国際サッカー連盟(FIFA)が今夏主催した男子サッカーのワールドカップ(W杯)北中米大会は、観客動員数とチケット価格、収入がいずれも過去最高を更新した。大成功に終わった大会から数週間後、FIFAのジャンニ・インファンティノ会長は、FIFAがさらに稼ぐための構想を打ち出した。

W杯を含むFIFA主催大会のメディア権や商業権を保有する新たな子会社を設立する計画は、FIFAに加盟する211協会への収益配分を拡大することを目指すとともに、非営利団体であるFIFAが初めて外部投資家を受け入れる道を開くはずだった。

しかし、FIFAは7月31日夜に出した声明で、この構想を撤回。「あらゆる意見に注意深く耳を傾けた結果、このプロジェクトは、支持の程度にかかわらず、当初掲げた目的の利益にならないほどの分断を生み出していることが明らかになった」と表明した。

同会長は、ゴルフのPGAツアーが2024年に営利事業会社を設立したように、他のスポーツでも採用されている手法を取り入れようと図った。しかし、とりわけ欧州で強い反発を招いた。

純粋なサッカーファンや指導者は、スポーツの理念を守るべき組織が商業主義によって損なわれると批判。この計画を主導する関係者の顔ぶれも議論の的となった。

FIFAの役割とは

FIFAの公式な立ち位置は、世界のサッカーを統括する競技団体だ。これは、多くのサッカーファンが期待する役割だ。

その役割には、W杯などの国際大会を開催し、それらの大会から得られる収益を、加盟する各国・地域のサッカー協会を通じて草の根レベルの競技振興に配分することが含まれる。

サッカーと収益強化は何が新しかったのか

端的に言えば、新しいことではない。英イングランド1部プレミアリーグのファンであれば誰もが実感しているように、中東や米国の投資家が近年、マンチェスター・シティやチェルシー、ニューカッスルなどへ資金を投じたことで、クラブの企業価値は急上昇した。

サッカークラブの収入番付「デロイト・フットボール・マネーリーグ」では、レアル・マドリードが12億ユーロ(約2200億円)で首位となっている。また、サウジアラビアは2034年W杯開催を前に、自国リーグ強化のため移籍市場で巨額の資金を投じ、勢力図を塗り替えつつある。

それでも、多くのファンは、代表チームによるサッカーを、クラブサッカーを支配しつつある資金競争から距離を置ける存在と考えている。

国際サッカーでも膨大な資金が動いており、FIFAは今夏のW杯でスポンサー収入などを含め約150億ドル(約2兆3500億円)を稼いだ。FIFA収入の一部は若手選手の育成や練習施設の整備、資金力に乏しい各国サッカー協会への支援に充てられている。

各国協会は、少なくとも直接的には、有力選手を獲得して代表チームを強化することはできない。

インファンティノ会長はW杯を売却しようとしていたのか

インファンティノ会長は、競技運営やW杯を含む大会の開催方法は何も変わらないと主張していた。FIFAは以前の声明で、「FIFAワールドカップは売り物ではない」と強調し、「FIFAは、自らが所有・管理する商業子会社を設立し、既存の権利事業や大会運営に専門的な商業ノウハウと長期資本を導入することを提案している」と説明していた。

予定されていた新しい子会社「FIFAフォワード・エンタープライズ」は、ライブスポーツ中継権への需要が高まる中で、FIFAが保有する最も価値の高い商業資産からの収益拡大を目指すはずだった。企業価値は200億ドルと見積もられ、インファンティノ会長は外部投資家への持ち分売却を通じて最大42億ドルを調達したい考えを示していた。

FIFAは、自動車レースの最高峰フォーミュラワン(F1)やスペイン1部ラ・リーガなどの事例を挙げ、加盟協会への資金配分は150%増えるとしていた。

なぜ反発が起きたのか

批判の一部はインファンティノ会長自身に向けられた。

FIFAは1904年、欧州7カ国の協会によってサッカー競技の統括を唯一の目的として設立された。しかし、インファンティノ会長は、トランプ米大統領に「FIFA平和賞」を授与したほか、トランプ氏の「平和評議会」発足式典にも出席。サッカーとマネー、政治権力の境界を曖昧にしていると非難されている。

さらに、今年のW杯で米代表のフォラリン・バログン選手にレッドカードが提示された後、トランプ氏がW杯に介入したことについても、批判派は、インファンティノ会長がトランプ氏に接近した結果だとみている。

また、ゼップ・ブラッター前会長の時代には、元FIFA幹部らが汚職事件で有罪判決を受けた経緯もあり、今回の反発の背景となった。さらに、トランプ氏の娘婿ジャレッド・クシュナー氏の弟でベンチャーキャピタリストのジョシュア・クシュナー氏が資金調達計画に関与していることも、反発を和らげるには寄与しなかった。

非難は特に欧州で強かった。「FIFAクラブワールドカップ」が拡大されれば、欧州サッカー連盟(UEFA)が主催する収益性の高い「UEFAチャンピオンズリーグ」の価値が損なわれる恐れがある。

ドイツ1部ブンデスリーガのボルシア・ドルトムントなどは、FIFAが収益拡大を目的に大会を増やせば、選手への負担がさらに重くなると警告した。

ドイツサッカー連盟副会長も務めるドルトムントのハンスヨアヒム・ヴァツケ会長は、これをスポーツそのものへの全面的な攻撃だと批判。一方、FIFAは、将来的な役職や報酬を保証することでインファンティノ会長自身が利益を得るとの報道を否定していた。

FIFAが断念するまでの経緯は

ブルームバーグが報じたところによると、インファンティノ会長は加盟協会に対し、9月までに子会社設立計画を支持しなければ将来的な資金配分が減る可能性があると通告していた。

これに対し、欧州の有力な加盟協会は反発を強め、7月30日に開かれたオンライン緊急会合では、UEFA加盟55協会が、インファンティノ会長が方針を撤回しなければFIFA主催大会をボイコットする方針で一致した。

インファンティノ会長の計画実現には過半数の支持が必要だった。FIFAでは欧州よりもアジア・アフリカ・中南米の加盟国の方が数で上回っており、これらの地域は計画を支持する可能性は高かった。

ただ、2026年W杯王者のスペインをはじめとする欧州の強豪国を欠いた将来のW杯は想像し難い。欧州勢の不参加は次回大会の収益を押し下げ、世界各国のサッカー協会の財政にも影響を与え得る。

インファンティノ会長の立場は安泰か

今回の騒動は、2027年3月に予定される会長選でインファンティノ会長が新たな任期を確保できるかどうかにも影響する可能性がある。

英紙ガーディアンによると、同会長はすでに200を超える加盟協会から再選支持を取り付けている。

一方、欧州サッカー界の関係者が再選阻止に向けた対立候補擁立を模索しているとの報道もある。候補者として、パリ・サンジェルマンの筆頭株主であるカタール・スポーツ・インベストメンツのナセル・ケライフィ会長の名前が取り沙汰されている。

原題:Why So Many Fans Hate Infantino’s FIFA Funding Plan: Explainer、FIFA Drops World Cup Stake Sale Plan in Setback for Infantino(抜粋)

--取材協力:Giles Turner.

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