WTI原油先物価格の80ドル超でAI・半導体関連株への逃避は加速するか

7月21日の米国株式市場は、AI・半導体関連株が反発し、堅調だった。この日も米国とイランの軍事衝突が続く中で原油高が進み、長期金利には上昇圧力がかかったが、株価指数は3指数そろって上昇した。株式市場にとってポジティブな環境とは言えないが、このような動きは3~4月にイラン情勢が悪化した際にもあったことから、違和感はない。すなわち、①原油価格が上昇してインフレ懸念が強まることで債券が買いにくくなり、②実質賃金の目減りが予想される中で消費関連や景気敏感株にも投資資金を振り向けにくくなり、③とはいえ、景気後退に陥る状況でもないためディフェンシブ銘柄への注目度も上がらないため、④消去法的にこれらと関係なく業績拡大が期待できるAI・半導体関連株が「安全資産」として投資資金の逃避先になるという展開である。

引き続き、筆者はインフレ懸念が沈静化して債券市場に資金が戻っていくタイミングが相場の転換点(AI・半導体関連株の調整)になると予想している。足元では、再び原油価格が上昇していることから、この日にナスダック指数やSOX指数がまとまった幅で上昇したことに違和感はない。もっとも、3~4月時点と異なり、AI・半導体関連株に高値警戒感があることも事実である。AI・半導体関連株の大相場が再び到来する可能性は低い。AI・半導体関連株ではない比較的安全かつ有望な投資先を模索する動きが生じるだろう。仮に筆者の予想に反してAI・半導体関連株が再び大きく上昇することがあれば、それだけ市場に有望な投資先がないことを示すことになる。なお、筆者はそのような有望な投資先を思いついていないため、淡々と債券を買っていくことが、中長期的には高いパフォーマンスにつながると考えている。

原油高によってさらに利上げ観測が強まる

7月21日の米国債券市場では、原油高が進む中で利上げ観測が強まり、金利が上昇した。長期金利は前日比+3.6bp、2年金利は同+5.5bpと、上昇した。原油高による短期的なインフレ懸念がFRBの利上げ観測を強めており、FF金利先物市場では9月までの利上げ確率が83.7%に達した(前日は72.1%)。26年中の利上げ回数の織り込みは約1.56回となり(同約1.36回)、一段と警戒感が強くなってきた。長期実質金利が前日差+2.3bpの2.35%となり、23年10月以来の高水準となっている。一方、10年BEIは同+1.3bpと小幅な上昇にとどまり、水準も低い。長期的なインフレスパイラルが懸念されている状況ではないため、短期的なインフレ圧力に対してFRBがどのようなスタンスを示すのか(牽制的な利上げを実施するか)に注目が集まる。

骨太を巡る不協和音が明らかになる中、財政は「短期警戒・長期楽観」

政府は7月21日に「骨太の方針2026」を閣議決定した。今回の骨太の方針を巡っては、原案時点で財政健全化に消極的であるという見方や日銀の利上げを望んでいないというスタンスが意識され、骨太ショック(長期金利上昇、円安)と言われる動きに発展し、最終的には文言が修正されることになった。

この動きについて、日経新聞は「高市政権発足から間もない2025年11月。『自分たちで一から書く。財務省に原案をつくらせない』。経済運営の司令塔である城内実経済財政相は高市早苗首相の経済ブレーンらでつくる『検討チーム』を立ち上げた」「首相や城内氏らが狙ったのは実質的な主導権を財務省から引きはがすことにあった」と報じた。最終的には「足元の官邸一強の政治情勢のもとで、官邸に真っ向から口を出す役所はいない。市場の圧力が強まって、火消しに動いたのは正規とは異なる別ルートだった」とされ、「片山さつき財務相は自民党の小林鷹之政調会長に電話で相談した。党から修正要求の声をあげるよう調整した」という流れになったという。

他方、朝日新聞は骨太の方針の文言修正について「7月上旬、片山さつき財務相は自民党の麻生太郎副総裁、鈴木俊一幹事長のもとを相次ぎ訪れた」と報じた。その後も「ただ、この文言修正でも国債売りを止めるには、力不足の可能性があった」(毎日新聞)という状況が続く中で、片山氏は「年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)による国債買い増しを示唆する発言」(同)を行った。この発言についても「関係者によると、片山氏は前日に自民党の麻生太郎副総裁、鈴木俊一幹事長を訪ね、発言内容を調整した」(同)という。

これまで、高市首相と片山氏の関係は良好だという評価が多かったように思われる。しかし、骨太ショックを巡っては、片山氏は自民党側から火消しを行った。このことが、①官邸主導で生じた問題なので、距離のある自民党の側から火消しを行わざるを得なかったのか(戦略的な動き)、②高市首相と溝が生じているのか、今後の財務省のスタンスにも影響を与え得るため、注目が必要である。この観点からは、骨太の方針の文言修正について「小林鷹之政調会長に電話で相談した」(日経新聞)という点は戦略的な動きにみえるが、GPIFについて「麻生太郎副総裁、鈴木俊一幹事長を訪ね、発言内容を調整した」(毎日新聞)という点はやや気になる。麻生氏は5月に「国力研究会」を立ち上げるなど、自民党内でキングメーカーとしての立場を強めている。皇室典範の改正を主導していると報じられ、この動きが高市内閣の支持率低下に寄与しているという指摘も多い。片山氏が麻生氏を頼る動き自体が、片山氏と高市首相の距離感の変化を示している可能性があるだろう。7月上旬には円安への対応を巡って「高市首相と片山財務相は積極財政で二人三脚のように見えるが、片山さんは元財務官僚です。経済オンチの高市首相と違って、日本の財政状況を理解している。海外への見え方、 米国の意向などもさすがに分かっている」(自民党関係者、日刊ゲンダイ)という報道もあった。財政政策だけでなく、為替介入の判断も含めて、不透明感が強くなっていると言えよう。

債券市場では、積極財政を主導する高市政権が孤立していくという構図そのものは、財政リスクが低下したと捉えられるだろう。消費税率の引き下げを巡っても、小林政調会長は21日放送のNHK番組で「飲食料品の消費税減税に自民内から慎重論が出ていることを巡り、結論に向けて党内の意見集約を図る考え」(共同通信)を示し、「まとめなければならない。(慎重論は)耳に入っているが、政権与党である以上、選挙での国民との約束も肝に銘じ、一定の結論を必ず出していく」(同)と述べた。

ただし、高市政権の求心力の源泉となっている内閣支持率を再び高めるために、高市首相が消費税率の引き下げを強行する可能性も否定できない。自民党内の反対を押し切って引き下げに踏み切れば、かえって高市政権の積極姿勢を際立たせることにもなりかねない。高市政権の財政リスクは「短期警戒・長期楽観」だと、筆者はみている。

(※情報提供、記事執筆:大和証券 チーフエコノミスト 末廣徹)