるとの期待につながった。米国とイランはホルムズ海峡を巡って対立しているものの、イランとオマーンは8月末にホルムズ海峡の新航路に関する協議が基本合意に至り、その後も詰めの協議が行われたことも事態打開につながるとの見方を後押しした。
こうした期待は足元で大きく変化している。フーシ派は紅海周辺における支配力を強め、9月11日にEast-West石油パイプラインへのドローン攻撃を実施し、サウジは稼働停止を余儀なくされた。フーシ派は、バブ・エル・マンデブ海峡を支配下に置いていると表明、13日にはサウジ南部の軍事基地をドローンやミサイルで攻撃した。これを受けて、イランとオマーンは9月14日に前述したホルムズ海峡の新航路に関する会合を予定していたものの、直前になって開催が延期されたことをオマーンが明らかにした。背景には、フーシ派が軍事行動を活発化させ、サウジをはじめとするアラブ諸国の間で、フーシ派の背後にあるイランへの反発を強めたことが影響したとみられる。この結果、原油価格は上昇を強め、足元では4ヵ月ぶりの水準となっている。

ホルムズ海峡、バブ・エル・マンデブ海峡ともに、事態の悪化を受けて通行する船舶の数が減少しているうえ、迂回路を経由した輸出も困難になっており、世界的な原油需給はひっ迫が避けられなくなっている。さらに、East-West石油パイプラインの復旧には数週間以上かかるとみられ、当面の原油価格は高止まりするとともに、一段と上昇するリスクも高まっている。
(※情報提供、記事執筆:第一ライフ資産運用経済研究所 経済調査部 主席エコノミスト 西濵 徹)