長期金利5%再来、しかし23年とは景色が異なる
米10年金利は9月14日に一時5%を超え、2023年10月以来の高水準となった。10年名目金利だけを見ると、2026年9月14日の4.99%と2023年10月19日の4.99%はほぼ同じ水準である。しかし、その内訳を見ると両局面は大きく異なる。
26年9月14日 23年10月19日
10年名目金利 4.99% 4.99%
10年実質金利 2.60% 2.50%
10年BEI 2.38% 2.49%
2年名目金利 4.66% 5.16%
2年実質金利 2.12% 3.12%
2年BEI 2.53% 2.13%
まず、10年実質金利は足元が2.60%であり、2023年10月の2.50%を上回っている。一方、10年BEI(インフレ予想)は2026年が2.38%、2023年が2.49%であり、現在の方が低い。すなわち、同じ5%近辺の長期金利であっても、今回はインフレ懸念による押し上げ効果が比較的小さく、実質金利主導で金利が上昇していることが分かる。
さらに2年金利を比較するとその違いは一段と鮮明である。
2023年10月の2年名目金利は5.16%だったのに対し、現在は4.66%と約50bp低い。実質金利ベースでは、2023年10月の2年実質金利が3.12%であったのに対し、現在は2.12%と約100bp低い。2年金利がFRBの政策金利パスを反映しやすいことを考慮すると、現在は当時ほど金融引き締めへの警戒感が強くないことが窺える。
23年秋は「Higher for Longer」がテーマだった
2023年秋の金利上昇局面では、「Higher for Longer」が市場の中心的なテーマだった。
米景気が予想以上に底堅く推移し、雇用市場も強さを維持する中で、FRBはインフレ抑制のため高金利政策を長期にわたって維持するとの見方が広がった。市場では追加利上げの可能性も意識されており、政策金利の到達点(ターミナルレート)が従来想定より高いのではないかという見方が長期金利を押し上げていた。
その結果、政策金利パスを反映しやすい2年金利が大幅に上昇し、それに伴って実質金利も上昇していった。言い換えれば、2023年10月当時の10年実質金利の高さは、かなりの部分がFRBによる引き締め継続観測の反映だったと考えられる。
これに対し現在は、2年金利や2年実質金利が当時より大幅に低い。FRBによる追加引き締めを市場が2023年秋と同程度に織り込んでいるわけではないにもかかわらず、10年実質金利は2023年を上回っているのである。
このことは、現在の長期金利上昇の背景がFRBの政策金利パスだけでは説明できないことを意味する。市場が意識しているのは、米国の財政赤字拡大や国債発行増加、さらにはAI関連投資などを背景とした資金需要の増加であり、債券市場の需給悪化や財政リスクが実質金利を押し上げている可能性が高い。
なぜ23年の金利上昇は止まったのか
2023年10月にピークを付けた長期金利は、その後急速に低下した。10年国債利回りは2023年末には3.885%まで低下し、ピークから111bpの下落となった。内訳を見ると、10年実質金利は79bp、2年実質金利は82bp低下した。
背景にあったのは、インフレ圧力の緩和である。
物価指標の伸びが徐々に鈍化し、高金利の影響で住宅市場や企業活動にも減速感がみられたことで、市場はFRBの追加利上げ観測を後退させた。やがて「利上げ終了」から「利下げ開始」へと見方が変化し、実質金利全体が低下していった。
同時に株式市場にも調整圧力がかかった(筆者は経済指標の軟化よりも、株価の下落がFRBのハト派化には重要だったとみている)。S&P500指数は2023年7月末から10月末にかけて約8.6%下落した。株価調整そのものが金融環境の引き締めにつながり、結果的にFRBによる追加引き締めの必要性を低下させるという循環が働いたのである。
今回の解決策はより厳しいものになる可能性
もちろん今回も、長期金利の上昇が続けば株価に対する逆風は強まるだろう。
政府から財政健全化に向けたメッセージが発せられるなど、先手が打たれなければ、株価調整が政策修正や民間部門のバランスシート調整を促す展開になる公算である。しかし、今回の金利上昇要因がFRBの引き締め観測ではないとすれば、解決に向けた動きは2023年より複雑になる。
FRB起因の金利上昇であれば、FRBがハト派化することで金利は低下しやすい。利下げ観測が強まり、景気刺激期待も高まるため、株価は比較的早期に反発しやすい。
しかし、金利上昇の背景が政府債務や債券需給の悪化にある場合、金利低下のためには政府による財政健全化や民間部門によるデレバレッジが必要となる。
ところが財政健全化もデレバレッジも、短期的には需要を抑制するため景気にとってはマイナス材料である。
筆者は、最終的にはどのような経路をたどるにせよ、米国経済は財政健全化あるいは民間部門のバランスシート調整を迫られると考えている。その過程では実体経済の減速圧力が強まり、長期金利もいずれ低下に向かうだろう。ただし、そのシナリオは2023年末のような「FRB利下げ期待によるゴルディロックス相場」とは異なる。金利低下が景気や企業収益の悪化を伴うのであれば、株価の反発力は2023年末から2024年初に見られたほど強くならない可能性が高い。
今回の5%到達は、単なる金融政策サイクルではなく、米国経済が抱える財政と資金需要の問題を市場が改めて意識し始めた局面として捉えるべきだろう。
(※情報提供、記事執筆:大和証券 チーフエコノミスト 末廣徹)