(ブルームバーグ):世界的な債券売りが進んでいるが、ウォール街を揺るがすほどの打撃にはなっていない。資金調達コストの見直しは進んでいるものの、通常ならみられるリスク資産からの資金逃避にはつながっていない。
4日には市場の底堅さが改めて試された。予想を上回る米雇用統計を受け、市場では米連邦準備理事会(FRB)が15-16日の連邦公開市場委員会(FOMC)会合で利上げに踏み切るとの観測が強まり、米国債は売られた。ドルは再び上昇したほか、S&P500種株価指数は下落して引けたが、週間ではプラスを確保した。ナスダック100指数も週間ベースで上昇した。
注目すべきは、債券市場の混乱が他の市場にほとんど波及していない点だ。信用スプレッドは低水準を維持し、リスク資産の下落に備えるヘッジコストもなお比較的低い。市場機能の悪化も一部にとどまっている。JPモルガン・チェースによると、米国債市場の流動性が急速に悪化している一方、株価指数先物や社債の上場投資信託(ETF)では米国債市場に匹敵するようなストレスがほとんどみられない。

力強い経済成長と企業利益が、市場を金利上昇の影響から守る大きな支えとなっている。AI主導の色彩がますます濃くなっている市場では、投資ブームをけん引する企業が巨額の投資計画を進められるだけの利益を上げ、投資家も引き続き資金を提供する姿勢を示している。一方、貿易ショックやイラン紛争による相場変動でも、資産を持ち続ける戦略が繰り返し報われてきた。
シュワブ金融調査センターの債券調査・戦略責任者コリン・マーティン氏は「金融環境は依然として緩和的で、信用スプレッドも驚くほど低い水準にとどまっている」と指摘。「企業利益が前年同期比で20%を超える伸びを示している状況では、足元の企業借り入れコストを企業がそれほど懸念しているようにはみえない」と述べた。
JPモルガンも、資金の価格と供給状況の間に同様の乖離(かいり)があると分析する。借り入れコストは急上昇したが、融資や信用創造はそれに伴って縮小していない。米銀の融資はなお増加傾向にあり、米投資適格企業による社債の純発行額も8月に増えたという。
これまでのところ、金利上昇による打撃は市場全体ではなく、一部に集中している。マーティン氏は「BB」格と「B」格の債券でスプレッドが縮小する一方、「CCC」格では拡大していると指摘する。直近の利回り上昇局面では不動産株や小型株が出遅れる一方、エネルギー株と金融株が恩恵を受けている。
iキャピタルのグローバル投資ストラテジスト、ダン・スズキ氏は、より大きなリスクは金利上昇の加速だとみている。
「はるかに急激な上昇となれば、投資家はリスク資産の持ち高をより積極的に縮小せざるを得なくなる。その段階で市場心理がより明確に悪化し始める恐れがある」と述べた。
雇用の堅調な伸びでFRBの追加利上げ観測が再び強まる一方、米経済の底堅さを支えている要因も浮かび上がった。
ハートルのブラッド・コンガー最高投資責任者(CIO)は「AIによる雇用の置き換えの兆しにもみえる」と述べた。AI導入が進んでいるとされる情報と金融サービス分野で採用が弱まる一方、データセンターの建設や設備導入、電力供給に関わる建設、製造、公益事業では雇用がより堅調だと指摘した。金融と情報の両部門で雇用者数は計3万4000人減少した。
8月の雇用者数の伸びが堅調で、過去2カ月分も上方修正されたことで、労働市場の悪化がFRBの追加利上げを阻む要因となる可能性は低下した。アルパイン・サクソン・ウッズのチーフマーケットストラテジスト、サラ・ハント氏は、今回の雇用統計は、弱い内容だった場合に比べ、FRB内のハト派を後押しする材料に乏しかったと指摘した。今後の焦点はインフレに移る。物価指標が再び強い内容となれば、利上げを後押しする材料となる。

一方、ステート・ストリートでシニアマクロストラテジストを務めるマービン・ロー氏は、今回の雇用統計にとどまらない点に注目する。政府と企業が資金を巡って激しく競い合うなかでも、経済は底堅さを保っている。
「4日の雇用統計は、失業率の低水準を支える構造的な要因がなくても、経済が順調に推移していることを改めて示した」と指摘。「ウォーシュ氏は市場からのシグナルを求めており、市場は利上げすべきだと示唆している。われわれは引き続き、年内に利上げがあるとみている」と述べた。
BNPパリバの米株式・デリバティブ戦略責任者グレッグ・ブートル氏は、決算発表シーズンがほぼ終了したことで、今後数週間はマクロ経済指標の重要性が一段と高まるとみている。
ブートル氏はブルームバーグテレビジョンで、「株式への強気姿勢を弱めるには適切な時期だが、現時点で弱気に転じるほどではない」と述べた。「きょうの雇用統計はややタカ派寄りだったかもしれないが、FRBが次にどう動くかについて答えを示すものではない。焦点は来週発表の消費者物価指数(CPI)と、FRBが米中間選挙を前に利上げするかどうかだ」と語った。
原題:Wall Street Risk Complex Defies Rate Threat After Jobs Data (1)(抜粋)
--取材協力:Davide Barbuscia、Michael McKee、Greg Ritchie.もっと読むにはこちら bloomberg.com/jp
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