中国はクリーン技術で目覚ましい進展を遂げ、AIでも急速に台頭している。それでも、最先端の工学分野で米国が大きく先行している領域がある。それは宇宙だ。だが、その構図も変わろうとしている。

今月10日に成功した「長征10号B」ロケットの第1段ブースターの回収は、中国の宇宙産業にとってこれまでにない前進となった。

第1段ブースターは、第2段ロケットや宇宙船などを押し上げる役割を担い、従来は打ち上げのたびに切り離されて廃棄されていた。

この部分を再利用できるようにしたことで、イーロン・マスク氏率いるスペースXのロケット「ファルコン9」は打ち上げコストを劇的に削減した。わずか二十数基の第1段ブースターを繰り返し運用することで、スペースXは他社を寄せ付けない地位を築いてきた。同社が運用する約1万基の衛星は、現在稼働する人工衛星全体の3分の2超を占めている。

中国南部から打ち上げられ、第1段ブースターの洋上プラットフォーム着陸に成功した長征10号Bは、米国外で初めてスペースXに対抗し得る有力な競争相手となった。

再利用ロケットを回収することは極めて難しい技術的課題だ。これまで実現した企業は、スペースXのほかにジェフ・ベゾス氏が支援するブルーオリジンだけだった。ただ、同社も5月に発射台で大爆発に見舞われるまで、成功したミッションはわずか1回にとどまっていた。

ブースターは制御しなければ、貨物列車が崖に衝突するほどの衝撃で海に激突する。それを損傷なく着陸させ、数週間で再び運用できる状態に戻すこと自体が驚異的な技術だ。

しかも長征10号Bは、単なるファルコン9の模倣ではない。

ファルコン9やブルーオリジンのロケット「ニューグレン」のように、逆噴射で減速して着陸脚で着地するのではなく、長征10号Bはワイヤーに第1段を引っ掛けて回収する方式を採用した。これならロケット本体への負荷を軽減できる可能性があるほか、着陸脚が不要になるため、その分だけ搭載能力を高められる。

この方式が成功するかは別として、中国のロケット技術者が独自の発想で新たな手法を生み出していることを示している。そうした挑戦心こそ、着陸成功そのもの以上に、スペースXの揺るぎない技術的優位を脅かす要因になるかもしれない。

中国の宇宙産業全体を見渡すと、10年近く前の電気自動車(EV)業界によく似ている。当時も今と同じように、マスク氏は競合ではなく、自らの課題との戦いを続けているようだった。

テスラは2017年、主力車種「モデル3」の量産体制に移行する過程で「生産地獄」に陥った。破綻寸前まで追い込まれたものの、その試練を乗り越え、同社は世界の自動車産業の時価総額の半分以上を占めるまでになった。

スペースXも、開発中の完全再使用型打ち上げシステム「スターシップ」が、同じように苦境を乗り越えて成功へと至ることを期待している。もし成功すれば、ファルコン9の少なくとも5倍の貨物を運べるようになり、打ち上げコストもさらに低下し、軌道への打ち上げがほぼ日常的なものになる可能性がある。

17年当時と同様、今も有力なライバルが控えている。10年前、中国のEV産業を本気で脅威と見る人はほとんどいなかった。当時、新興EVメーカーが販売していた車の多くはゴルフカート同然の代物だった。国内市場で既存の自動車メーカーに対抗することさえ難しく、まして輸出で存在感を示すとは誰も考えていなかった。

比亜迪(BYD)はすでに頭一つ抜けた存在だったが、蔚来汽車(NIO)や理想汽車、小鵬汽車、浙江零跑科技(リープモーター)、寧徳時代新能源科技(CATL)などの新興企業は、実力より期待が先行しているように見えた。

それから10年も経過しないうちに、これらの企業がトヨタ自動車やドイツのフォルクスワーゲン(VW)、米ゼネラル・モーターズ(GM)を震え上がらせる存在になると予想した人はほとんどいなかった。

現在の中国の宇宙産業も、まさにそうした状況にある。

長征を製造する国有の中国航天科技集団や研究機関系のグループに加え、複数の民間ロケット企業が再利用型ロケットの開発を進めている。どの企業が成功するかは誰にも分からない。

しかし、これほど多くの企業が競い合う構図は、民間と地方政府、中央政府から資金が相次いで投入され、世界トップクラスのEV産業を生み出した当時の熱気を想起させる。

中国の産業政策が、宇宙でもEVや太陽光発電と同じ道筋をたどるなら、10年後にはスペースXの技術的優位ではなく、中国の再利用ロケット業界で続く過当競争が話題になっているかもしれない。

その場合、中国企業同士の消耗戦によってコストは想像もできない水準まで低下し、世界中で中国の技術支配への懸念が高まることになるだろう。

現時点では、スペースXが宇宙輸送分野で圧倒的な優位にあることに疑いはない。だが、中国企業が急速に追い上げていることには注意を払うべきだ。

宇宙のことばかりに目を向けていると、地上で起きている変化を見落としかねない。

(デービッド・フィックリング氏は気候変動とエネルギーを担当するブルームバーグ・オピニオンのコラムニストです。ブルームバーグ・ニュースやウォールストリート・ジャーナル、フィナンシャル・タイムズでの記者経験があります。このコラムの内容は個人の意見で、必ずしも編集部やブルームバーグ・エル・ピー、オーナーらの見解を反映するものではありません)

原題:A Chinese Rocket Has Musk’s SpaceX in Its Sights: David Fickling(抜粋)

もっと読むにはこちら bloomberg.com/jp

©2026 Bloomberg L.P.