(ブルームバーグ):世界各地で長期金利が急上昇している。投資家が償還までの期間が長い債券を保有する見返りとして、より高い利回りを求めているためだ。主要7カ国(G7)の平均国債利回りは8月半ば、2008年以来の高水準に達した。
投資家が長期国債から資金を引き揚げている背景には、膨らむ財政赤字や根強いインフレなど、さまざまな懸念がある。AIインフラの整備資金を調達するため、テクノロジー企業が巨額の社債を発行する中、各国政府は投資家の資金を巡る競争にも直面している。
米国債利回りが約20年ぶりの高水準に達したことを受け、米財務省は長期国債の買い戻しを増額すると発表した。予想外の発表を受けて債券市場は落ち着きを取り戻し、最近の利回り上昇の一部は反転したものの、全てが解消されたわけではない。

長期債の特徴は
富裕国が発行する国債は、政府が投資家に返済する可能性が極めて高いため、世界で最も安全な証券と広くみなされている。政府は30年など長期間にわたって資金調達コストを固定することが多い。中には100年後に償還を迎える債券を発行する国もある。
だからといって、こうした債券が投資家にとってリスクフリーというわけではない。インフレや短期金利が上昇すれば、債券の利払いの実質価値が目減りするほか、満期時に最終的に返済される元本の実質価値も下落する。
債券の償還期間が長いほど、インフレの影響を受ける期間も長くなる。このため長期債は金利やインフレの上昇により敏感に反応しており、最近の債券売りの中心となっている。
8月半ばには米30年国債利回りが2007年以来の高水準に達した。ドイツの30年国債利回りも2011年以来の高水準となり、日本の30年国債利回りは過去最高水準に迫った。
なぜ最近、長期債と短期債の動きに差が出ているのか
トランプ大統領の貿易戦争や、中東紛争に伴うエネルギー価格上昇を背景に根強いインフレが続く中、投資家は中央銀行のインフレ抑制策が十分ではないと懸念している。
米連邦準備制度理事会(FRB)が7月に政策金利を据え置き、ウォーシュFRB議長のインフレ抑制姿勢に懸念が強まったことで、米長期国債の売りが加速した。
金利据え置きを受け、政策金利の目先の見通しを反映する短期債利回りは低下した。一方、金利据え置きが将来のインフレ圧力を強めるとの懸念から、長期債は売られた。その結果、短期金利と長期金利の差が拡大し、いわゆるイールドカーブ(利回り曲線)のスティープ化が進んだ。
これは米国だけの現象ではない。日本では日銀の利上げペースが遅く、金利は依然として先進国で最低水準にある。高市早苗首相は、金利が急速に上がり過ぎれば景気回復を腰折れさせかねないとして、以前から警戒してきた。その結果、日本のイールドカーブは主要国の国債市場で最も急な傾斜となっている。

利回りが高ければ、投資家は長期債を買いたいのではないか
理論上はそうだが、債券市場では需給構造にも変化が起きている。過去20年の大半では、特にアジアを中心とする潤沢な世界の貯蓄資金が、相対的に供給の少ない安全資産に流れ込み、長期実質金利を押し下げてきた。当時のグリーンスパンFRB議長は、FRBが短期の借り入れコストを引き上げても長期金利が低水準にとどまり続けたことを「謎」と呼んだ。
現在は世界各国の政府が再生可能エネルギーから防衛まで幅広い分野で支出を拡大している。米国は約40兆ドル(約6300兆円)に上る政府債務を抱える中、年間の財政赤字を賄うため借り入れを増やしている。
世界的に国債の供給が膨らむ一方、海外投資家の需要低下に加え、中央銀行が長年にわたる買い入れ後に債券保有を減らしているため、需要は抑制されている。欧州中央銀行(ECB)のシュナーベル専務理事は、こうした状況を「貯蓄過剰」から「債券過剰」への移行と表現している。
これは、投資家層が価格により敏感な民間投資家へと移行していることを意味する。こうした投資家は通常、長期債を保有する見返りとして、より高い上乗せ利回りを求める。年金・退職制度の構造変化によって、従来型の長期投資家の層も縮小している。
投資家は長期債にどの程度の上乗せ利回りを求めているのか
ブルームバーグ・エコノミクス(BE)が開発したモデルによると、米国では、長期債を保有するために投資家が要求する上乗せ利回り、いわゆるタームプレミアムが、新型コロナウイルス禍の最低水準から3ポイント超上昇した。
米国債は、その流動性や安全性、担保としての有用性を背景に、投資家が低い利回りでも保有を受け入れるという特有の利点を享受してきた。政府債務の増大やトランプ氏の予測しにくい政策運営を背景に、こうした優位性が損なわれているとの見方もある。一方、こうした懸念は誇張されており、米国債は依然として最も安全な債券だとの見方もある。
長期金利はなぜ経済にとって重要なのか
債券市場で無秩序な売りが起きれば、財政赤字の資金調達を債券市場に依存する政府に深刻な問題をもたらしかねない。英国は2022年のトラス政権崩壊で、こうした事態を身をもって経験した。ベッセント米財務長官は今年に入り、債券市場は「りゅう弾砲よりも多くの政権を倒してきた」と述べた。
長期債利回りは住宅ローンをはじめとするさまざまな個人向け融資や、企業の借入金利の基準となる。長年のインフレですでに生活費の負担が増している中、債券利回りの上昇は家計の借り手への圧力を一段と強める恐れがある。一方、金利上昇は貯蓄者には追い風となる。
ただ、長期金利の上昇が個人向け融資金利にそのまま波及するとは限らない。米国では30年固定住宅ローン金利は、30年国債利回りではなく10年国債利回りとの連動性が高い。住宅所有者は10年に近い期間が経過した後に住宅ローンを完済したり、借り換えたりする傾向があるためだ。
AI投資ブームは長期債にどのような影響を与えているのか
テクノロジー企業はAIインフラの拡充を目指す中、投資家への返済を数十年先まで先送りできる長期債の発行を増やしている。このため政府は、社債発行企業との資金獲得競争に直面している。
テクノロジー大手を含む投資適格企業は今年、すでに前年同期比36%増の1兆5000億ドル近い社債を発行している。野村証券は、大手テクノロジー企業による約2000億ドルの社債発行額だけで、米財務省による民間投資家向け中長期国債の純発行額の約25%に相当すると推計する。2025年の比率の5倍だ。
バンク・オブ・アメリカ(BofA)のエコノミストの分析によると、社債発行の急増に住宅ローン担保証券(MBS)の供給増が重なったことで、米10年国債利回りは今年約30ベーシスポイント(bp、1bp=0.01%)押し上げられた。
長期国債利回りの上昇に政府はどう対応できるのか
多くの政府は国債発行計画を短期債寄りにシフトしている。現在は短期債の利回りの方が低いものの、償還期間が短いため、より頻繁に借り換える必要があり、その時点で金利が上昇している可能性もある。
米財務省は、イールドカーブの長期ゾーンで「流動性支援」のため、9-11月に10年-30年物の米国債の買い戻し額を少なくとも2倍にすると表明した。発表を受け、米長期国債をはじめ各国の長期国債利回りは低下した。ただ、財務省の決定がどの程度持続的な効果をもたらすかは、なお不透明だ。

より根本的には、政府はインフレと財政赤字を抑制できると投資家に納得させる必要がある。そのためには増税と歳出削減を組み合わせる必要もあり、有権者の反発を招く可能性が高い。
投資家は利回り急上昇を懸念すべきか
ある程度までなら、利回り上昇は債券保有者にとって朗報だ。株式市場が過去最高値圏にある中、利回り上昇は、借り入れコストの上昇を吸収できる世界経済の底堅さを反映している。
世界金融危機後、経済成長の見通しが弱かった時期には利回りはゼロ近辺にあった。最近の利回り上昇は、危機前の水準への正常化とみることもできる。米10年国債利回りは4.7%で、過去40年間の平均とおおむね同水準にある。
ウェルズ・ファーゴのエコノミスト、トム・ポーセリ氏とマイケル・パグリース氏は8月のリサーチノートで、「『より高く、より長く』という表現が好んで使われるが、はるかに適切な表現は『正常な水準がより長く続く』だと考える」と記した。
原題:Why High Yields on Government Bonds Are Causing Alarm: Explainer(抜粋)
もっと読むにはこちら bloomberg.com/jp
©2026 Bloomberg L.P.