(ブルームバーグ):ウォール街では今や半ば格言のように語られている言葉がある。「ケン・グリフィン氏から電話がかかってきたら、自分が窮地に陥っていると考えた方がいい」というものだ。
今回、その電話を受けたのはAI投資で急成長していたヘッジファンド、シチュエーショナル・アウェアネスだった。同社は突如失速したが、グリフィン氏が割安な価格で資産を引き受けに動いたことに驚く市場関係者はほとんどいなかった。グリフィン氏は数十年にわたり、市場の混乱やヘッジファンドの破綻など、他者の苦境を投資会社シタデルの利益へと変えてきたからだ。
エルレン・キャピタル・マネジメントのマネジングパートナー、ブルーノ・シュネラー氏は、「これらは慈善的な救済ではない」と指摘する。少なくとも、グリフィン氏が24時間以内でまとめ上げた今回の取引により、シタデルの旗艦ファンドは低調だった7月の運用成績をある程度補うことができそうだ。
今回の案件は、2000年代初頭までさかのぼる一連の取引の最新例にすぎない。アマランス・アドバイザーズやエンロンなど、著名な破綻案件でもグリフィン氏は同様に素早く動いてきた。

関係者の1人によると、アマランスとの取引だけでも、シタデルは通常なら約6カ月かけて得るような1桁台後半のリターンを獲得したという。今回のシチュエーショナルとの案件も過去と同様であれば、大きな利益につながる可能性が高い。
シタデルが具体的にどの銘柄を取得したかは明らかではないが、シチュエーショナルが保有していた主要な上場株の多くは7月30日に急伸した。コアウィーブは約22%上昇し、ブルーム・エナジーは26%高となった。
業界関係者によれば、シタデルを際立たせているのは、問題の兆候をいち早く察知し、すかさず行動に移す能力だ。経営難に陥った企業やファンドへの投資で実績を重ね、ウォール街屈指のしたたかな投資家との評価を築いてきた。
ヘッジファンド大手AQRキャピタル・マネジメントの共同創業者クリフ・アスネス氏は、投資が悪化した後にシタデルから連絡を受けた時の心境を尋ねられたことがある。
アフネス氏は2007年、クオンツ投資が混乱していた時期を振り返り、「死の使いが近づき、死に神が鎌で玄関をたたく音が聞こえた。私は必死に光の方へ逃げようとした」と語った。
シタデルは最新の取引で、大量のAI関連株を取得した。30日、同社はシチュエーショナルから約10%のディスカウントで大規模な株式ポートフォリオを取得し、OpenAIの元研究者レオポルド・アシェンブレンナー氏が立ち上げたシチュエーショナルを救うとともに、AI大手アンソロピックの重要な持ち分を売却せずに済むようにした。

グリフィン氏の動きは、市場に安心感をもたらし、相場の反発につながった。450億ドル(約7兆900億円)規模で、高いレバレッジと集中投資を特徴とするシチュエーショナルが行き詰まる可能性への懸念から、市場は動揺していた。
今回の取引はシタデル自身にも追い風となる見通しだ。同社にとって7月は厳しい月となっており、事情に詳しい関係者によると、旗艦ファンド「ウェリントン」は7月24日時点で月間リターンが50ベーシスポイント(bp、1bp=0.01%)未満にとどまっていた。
もっとも、市場全体もAI関連株の急落で厳しい局面にあった。ただ、一部では持ち直しの動きも見られ、ハイテク株比率の高いナスダック100指数は30日に3.4%上昇した。
シタデルの広報担当者はコメントを控えた。シチュエーショナルの広報担当者からも現時点でコメントは得られていない。
関係者の1人によると、シタデルは29日夜にシチュエーショナルへ接触し、一晩かけて交渉を進め、30日の市場開始前までの24時間足らずで契約締結にこぎ着けた。
まさにシタデルらしい一手だった。経営難に陥った相手を見極め、素早く動いて有利な条件で資産を取得するという、グリフィン氏が数十年かけて磨き上げてきた手法だった。
エルレン・キャピタルのシュネラー氏は、「シタデルは白馬の騎士として行動しているのではなく、計算された投資を行っている」と指摘する。「救世主と見るか、ハゲタカと見るかは立場によるが、経営危機に陥った企業やファンドに資金を投じる高度な投資家と理解する方が適切だ」という。
関係者によれば、グリフィン氏はこうした案件への対応を定型化しており、過去には共同最高投資責任者(CIO)のパブロ・サラーメ氏ら幹部を集めて作戦室を立ち上げ、その後は取引の決済やコスト精査、各種の実務手続きを担うオペレーション部門へ対応を引き継ぐ体制を取っていたという。
投資家にとっては、グリフィン氏自らが案件を主導することに利点がある。通常はポートフォリオマネジャーへの報酬を負担する必要があるが、グリフィン氏が直接取引をまとめる場合には、その費用を負担しなくて済むケースが多いと関係者は話す。
もっとも、シタデルの投資が常に成功したわけではない。2021年にはシタデルとポイント72アセット・マネジメントが、ゲームストップなどの空売りで巨額損失を被ったメルビン・キャピタル・マネジメントに27億5000万ドルを支援した。しかしメルビンは2022年に破綻し、投資家に資金を返還することとなったが、事情に詳しい関係者の1人によれば、シタデルはこの取引で損失を被らなかったという。
シタデルは経営難に陥った企業から優秀な人材を獲得することもあった。2001年にはエンロンが連邦破産法の適用を申請してからわずか数時間後に、同社のクオンツ調査チームを採用した。その後も、VAマネジメント、ハッチン・ヒル・キャピタル、キュムラスなど経営難に陥った運用会社からトレーダーのチームを引き抜いている。
グリフィン氏は2016年、「採用したい人材とは、他社から引き抜きたい人材だ」と述べている。
また、割安な価格で資産を取得した例も多い。2006年には66億ドルを失い閉鎖されたアマランス・アドバイザーズから天然ガス関連の投資ポジションを取得した。
さらに2007年7月のある日曜日には、ソーウッド・キャピタル・マネジメントが翌日の市場開始前までにポートフォリオの大半を売却する必要に迫られ、シタデルへ支援を要請したこともあった。
グリフィン氏は、「50人規模のチームを可能な限り早く編成し、8人をボストンへ派遣してデューデリジェンスと情報共有を進めた」と振り返る。300億ドル規模のポートフォリオ全体を取得することは途方もない作業だったと語った。
そして午前6時、市場開始前までにシタデルはソーウッドの資産の大半を取得した。
ヘッジファンド、オーシャン・パーク・インベストメンツの創業者J・デニス・ジャンジャック氏は、「シタデルはシチュエーショナル案件でも大きな利益を上げる可能性が高い」と指摘。「重要なのは絶好球が来るまで辛抱強く待てるか、そして来た時に思い切って振り抜けるかだ。シタデルはそれができる会社だ」と述べた。
原題:Griffin’s Knack for Sniffing Out Trouble Set to Reward Citadel(抜粋)
--取材協力:Nishant Kumar、Katherine Burton、Janet Paskin.もっと読むにはこちら bloomberg.com/jp
©2026 Bloomberg L.P.