ウォーシュ米連邦準備制度理事会(FRB)議長は28日、5年余りにわたり2%の当局目標を上回って推移しているインフレを抑え込むとの決意をあらためて強調した。米債券トレーダーは少なくともこの日、待ち望んでいたメッセージを受け取った。

ウォーシュ議長がジャクソンホール会合(カンザスシティー連銀主催の年次シンポジウム)での講演で示した姿勢自体は目新しいものではなかった。それでも、5月に就任した議長を巡る懸念の一部を払拭するには十分だった。

こうした懸念は今月、米長期債利回りを約20年ぶりの高水準に押し上げ、ドル下落を招くとともに、投資家を金や暗号資産(仮想通貨)ビットコインなど代替的な安全資産に向かわせる一因となっていた。

ウォーシュ議長の発言後、米2年債利回りは12ベーシスポイント(bp、1bp=0.01%)上昇して4.35%となった。就任後初の6月の連邦公開市場委員会(FOMC)会合後の記者会見で、インフレに対して同様に強硬な姿勢を示して以来の大幅上昇となった。

トレーダーの間では、9月に0.25ポイントの利上げが実施される可能性が50%を上回るとの見方に基づく取引が膨らんだ。ドルは上昇し、金は下落、30年債利回りはほぼ変わらずとなった。いずれも、連邦準備制度がインフレを抑制するために行動し、それによって長期の借り入れコストを制御するとの見方を示す動きだ。

バンガード・グループで米国債チームを率いるブライアン・クイグリー氏は「議長は信認を立て直す意図を持って、今回のジャクソンホール講演に臨んだ」とし、「市場の反応を見る限り、それは非常に効果的だったと考えられる」と語った。

米国とイスラエルによるイランとの戦争がエネルギー価格の急騰を通じて世界経済に衝撃を与え、連邦準備制度が様子見姿勢を維持する中、米国債利回りは一貫して上昇してきた。しかし、30年債利回りが2007年以来の高水準に達すると、再び懸念が強まり始め、過去最高値を相次いで更新してきた株価の重しとなった。

ベッセント米財務長官は先に、国債の買い戻しを増やす計画を発表し、利回り上昇を食い止める異例の対応に動いた。これを受け、利回りを押し上げてきたインフレや巨額の財政赤字に対処することなく、米政府が長期金利を人為的に抑え込もうとしているとの懸念が強まった。

ウォーシュ議長も市場の売りを招く一因となった。タカ派姿勢を示していたにもかかわらず、米金融当局が7月に再び政策金利を据え置くと、インフレ高進のリスクに見合う高い利回りを投資家が求めたため、長期債利回りは急上昇。連邦準備制度が重視する物価指標が引き続き適切な目標なのか疑問を呈するなど、ウォーシュ議長の一部の発言も、物価安定への取り組みに対する疑念を強めた。

ウォーシュ議長は28日、こうした懸念の払拭に動いた。7月の個人消費支出(PCE)価格指数が前年同月比3.7%上昇となったことについて、その深刻さを和らげるような姿勢は見せず、基調的な動向に「有意な改善」がないと話した。

2%の物価目標については「確固たる不変のもの」と考えているとした。また、政策金利の先行きについてのフォワードガイダンスを示してきた歴代議長の慣行から距離を置いているものの、インフレ率が「十分な速さで」2%に向けて鈍化していることを確実にする必要があると語った。

ウォーシュ議長の発言後、トレーダーは利上げの可能性を一段と織り込んだ。スワップ市場では、9月15、16両日のFOMC会合で0.25ポイントの利上げが実施される確率を50%超とみている。年末までに少なくとも1回の利上げが行われることはほぼ確実視され、2回の利上げも十分あり得るとの見方が広がっている。

バークレイズのエコノミストは28日、米金融当局の政策見通しを変更し、9月に0.25ポイントの利上げを実施した後、12月の会合でも追加利上げを行うと予想した。同社は従来、今年は利上げがないと予想していた。

DWSアメリカズの債券部門責任者、ジョージ・カトランボーン氏は「何と呼ぼうと構わないが、これは市場が7月のFOMCでまさに求めていたフォワードガイダンスだ」と指摘。「予想をはるかに超える内容で、賃金インフレを退け、政策は実際にはそれほど景気抑制的ではないとしている。かなり大きな180度の方向転換だ」との分析を示した。

ウォーシュ議長が金融当局の次の動きを事前に示唆することを避けようとしてきただけに、波乱のない講演を予想していた一部の市場関係者にとって、今回の発言は意外なものとなった。米10年債先物を原資産とするオプション市場では、市場の反応は限定的になるとの見方が織り込まれており、近年のジャクソンホール会合を控えたポジショニングとは異なっていた。

実際には、2年債利回りの上昇幅は、少なくとも2010年以降の同会合では最大となった。その影響は市場全体に波及し、金利動向に敏感なハイテク株やビットコインを押し下げた。これらはドル安に賭けるいわゆる「ディベースメント取引」の復活による恩恵を受けていた。

ラファー・テングラー・インベストメンツの債券部門責任者、バイロン・アンダーソン氏は、ウォーシュ議長の情報発信のスタイルについて「ウォーシュ氏が市場に再び持ち込んでいるのはボラティリティーだ」と論評。「市場は同氏が臨む会合のたびに見方を二転三転させている」と話した。

ウォーシュ議長の発言は、連邦準備制度が利上げを開始する明確なシグナルと受け止められたものの、それだけで債券市場への圧力が和らぐわけではない。この圧力は住宅ローンをはじめ、あらゆる種類の借り入れコストに波及している。

ブルームバーグのストラテジスト、キャメロン・クライス氏は「完全雇用の状態にあり、インフレ率が目標を上回ったまま速やかに改善せず、資金需要も高まっている経済では、連邦準備制度が目標を達成するには、一段と高い金利が必要だと考えるのが妥当だ。市場がまさにそれを織り込む方向に動いたのも、さほど不思議ではない」と指摘した。

米連邦政府の年間約2兆ドル(約320兆円)に上る財政赤字やAI投資ブームも、大量に発行される新規国債を市場が吸収する余力を圧迫し、影響を及ぼしている。イランとの戦争が交渉によって終結する兆しがほとんど見えない中、原油相場の高止まりも先行きを巡る不透明感を強めている。

さらに、市場で急速に織り込みが進んだことで、7月のFOMC会合後のように、再び相場が反転するリスクも高まっている。連邦準備制度が政策金利を据え置き続け、トレーダーがウォーシュ議長の考え方を再び見直すことを迫られた場合には、そうした展開となる可能性がある。

MUFGセキュリティーズの米国マクロ戦略責任者、ジョージ・ゴンカルベス氏は「まずは市場がどう落ち着くかを見極めたい」とした上で、「強硬な発言を続けながら、今後の会合で利上げを見送るのであれば、これまでと同じことの繰り返しだ」とコメントした。

原題:Wall Street Piles On Rate-Hike Bets as Warsh Renews Hawkish Tone(抜粋)

--取材協力:Sid Verma.

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