・ライフイベントを機とする生命保険の加入意向は近年変化の兆し。
・過去15年間の調査に基づき、ライフステージ別の意向推移を分析する。
・追加加入や見直し理由の変化を整理し、現代の生保ニーズを概観。
はじめに
生命保険は、万が一のリスクに備えるための代表的な金融商品であり、結婚や子どもの誕生、住宅取得などのライフイベントを契機として加入・見直しが行われることが多いとされてきた。一方で、近年は少子高齢化や未婚化、共働き世帯の増加などにより家族構成や働き方が変化するとともに、NISAの普及をはじめとする資産形成手段の多様化や、インターネットを通じた情報収集・商品比較の浸透など、生命保険を取り巻く環境は大きく変化している。
こうした環境変化の中で、生活者の生命保険に対する考え方や加入行動も変化している可能性がある。本稿では、ニッセイ基礎研究所「生保マーケット調査」を用いて、2009年から2024年までの15年間における生命保険の加入意向の変化を整理する。
生命保険 今後の加入意向
1|今後の加入意向・掛け替え意向
今後の加入意向について尋ねた結果について、調査で、加入者に対しては「新たに加入したい(「追加加入」を含む)」「現在加入している生命保険の一部または全部を他の保険に掛け替えたい」または「新たな加入も、掛け替えも考えていない」、非加入者に対しては「新たに加入したい(「追加加入」を含む)」または「新たな加入も、掛け替えも考えていない」から1つ選択してもらっている。

この15年間で、もっとも大きな変化があったのは非加入者の新規加入意向で、2009年時点でもっとも高かった「第一子誕生(60.0%)」が2024年には11.9%と大幅に低下していた。2009年時点でもっとも低かった「子独立(16.7%)」は2024年には8.8%とやはり他のライフステージと比べて低かったが、ライフステージによる差はこの15年間で縮小していた。
加入者の追加加入意向もこの15年間で低下傾向にあった。加入者の追加加入意向は、2009年時点でもっとも高かった「第一子誕生(17.3%)」が2024年には11.9%に低下しており、非加入者の新規加入意向ほどの差ではないが、ライフステージによる差は縮小していた。加入者の掛け替え意向は2009年以降、2014~2019年は全ライフステージで上昇していたが、2024年調査では2019年調査と比べてやや低下、2009年調査と比べるとやや上昇していた。掛け替え意向は、2009年時点でもライフステージによる差は小さく、2024年時点でも同様だった。
加入者においては、追加加入意向が低下、掛け替え意向が小さな変化はあるものの概ね横ばいで推移していることにより、「新たな加入も、掛け替えも考えていない」は、2009年の74.3%から2024年の79.1%に上昇しており、ニーズとのズレは低下していると考えられる。
生命保険文化センター「生命保険に関する全国実態調査」によると、生命保険の世帯加入率は2009年の90.3%から2024年の89.2%へと小幅な低下にとどまっている。末子が小中学生の世帯でも94.2%(世帯主:93.1%、配偶者:85.6%)から91.5%(世帯主:87.6%、配偶者:82.0%)への低下であり、加入率の低下は数ポイントに留まっていた。しかし、本調査によると、特に非加入者の新規加入意向が大幅に低下しており、実際の加入率以上に、今後の加入に対する意識が変化していることがうかがえる。また、加入者では、この10年間、追加加入意向よりも掛け替え意向の方が高い状態が続いていた。
掛け替えまたは追加加入の理由とその背景
続いて、2014年と2024年の調査から、加入者の掛け替えまたは追加加入の理由を尋ねた。2024年調査では、「保障内容が不足している」が上昇しており、「保険内容が過剰になっている」や「掛金が高い」を上回る結果となっていた。一方、「保障内容が自分に合っているかわからない」や「掛金が高い」はやや低下していた。
背景をみるために、本調査において、加入者が現在負担している掛金をみると、年間の平均掛金(保険料)は2014年の18.6万円から2024年には16.5万円へと低下していた。これに伴い、掛金(保険料)について「余裕がある」または「やや余裕がある」と回答した割合は17.9%から26.0%へ上昇し、「苦しい」または「やや苦しい」は37.2%から27.8%へ低下していた。「適当である」は35.6%から37.6%にやや上昇していた。


おわりに
以上のとおり、本稿では、加入者、非加入者それぞれに対して、今後の加入意向を尋ねた結果、いずれも新規加入意向(追加加入意向)はこの15年で大幅に低下していた。また、ライフステージによる意向の差が小さくなっていた。掛け替え意向は2009年以降、2014~2019年は全ライフステージで上昇していたが、2024年調査では2019年調査と比べてやや低下、2009年調査と比べるとやや上昇していた。ライフステージによる加入意向の差が縮小していたことから、従来のように結婚や子どもの誕生といったライフイベントを前提とした生命保険加入行動の特徴が弱まっている可能性が示唆された。
加入者について、追加加入や掛け替えの理由をみると、「保障内容が自分に合っているかわからない」や「保障内容が不足している」「掛金が高い」が大きな理由となっている点は2014年も2024年も同じだったが、2024年では「保障内容が自分に合っているかわからない」、「掛金が高い」は低下していたこと、「保障内容が不足している」が「掛金が高い」や「保険内容が過剰になっている」を上回っていたことが特徴的だった。その背景として、2024年調査における年間に負担している掛金額は、2014年と比べて低下しており、収入や資産に対して「余裕がある」と回答している割合が10ポイント程度高く、「苦しい」と回答している割合が10ポイント程度低くなっていた。
「保障内容が自分に合っているかわからない」が低下傾向にあることもあわせて考えると、2014年と比べて、保険料負担の見直しや無理のない保障内容へと調整が進んだ可能性がある。
2000年代後半から2010年代前半にかけては、来店型保険ショップの急速な普及やネット生命保険会社の参入を背景に、生命保険の「見直し」が広く浸透した時期であり、本調査でも2014年と2019年の掛け替え意向が2009年や2024年を上回っていたが、そういった時期を経て、世帯ごとに納得できる保障内容や保険契約に近づいた可能性がある。
一方、「ますます拡大する日本の死亡保障不足-2024(令和6)年度 生命保険に関する全国実態調査<速報版>より-」に指摘されるように、日本において、世帯主に万が一のことがあった場合の家族に必要となる生活資金への死亡保険金額による充足度は、2009年の30.5%から2021年には24.4%にまで低下しており、死亡リスクが過小評価されていることや、特に日本では生命保険商品の複雑さが障壁となっているとされる。生命保険の見直しが広がった現在でも「保障内容が自分に合っているかわからない」が依然として高く、かつては「よくわからないけど加入しておこう」と考えられていたものが「内容を理解・納得してから判断したい」と考えるようになったのだとすれば、保険会社はわかりやすく商品を説明する工夫がさらに必要となるだろう。
近年は、NISAの浸透など生命保険以外の資産形成手段も広まりつつある。こうした環境変化も踏まえると、生命保険会社には、従来のライフイベントだけでは捉えきれない生活者の価値観やリスク管理に対する考え方に応じた提案が求められているのではないか。

(※情報提供、記事執筆:ニッセイ基礎研究所 保険研究部 主任研究員・ヘルスケアリサーチセンター兼任 村松 容子 )