(ブルームバーグ):米国とカナダの貿易交渉は、ラトニック米商務長官が土壇場でカナダに圧力をかけた後、決裂した。トランプ米大統領は新たな関税を発動し、カナダのカーニー首相は報復を表明している。
両国が本格的な貿易戦争に突入しつつある中、最終局面でラトニック氏が果たした役割に注目が集まっている。同氏は枠組み合意について、カナダに寛大過ぎると判断。譲歩の撤回を求めていた米金属メーカーの代弁者として前面に出た。非公開の交渉内容だとして、事情に詳しい関係者が匿名を条件に語った。
一部の関係者によると、カナダ側はラトニック氏が交渉条件を後から変えたとして非難。一方、米国側の一部企業幹部は、トランプ氏が保護を約束する米金属業界への脅威になりかねない合意を阻止したとして同氏を評価している。
トランプ氏は先週18日、カナダとの通商合意が近いと発表し、幅広いカナダ製品に対する50%の関税発動を延期した。ただ、グリア米通商代表部(USTR)代表が数週間にわたるカナダとの交渉でまとめた枠組みについて、ラトニック氏と関税強硬派のナバロ上級顧問は批判しており、既に対立の構図が生じていた。
ラトニック氏が今回土壇場で介入し、交渉に深く関与したことで、同氏がトランプ政権内でしばしば波乱を引き起こす人物であることが改めて浮き彫りになった。これまでも、米国がさらに優位に立てると判断した通商案件には、積極的に関与してきた。
ラトニック氏は昨年、自動車や鉄鋼への関税を巡る発言をたびたび変え、市場のボラティリティーを高めていた。取りまとめに関与した日本や韓国との合意では、両国が関税軽減と引き換えに数千億ドル規模の投資を約束したが、当初は慎重な受け止めが広がり、その後も合意を巡る疑問が残っている。ただ、大型案件の一部は発表されている。
米当局者は、行き詰まりの責任はカナダ側にあるとしている。ナバロ氏は「USTRは見事な交渉をした。カナダが合意を受け入れなかったのは非常に愚かだった」と指摘。「条件が良くなることはない。カーニー氏はカナダ国民より政治を選んだ」と述べた。
トランプ氏は先週18日にカーニー氏と電話会談した後、米国とカナダを結ぶ石油パイプライン「キーストーンXL」の復活に言及し、枠組みを公に支持した。合意をまとめるため交渉期間を3日間延長したが、その後も緊張は高まり続けた。
金属業界が反発
だが、通常はトランプ氏を強く支持する米鉄鋼・アルミ業界は激怒していた。自社事業や利益率を守る関税障壁を弱める案が突然示されたとして、不意を突かれたという。
業界はグリア氏の事務所に圧力をかけ、一部はラトニック氏や議会内の協力者に支援を求めた。事情に詳しい関係者によると、政権に譲歩を思いとどまらせようと電話が殺到し、会合が相次いだ。
原料アルミを加工して付加価値製品にする国内のアルミ押し出し材メーカーは、アルミ関税を幅広く引き下げれば利益率が打撃を受けかねないと政権当局者や有力議員に訴えた。超党派のロビー団体「繁栄するアメリカ連合(CPA)」は、アルミ押し出し材メーカーが国内のアルミ生産そのものを支える上で不可欠だと強調した。
二つの交渉ルート
政権内でラトニック氏とグリア氏は対照的な存在だ。グリア氏は抑制的で細部を重視する生粋の通商弁護士とみられる一方、ラトニック氏はトランプ氏同様、より派手で率直なタイプだ。両氏はいずれもトランプ氏の通商政策を実施する上で重要な役割を担う。対カナダ交渉はグリア氏が主導したが、ラトニック氏が率いる商務省は産業分野を対象とする通商拡大法232条に基づく関税を所管する。
事情に詳しい一部の関係者は、両氏はトランプ氏の下で足並みをそろえているとして、対立を重視しなかった。ただ、こうした構図から、交渉は事実上二つのルートで進んだ。カナダ代表団の窓口はグリア氏だったにもかかわらず、ラトニック氏は交渉の最終段階でカーニー首相と繰り返し直接交渉した。
カナダ側の状況
カナダのワイズマン駐米大使は、ラトニック氏が交渉に及ぼした影響についてコメントを控えた。23日のインタビューで「舞台裏で米国側がどう動いていたかは、米国側に聞くしかない」と指摘。「われわれの交渉相手はUSTRだった」と述べた。
一方、カーニー氏も国内の州首相との意見対立を抱えていた。合意成立には、州首相らに米国産酒類の販売禁止措置を解除してもらう必要があった。特にマニトバ州のキニュー首相は、暫定合意を公然と批判していた。
揺れる合意条件
交渉が続く中、条件は変化した。先週21日朝までに、アルミと鉄鋼の関税を広範に引き下げる案は後退し、対象を限定したより複雑な軽減策へと変わった。業界の働きかけを受け、一部当局者はカナダへの譲歩案を縮小。一定数量のカナダ産金属について関税率を50%から25%に引き下げ、一部の派生製品も軽減対象とする計画を見直した。
交渉中、米国側は一部の利害関係者に対し、合意の利点を公に訴えてほしいとの意向を伝えていた。関係者によると、21日午後の時点では、米カナダ双方とも合意を最終決定できるとの見方を示していた。同日夜の時点で、カナダ側は合意に達したと考えていた。
ラトニック氏の動き
一方、ラトニック氏は、自動車分野での譲歩範囲を限定することに注力した。カナダ側は両国が自動車関税を25%から15%に引き下げることで合意したと考えていたが、米国側は引き下げ対象を小型車に限定し、中・大型トラックは含まれないと主張。その場合、カナダのオンタリオ州にあるゼネラル・モーターズ(GM)とフォード・モーターの工場が打撃を受ける恐れがあった。
ラトニック氏の狙いが合意そのものを決裂させることだったのか、条件を修正することだったのかは不明だ。ある関係者によると、ラトニック、ナバロ両氏は、カナダが新条件を受け入れ、交渉から離脱しないと見込んでいたようだ。しかしカナダのカーニー首相は、米国側の要求は過大だったと述べた。
米鉄鋼・アルミ企業は、交渉決裂を歓迎しているという。
原題:Lutnick’s Intervention in Canada Talks Draws Praise, Blame (1)(抜粋)
--取材協力:Vipal Monga、Brian Platt、Joe Deaux.
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