《要点》
・ 年約5兆円とされる消費減税の財源として、外国為替資金特別会計(外為特会)の為替差益の活用について関心が高まっているが、現行法の下では活用できない。法改正をすれば、活用可能になる可能性はあるが、当然恒久財源にはなりえず、一時的なものにとどまる。金額も、現状の介入規模では6~7兆円程度。
・一方、外為特会剰余金は、①日銀の金融政策正常化に伴う内外金利差縮小、②既往介入に伴う運用原資減少を受け、2027 年度以降目減りしていく公算。そうしたなかでも、剰余金から一般会計歳入への繰り入れを増やすには、先行きの円高リスクに備えた外為特会の引き当てを減らす必要。それを行ったうえでも捻出可能な金額は年1兆円前後。
・ また、「構造的な円安」に歯止めをかける手も打たないまま、外貨準備を財源確保のツールとして活用すれば、将来の円安リスクに対し脆弱になる恐れ。
「打ち出の小槌」と見做され始めている外為特会
高市首相は、飲食料品の消費税率を 2027 年4月から2年間 1%に引き下げると表明すると同時に、その財源を「特例公債に頼らない」と宣言した。これを受け、年約5兆円とされる消費減税の財源として、税外収入、とりわけ外国為替資金特別会計(通称「外為特会」)からの資金捻出に関心が集まっている。
筆者は、米国での利上げ、わが国の金融正常化の遅れを背景とした内外金利差拡大、それを受けた円安進行を材料に、『一般会計歳入の増加に向け時限的に外為特会のさらなる活用を』とのレポートを 2023 年に作成した。その後一段と円安が進むなか、「外為特会」からの一般会計への繰り入れを「打ち出の小槌」であるかのように活用を求める声も大きくなっている。しかし、当該レポート作成時とくらべ、為替や財政を取り巻く環境も大きく変わり始めていることから、改めて外為特会の一般財源化に関して、現状やリスクについて整理する。
現行ルールでは財源にはできない為替差益
政権与党で外為特会が財源として注目されているのは、大幅な円安進行によって、外為特会で膨大な為替含み益が発生しており、それを実現益に転換できれば消費減税の財源を賄うことができるとの思惑からである。しかし、現行法のもとでは、為替差益を外為特会の剰余金とすることはできない。すなわち、「円売り・外貨買い介入の場合には、政府短期証券(為券)の発行により円貨を調達し、外国為替市場における為替介入により円貨を売却し、外貨を購入。為替介入で得た外貨は外貨建債券等に運用。逆に円買い・外貨売り介入の場合には、外貨建債券の売却等により外貨を調達し、外国為替市場における為替介入により外貨を売却し、円貨を購入。為替介入で得た円貨は政府短期証券の償還に充当される」(財務省)とされている。

実際、2022 年、2024 年の円買い介入時もほぼ同額の外国為替資金証券(為券)残高が減少している。したがって、どれだけ為替差益があっても、外貨売り介入によって得られた円貨は為券の償還に充当されることになっており、為替含み益を円買い介入で実現益に変換できたとしても、それは為券の発行残高の減少という形をとらざるをえず、消費減税の財源として直接的に活用することはできない。これを財源として活用するには、
① 為替実現益は従来通り為券の償還に充て、
別途、(政府債務の増減がないかたちで)同額の短期国債等を発行することで一般財源を確保する
② 法律を変え、為替実現益を別途剰余金として算入できるようにする
などの対応が必要になる。このうち、①については、現実的な対応ではあるが、高市首相の「特例国債に頼らない」との発言との整合性が問われることになる。②については、法律の作成が立法府(国会)の役割であることを踏まえると、政治的には可能かもしれない。
ただし、為券は、円売り介入時だけでなく、外貨建て利息の一部を一般会計に繰り入れるに当たって現金化するためにも発行されており、円売り介入の実施額と1対1で対応しているわけではない。したがって、どこまでを為替差益とみるのか、政治的な恣意性を排除しないと、時の政権の都合のいいように打ち出の小槌のごとく利用され、後々禍根を残しかねない。法律を変えるにしても、中長期的な制度運用に耐えうるよう、慎重な検討が必要なことは言うまでもない。仮に、改正等により為替差益を一般財源に繰り入れることが可能になったとしても、為替差益というその性格上、当然恒久財源にはなりえず、一時的なものにとどまる。仮に、2年後に消費税率を基に戻すことができなければ、おそらくは最終的に「社会保障関連給付の圧縮」あるいは「現役世代が負担する社会保険料や所得税の大幅な引き
上げ」、「特例公債に頼る」等での対応を余儀なくされることになる。

ちなみに、外国為替資金特別会計財務書類によると、2024 年度末時点の資産・負債差額は 80.6兆円、うち為替換算差損益は 50.2 兆円となっており、2025 年 3 月の 149 円で約 50 兆円の含み益があった形となっている。過去のドル円相場と為替換算差損益の関係を踏まえると、損益分岐点は115 円前後と推定される。今回4月末から5月上旬にかけて 160 円前後で 11 兆 7,439億円の円買いドル売り介入を、7月末から8月初にかけて同じく12兆円前後の円買いドル売り介入を行っており、6~7兆円(23兆円÷160 円×(160-115)円)の為替差益を、為券残高の大幅な減少という形ですでに実現益に変換した形となっている。
2027 年度以降目減りする剰余金
(1)剰余金の仕組み
一方、外為特会の剰余金の大半は恒常的に一般会計の歳入に繰り入れられている。現行のルールでは、X年度の外為特会での剰余金(大半が円売り介入の原資となった為券の発行金利と外貨準備の運用益の差)のうち、30%が外国為替資金(外為特会のうちの引当金)に充当され、同額がX+1年度の外為特会の貸借対照表に反映される。一方、残りの70%がX+1年度の一般会計の歳入に繰り入れられる。

為替や金利変動にさらされるなか、外国為替資金特別会計の健全性を担保するために、剰余金を外国為替資金に繰り入れることは、「特別会計に関する法律第 80 条」で定められている。しかし、剰余金の 30%は、あくまで財務省が定めた「目安」であり、一般会計の資金繰り次第では、全額を一般会計の歳入に繰り入れるケースもある。実際、2016年度、2022 年度には剰余金(予算作成時見込み額)の全額が各 2017 年度、2023 年度の一般会計に
繰り入れられている。
一方、X+1年度の予算作成はX年の年末、X年度の決算確定はX+1年の夏前という時間差があるため、通常は、X年度の剰余金を保守的に見積もったうえで、X+1年度予算を作成する。最終的な差額は、外為特会のX+1年度の歳入に繰り入れる対応を行っている。
今年度については、2026 年度予算策定時に、2025 年度の剰余金を4兆 4,715 億円と見込んだうえで、その 30%に当たる 1 兆 3,414 億円を外国為替資金に組み入れ、残りの 3 兆 1,300 億円を 26 年度一般会計に繰り入れている。決算では 2025 年度剰余金は 5 兆 565 億円であったため、その差額5,850 億円が 2026 年度外為特会の歳入に繰り入れられることになる。これは、2026 年度の剰余金の一部となり、最終的には 2027 年度の一般会計歳入への繰り入れ、あるいは、外国為替資金への組み入れが行われることになる。
(2)今後の剰余金
外為特会を消費減税の財源として利用することが取り沙汰されているが、歳出構造の見直しがないと仮定すれば、外為特会剰余金から一般会計歳入への繰り入れが純増しない限り、消費減税への財源とはなりえない。2027 年度、2028 年度に純増となるかどうかは、基本的には内外金利差をベースとした剰余金がどうなるか、そのうえで何割を外国為替資金として組み入れるか、によって左右される。2022 年以降、米FRBが利上げをする一方、日銀がマイナス金利政策を続けたことで、黙っていても金利差が拡大したほか、それを反映した円安
ドル高の進行により、運用収益が膨れ上がる局面が続いてきた。しかし、足元にかけて米FRBの利上げが一服する一方、日銀が金融政策の正常化を加速しつつあることから、運用収益が拡大する局面は終わりを迎えている。実際、2025 年度の外為特会剰余金は、5.05 兆円と過去2番目の高水準ながら 2024 年度の 5.36 兆円よりも小幅ながら減少した。運用収入の 2025 年度実績見込みが 2024年度対比▲2,700 億円下振れした一方、借入金利子は 3,700 億円増えたことが背景にある。

2027 年度以降、米国金利は微調整こそ見込まれるものの、インフレが高進しない限り、もはや大幅に上振れる公算は小さくなっている。これに対し、わが国では、高市政権は日銀による金融緩和の継続を期待しているものの、日銀は、期待インフレ率が2%前後まで上昇するなか、できるだけ早期に少なくとも中立水準までは金利を引き上げていかないと、“behind the curve” に陥り、先々より大幅な利上げを余儀なくされるリスクを抱えている。こうした状況を踏まえると、米国と日本の金利差縮小は避けられず、今後さらに大幅な円安進行がない限り、運用収益は減少するとみられる。
なお、ベッセント米財務長官は、わが国の円買いドル売り介入に伴う米国債売りを懸念し、日本が保有する米国債を担保にドル資金を融通できる「FIMA(外国・国際通貨当局向け)レポ・ファシリティ」の活用に言及している。これは実質的には、米国債売りを伴う円買いドル売り介入に対する強い牽制といえるが、わが国通貨当局が同制度を活用してドル売り介入を行う場合には、融通されたドル資金に対する利払いが発生するため、運用収益は一段と減少することになる。

また、今回 1,500 億ドル近いドル売り介入を行ったことで、運用原資は1割強減少することになる。米国の金利水準を踏まえると、運用原資は4~5年で復元するとみられるものの、2027 年度、2028 年度に限定すれば、運用原資の減少と金利差縮小により、外為特会の剰余金は 2025 年度対比減少することは避けられない見通しである。
こうしたなか、一般会計への繰り入れを増やすためには、剰余金の 30%を外国為替資金に組み入れるとのルールを一時的に停止せざるをえない。
前述の通り、外為特会の資産の大半は変動の大きい外貨建の金融商品、負債は円建の政府短期証券であることから、そのバランスシートは円高に対し脆弱で、現に 100 円を大きく割り込んだ 2010年度、2011 年度には債務超過に陥った。外為特会のバランスシート上に脆弱性を抱えていると、行き過ぎた相場変動に対して経済の安定を図るという本来の趣旨に則った行動をとりにくくなるため、一定の引当金を持つのは極めて自然な対応である。そうしたなかで、引き当てを積まないという行為は、将来的な円高リスクへの警戒を怠るものといえる。外国為替資金への累計組入額は 2024 年度末で 30.1 兆円となっており、同額が保有外貨資産のどれだけカバーできているかを測るカバー率をみると、目標 30%に対し 2024 年度末で 16%台にとどまっている。本年の介入により 23 兆円規模の外貨建資産が減少したため、目標積立金も7兆円程度減少し、カバー率も 18%台まで上昇すると見込まれる。一時的な組入れ停止は可能とみられるが、カバー率が目標対比大幅に下振れていることを踏まえると、複数年続けて引き当てを停止する対応をとることはできないだろう。

いずれにせよ、30%ルールを一時的に停止しても、2026 年度外国為替資金に組み入れられた金額 は1兆 3,400 億円であり、2027 年度以降は剰余金の減少も加わり、新たに一般会計に繰り入れ可能な金額は1兆円前後にとどまる見込みである。消費減税の財源の一部とはなりえても、外為特会だけでは減税財源の全体を到底カバーできないのが実情である。
早晩迫られる外為特会以外からの財源確保
以上を踏まえると、日銀の金融政策が正常化するなか、もはや「外為特会剰余金」の上振れというボーナス期間は終了したと判断せざるを得ない。2014 年から 2020 年代初頭にかけてドル円相場が概ね 110 円±10 円で推移するなか、外為特会剰余金は3兆円前後で安定的に推移した。今後 150円±10 円で推移すると想定すれば、今後は4兆円前後での安定推移となり、「上振れ余地のある」財源としては注目されなくなる可能性が高い。
わが国の外貨準備は、2025 年平均で月間輸入額の 20 ヵ月程度と先進国通貨としては高水準の外貨準備を抱えており、今回の円安を契機に外貨資産を売却し、それをわが国国民・経済に資する形で活用すること自体は、否定的にとらえるべきではないだろう。しかし、おカネに色はないとはいえ、貿易収支の赤字化、デジタル赤字の拡大、内外成長率格差等を背景とした家計のホームバイアスの緩和、対外投資増加など「構造的な円安」の進行が懸念視されるなかで、外貨準備の売却によって得られた財源は本来ならその円安を生んだ原因の解消、すなわち、わが国の輸出競争力強化、デジタル赤字解消等に向けられるべきであり、逆に輸入促進を通じてさらなる円安にもつながりうる消費減税の財源に活用するのは、果たして妥当な経済政策と言えるのか、疑問視せざるを得ない。法改正を行い、円買いドル売り介入を繰り返し、為替差益を一般財源化したとしても、「構造的な円安」に歯止めをかけることができなければ、わが国として円安抑制のための武器を失うだけで、まさに「過去の遺産を食いつぶす」だけに終わることになる。人口減少や産業構造の高度化等により、円安による輸出増加、雇用増加という経路でのメリット享受がかつてよりも細るなか、家計、とりわけ低中所得層には円安による生活コスト増加というデメリットが重くのしかかりやすい構造になっている。財源確保のツールとして外貨準備を活用することに注力するよりも、円安のリスクを認識し、その根本原因の是正にもっと真剣に向き合うべきであろう。
(※情報提供、記事執筆:日本総合研究所 調査部 理事/主席研究員 牧田 健)