ディスインフレが株式市場のテーマになるのはまだ先か

8月13日の米国株式市場は、弱めの結果となった7月PPIを受けてFRBの利上げ観測が後退する中、堅調な推移となった。もっとも、全体的には動意に乏しい展開となった。弱めの賃金統計(雇用統計)、弱めのCPI、弱めのPPIと、インフレ懸念が後退する材料が相次いでいるものの、米長期金利が高止まりしているため、株式市場ではディスインフレがテーマになりにくい。結果的に、株価は方向感が出にくい状況が続くだろう。

ゆっくりと利上げ観測の後退が続く

8月13日の米国債券市場では、弱めのPPIの結果を受けて利上げ観測が後退し、金利が低下した。長期金利は前日差▲5.7bp、2年金利は同▲5.9bpだった。10年実質金利が同▲4.5bp、10年インフレ予想(BEI)が同▲0.6bpとなった。FF金利先物市場が織り込む9月の利上げ確率は35.0%となり、前日の39.9%から一段と低下した。年内の利上げ回数についても、この日は0.91回となり、前日の1.09回から減少した。

長期のBEIが低迷する一方で、足元のインフレ圧力が懸念されるという難しい状況で、利上げの必要性を強調するFRBのタカ派メンバーは少なくなかった。しかし、足元のインフレ圧力がそれほど強くないというデータが得られていることから、タカ派的な主張は弱くなっていくだろう。むろん、関税インフレ懸念のときもそうだったように、やや遅れて原油高の影響が生じる可能性もあるため、すぐにハト派に転じることはないとみられる。インフレ懸念は残りつつも、結果的に利上げが見送られるという展開が続くだろう。長期金利の上昇圧力は徐々に弱まる公算である。

利上げは9月か10月か、日銀が残した逃げ道と政策運営の苦悩

Bloombergは8月13日に「日銀が10月までの利上げ視野、介入効果維持で政府も支持姿勢-関係者」との記事を配信し、「日本銀行は9月か10月に開催する金融政策決定会合での政策金利引き上げを視野に入れている。複数の関係者への取材で分かった」と報じた。市場では、日米政府が協調介入によって円相場を支えることには限界があるという見方から、次は日銀が利上げに動くという観測が増えていたことから、日銀の利上げが近いという今回の報道は想定内だったと言える。

もっとも、このようなリークとみられる報道があったタイミングや内容を考えると、示唆に富んでいる。今回の報道が日銀執行部からの戦略的なリークであるとすれば、その目的は①日銀が政府の指示に従っているわけではない(独立してタイミングを考えている)ことを示すこと、②9月利上げが市場で確実視されることを防ぐこと(フリーハンドの確保)、だろう。

まず、今回の関係者の発言については、執行部ないしは全体の政策方針を決める企画局からの発信の可能性が高いと、筆者はみている(日銀プロパーではない審議委員の発言である可能性は低い)。決定会合の直前であれば、各報道機関の取材が積極化し、審議委員がその対応を行うことも多いとみられるが、現在はそのようなタイミングではないからである。

では、執行部はなぜ情報発信を行ったのか。今回の報道の特徴は、
(1)10月までの利上げを示唆するという意味ではタカ派である一方、
(2)9月利上げは決まっていないという意味でハト派的と言える。
利上げをする方針ではあるものの、9月か10月という選択は、日銀がしっかりと議論して決めていくとアピールしているようにみえる。8月10日には共同通信と毎日新聞が、日銀が9月に利上げを実施することを見越して日米協調介入が決まったという趣旨の記事を配信していた。日米政府の取引に日銀の政策が差し出された(協調介入「バーター説」)という見方を払しょくしたいという日銀の思惑が、今回の情報発信の目的の一つだろう。

また、市場の反応という意味でも、9月利上げが完全に織り込まれる状況は避けたかったという思惑があった可能性が高い。9月利上げが完全に織り込まれる場合、(a)利上げをしても円安圧力が止まらない可能性があり(かえって円安圧力を加速させてしまう可能性もある)、(b)利上げをしなかった場合に円安が加速してしまう可能性が高まる。そのため、市場が9月利上げを完全に織り込まないようにしながら(フリーハンドを維持しながら)、タカ派姿勢を示す必要がある。このように考えると、今回の情報発信が9月か10月の利上げを検討しているというものになったことは自然なことのように思われる。

協調介入の「バーター説」が報じられてすぐにこのような情報発信が日銀から行われたことを考えると、日銀は独立性についてかなり神経質になっている可能性が高い。しかし、ただでさえ解かねばならない連立方程式の本数が多い状況で、市場に独立性をアピールするという方程式を加えるとなると、日銀の取り得る政策パスは一段と限られてくる。場合によっては連立方程式が「解なし」となり、ビハインドザカーブが続くことにもなりかねないだろう。そして、日銀が苦しい状況に置かれているとの見方が広がること自体が、円安と金利上昇を招く。こうした悪循環の終わりは見えない。

(※情報提供、記事執筆:大和証券 チーフエコノミスト 末廣徹)