(ブルームバーグ):シリコンバレーでは長らく、世界のAI開発競争の勝敗は性能で決まると考えられてきた。最も高性能で強力なAIモデルを持つ企業が競争をリードするという考え方だ。だが、技術者による採用の広がりで勝敗を測るとしたらどうだろうか。その場合、中国勢は急速に存在感を高めている。
事例や限定的なデータによると、米国のスタートアップ企業では、AIを活用したコーディングや、トークンを大量消費する「トークンマキシング」のコストが負担になりつつあることから、コスト削減を目的に、DeepSeek(ディープシーク)やアリババグループ・ホールディング、月之暗面(ムーンショットAI)など中国企業の低価格モデルを採用する動きが広がり始めている。
ロンドンのあるスタートアップ創業者は最近、チーム全体でアンソロピックの月額200ドルの「Claude Max(クロードマックス)」プランを利用しているものの、アンソロピックが最先端モデルの料金を5倍以上に引き上げるのではないかと強く懸念していると筆者に語った。その程度の値上げであれば何とか対応できるが、予算的にはそれが限界だという。
価格競争が取り沙汰されているものの、AI大手のアンソロピックとその競合であるOpenAIには、利用料金を引き上げる十分な理由がある。先のロンドンのスタートアップ創業者によれば、自社のエンジニアは毎週数千ドル相当のトークンを消費しており、その計算資源はアンソロピックとその投資家が多額の補助をしている状態だという。両社は最近、利用量に応じて料金を課す従量課金制を導入したが、時価総額約1兆ドルでの新規株式公開(IPO)を目指す中では、その料金体系ですら採算面で正当化することが難しくなる可能性がある。
最先端のAIを業務フローに組み込んでいる企業の一部では、より低コストの選択肢への切り替えを模索する動きが出ている。必要なのはチェーンソーではなく、はさみで十分だという発想だ。小規模モデルでも、日常的なメールの仕分けや文案作成、文書の要約、一般的な顧客対応の質問への回答、データのタグ付けや分類、整理といった多くの日常業務には対応できる。こうした手頃で軽量なモデルの多くを現在提供しているのが中国企業だ。
例えば、杭州に本拠を置くDeepSeekの最新の主力AIモデルは、出力100万トークン当たりの料金が約0.87ドルであるのに対し、OpenAIは約30ドル、アンソロピックは約25ドルとなっている。トークンとはAI各社が料金算定の単位としているもので、請求対象となるテキストのまとまりを指し、おおむね1単語程度に相当する。
企業が複数のAIプロバイダーを使い分けることが多いため、市場シェアの実態を正確に把握するのは難しい。それでも、スタートアップ企業やソフトウエア開発者の間で、中国製AIモデルへの移行が進んでいることを示す兆候が表れている。ウェブサイトやアプリの展開に利用され、プログラマーが使用するAIモデルも追跡しているクラウドプラットフォームのヴァーセルによると、DeepSeekのAIトラフィックに占めるシェアは5月の1%未満から17%へ急上昇した。
同様のプラットフォームを運営するオープンルーター(OpenRouter)によると、DeepSeekの利用量は2026年1月から6月にかけて2倍に増え、同社ユーザーの間で最も利用されるモデルとなった。OpenRouterは最近のブログで、小米集団、ミニマックス・グループ、テンセント・ホールディングス(騰訊)など中国企業のオープンソースモデル群について、「過去6カ月間でいずれもトークンシェアを伸ばした」と指摘。その一方で、グーグルとOpenAIのシェアは低下したとしている。
OpenRouterが占める世界のAIトラフィックは約3%にすぎず、その大半はスタートアップ企業や独立系開発者による利用で、AI各社の収益の大部分を占める大企業顧客は含まれていない。それでも、この動向は開発者の利用先の変化を示すものであり、今後は大企業も同様の切り替えに踏み切る可能性があるのではないかとの疑問を投げかけている。
サンフランシスコに拠点を置くAIアシスタント開発企業のLindyは最近、25人規模の同社でAI関連コストが人件費を上回ったことから、アンソロピックのClaudeからDeepSeekへ切り替えたと明らかにした。最高経営責任者(CEO)のフロー・クリヴェロ氏は、この変更によりスタートアップ企業として「数百万ドル」を節約できたと述べた。一方で、「Maxプランの破格の補助」があることから、コーディング用途では引き続きアンソロピックを利用するという。
一方、民泊仲介の米エアビーアンドビーや、コーディングプラットフォーム「Cursor」を手がけ、スペースXによる買収が進められているAnysphereなど一部の大手企業は、米国製モデルを全面的に置き換えるのではなく、中国製モデルを選択肢に加えている。
こうした動きの背景には、米国のAI研究機関が競争優位性としてきた最先端技術が世界へ広がり、中国・深圳や上海のスタートアップ企業がその技術を「蒸留(distillation)」し、一部では露骨な模倣とみなされる手法を用いて、より安価で軽量なモデルを開発していることがある。
とはいえ、これは中国がすでに勝利したことを意味するわけではない。依然として最も高性能なAIモデルを開発しているのは米国であり、大企業顧客が調達先を近く変更する兆しもない。
しかし、歴史を振り返れば、普及そのものが競争上の優位性を生むことが示されている。世界中の開発者が中国製モデルを基盤に開発を進めるほど、それらのモデルに基づく慣行や標準、依存関係はプログラミングや急成長するスタートアップ企業の世界に深く根付いていく。これは、最も高性能なツールを競う争いほど目立たない競争かもしれないが、米国の主要AI研究機関はその競争で後れを取りつつある可能性がある。
(パーミー・オルソン氏はブルームバーグ・オピニオンのテクノロジー担当コラムニストです。ウォールストリート・ジャーナル(WSJ)やフォーブスで記者経験があり、著書は「Supremacy: AI, ChatGPT and the Race That Will Change the World」など。このコラムの内容は個人の意見で、必ずしも編集部やブルームバーグ・エル・ピー、オーナーらの見解を反映するものではありません)
原題:Anthropic and OpenAI Face a New Threat from China: Parmy Olson(抜粋)
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