3月のイラン情勢悪化以降の2つの相場サイクルと5つのフェーズを考える
8月5日の米国株式市場は、マクロデータでは原油価格の下落が続いた以外には大きな材料がなく、小動きだった。
この日もイラン情勢の改善期待が高まった。具体的には、米ニュースサイトのアクシオスが米国とイラン、オマーンがホルムズ海峡の暫定的な開放で合意する見通しだと報じられたことが好感された。このところは、原油価格の下落に伴って株式市場全体で楽観論が広がってきたが、この日はまちまちな展開となった。
ダウ平均が上昇して3日連続で最高値を更新した一方、ナスダック指数とSOX指数は5営業日ぶりに反落した。AI・半導体関連株は3月にイラン情勢が悪化した際、スタグフレーション懸念が強まる中で投資資金の逃避先になって上昇した背景がある。そのため、必ずしも原油価格の下落がポジティブとは言えない。
イラン情勢悪化以降の株式市場の動きを簡単にまとめると、以下であった。
《サイクル1》
① 3月:イラン情勢悪化でリスク回避(株売り・債券売り・キャッシュ増)
② 4月:リスク回避の巻き戻し(株買い・債券横ばい・キャッシュ減)
③ 5月:スタグフレーション懸念が強まる中での安全資産としてのAI・半導体関連株への資金退避(AI・半導体買い・債券横ばい・キャッシュ減)
④ 6月:イラン情勢改善による物色の広がり(AI・半導体売り・景気敏感や消費関連買い・債券横ばい・キャッシュ減)
⑤ イラン情勢の再悪化によって《サイクル2》に進んだので不明
《サイクル2》
① 7月(前半):イラン情勢の再悪化によるリスク回避(株売り・債券売り・キャッシュ増)
② 7月(後半):過度なリスク回避の巻き戻し(株買い・債券横ばい・キャッシュ減)
③ (AI・半導体関連株の高値警戒感で「安全資産」がなくなり、省略)
④ 8月:イラン情勢改善による物色の広がり(AI・半導体売り・景気敏感や消費関連買い・債券横ばい・キャッシュ減)?
⑤ ???
ここで、《サイクル1》と《サイクル2》を比較すると、フェーズ③の「安全資産としてのAI・半導体関連株の資金シフト」、の有無を除けばほとんど同じ流れとなっている。《サイクル2》において、フェーズ③がなくなってしまったのは、トランプ大統領によるTACO(方針転換)が早期に行われたことに加えて、《サイクル1》の段階でAI・半導体関連株が大きく上昇し、もはやAI・半導体関連株が安全資産ではなくなってしまったことが主因だろう。
8月は再び「イラン情勢改善による物色の広がり」になっているとすれば、しばらくはAI・半導体関連株の調整が続き、一方で物色の広がりがみられるだろう。この日の株式市場はこの動きに沿ったものと言える。
2つのサイクルを確認すると、フェーズ①~④の間、債券は売られたままになっている点が気になるところである。イラン情勢の再悪化によって《サイクル1》は未完のまま終わり、《サイクル2》に進んだ。
仮に、《サイクル1》にフェーズ⑤があった場合、どのような動きになっていたのだろうか。筆者は、イラン情勢悪化のサイクルが落ち着く中でインフレ懸念(スタグフレーション懸念)が落ち着き、債券が買い戻されていたのではないかとみている。
⑤ インフレ懸念が落ち着く中で債券市場に資金回帰(株売り・債券買い・キャッシュ変わらず)?
むろん、イラン情勢が再び悪化し、再びサイクルの途中で《サイクル3》が始まってしまう可能性はある。しかし、中間選挙が近づく中で、そのリスクはかなり低下しているとみられる。したがって、現在の《サイクル2》フェーズ④から、上記のフェーズ⑤に入るのかを見極める必要がある。
経済データの結果からインフレ懸念が落ち着くかどうかが重要だが、市場の雰囲気を変える(フェーズを進める)とすれば、雇用統計には特に注目が必要だろう(言うまでもなく、雇用統計が弱ければディスインフレの見方が増えてフェーズ⑤が意識される可能性が高い)。
債券市場はデータ待ち
8月5日の米国債券市場はほとんど動きがなかった。
長期金利は前日から横ばい、2年金利は同▲1.0bpだった。10年実質金利が同+1.0bp、10年インフレ予想(BEI)が同▲1.0bpとなった。ウォーシュFRB議長がFRBのコミュニケーションを最小限にし、市場のスタビライザー効果を活用する姿勢を示していることから、市場の動きに特徴が出にくくなっている模様である。
FRBがスタンスを示さない状況が続く場合、市場の転換点になり得るのは経済データとなる。前述したように、市場がフェーズ⑤に向かえばまとまった幅で長期金利が低下することになるだろうと、筆者は予想している。
(※情報提供、記事執筆:大和証券 チーフエコノミスト 末廣徹)