欧州が6月下旬にかけて記録的な猛暑に見舞われる中、ブルームバーグはトレーダーやポートフォリオマネジャー、ストラテジストを含む顧客を対象にアンケートを実施した。尋ねたのは、シンプルだが重要な問い「職場で短パンをはくことは許されるのか」だ。

賛成と答えたのは45%にとどまった。率直に言えば、私はもっと少ないと思っていた。

フォーマルな職場で短パンが敬遠される風潮が根強いのは、何世紀にもわたって伝統と礼節を重んじてきた価値観があるためだ。しかし近年は気温上昇が続き、とりわけ多くの建物や学校に冷房設備がない欧州では、世界で最も速いペースで気温が上昇している。

そろそろ変化の時ではないだろうか。気温がセ氏32度を超えるなら、職場でも短パンを認めるべきではないか。それほどの暑さを我慢してまで長ズボンにこだわる理由はない。

もちろん反対する人も多い。アンケートでは、短パンは「プロらしくない」「カジュアル過ぎる」「金融業にはふさわしくない」との意見が寄せられた。ある回答者は「礼節と品位は守らなければならない。AIが人間らしさを奪っている今、最後に残されたのは長ズボンだ」と記した。

だが、好むと好まざるとにかかわらず、短パンは広がりつつある。日本では東京都の小池百合子知事が4月、男性職員が短パンで勤務することを認め、都内企業にも同様の服装規定の緩和を呼びかけた。これは電力需要を抑えつつ、職員の快適性を高めることを目的とした「東京クールビズ」の一環だった。

6月にミラノで開かれた春夏メンズコレクションでは、ラルフローレン、トムブラウン、ルイ・ヴィトン、イヴ・サンローラン、ディオールのショーで、モデルたちがブレザーやネクタイに短パンを合わせた装いでランウェイを歩いた。ランウェイで披露された着こなしは、単なるインスピレーションではない。快適さを犠牲にすることなく、洗練された装いを実現するための道しるべでもある。この暑さの中で先進的なデザイナーたちが示したのは、上半身はビジネススタイル、下半身は暑さ対策という発想だった。

冷房がほとんどなく、通勤時の地下鉄が蒸し風呂状態になるロンドンでは、6月24日に気温が36度まで上昇し、男女ともに短パン姿で街を歩く人が目立った。ロンドンの高級テーラー街サヴィル・ロウに店を構える「ナッチブル」の創業者兼最高経営責任者(CEO)、デイジー・ナッチブル氏は「近年は職場で短パンをはくことがはるかに一般化し、受け入れられるようになった」と話す。「テーラードショーツは、特に夏場には洗練されたオフィスウエアの選択肢になっている」という。

もちろん、テクノロジー企業や中小企業などカジュアルな職場では、短パンやTシャツ、サンダルなど夏場に快適な服装は以前から認められてきた。金融、保険、法律といった業界でも、エンジニアやIT部門では短パンが許され、スーツやビジネスカジュアルに身を包んだ営業担当者や幹部と同じ職場で働いているケースは珍しくない。

短パンが敬遠される理由

何世紀にもわたり、実用的で動きやすい服装は労働者階級の象徴だった。一方で、動きにくく高価な服装は、肉体労働とは無縁の立場を示すものだった。

衣装デザイナーで学者のクロエ・チャピン氏は新著「Suitable: The Sartorial Revolution and the Fashioning of Modern Men(スータブル:服飾革命と近代男性の形成)」で、「実用的な服装は日々の仕事をこなしやすくした。一方、動きを制限するコルセットや下着、繊細なシャツの袖口、重いかつらは、着用者が肉体労働をする必要のない身分、あるいはそんな仕事などできないような上流階級であることを示す印だった」と説明する。つまり、着飾ることは社会的価値の高さを示すことだった。

世界のオフィスウエアの原型は19世紀初頭の米国で形成された。産業革命で仕立服が広く普及し、オフィスワークも増えると、スーツで身体を覆うことが男性らしさの重要な規範となった。「スーツは身体を隠し、矯正するための一種のよろいだった」とチャピン氏は記している。

だが、以前はむしろ逆だった。19世紀以前の西洋では、男性らしさを示す上で重要だったのは、身体、とりわけ脚を見せることだった。

女性が1000年以上にわたりロングスカートで脚を隠していた一方、男性は、筋肉質な体つきや堂々とした立ち居振る舞い、美しい体形を備えた戦士や優雅な貴族が理想視される文化の中で、男らしさの証しとして脚を見せていた。18世紀の宮廷では、お辞儀や舞踏の際にふくらはぎの美しさを見せるため、ブリーチズ(膝丈のズボン)とぴったりしたストッキングが用いられた。

米国建国の父たちも当初はブリーチズを着用していたが、やがて欧州貴族の華美な装いと決別し、よりシンプルな服装へと移っていった。

長ズボンは敬意の象徴

英国で「短パンは子どもの服装」という認識が広まったのは、1910年にロバート・ベーデン-パウエル卿がボーイスカウトを創設し、その制服に短パンを採用したことがきっかけだった。これを機に、短パンは英国で少年の定番の服装となり、その後数十年かけて、子どもの服というイメージが欧州全体へ広がっていった。

多くの流行と同様、脚を見せることは歴史的に、見た目の問題というより、周囲にどう見られるかの問題だった。オフィスワーカーや経営者、ファッション業界、弁護士、銀行員、医師、接客業など多くの人に話を聞くと、共通認識は明確だった。短パンは人と向き合う場にはふさわしくないというものだ。短パンが認められる職場でも、経営陣や顧客との面談では避けるべきとされる。

国際的な法律事務所ハーバート・スミス・フリーヒルズ・クレイマーのパートナー、リチャード・ファーリー氏(59)は、「弁護士の服装は顧客に真剣さと細部への配慮、専門性を伝えるものでなければならない」とし、服装は決してささいなものではないと話す。その上で、1990年代に広まったカジュアルフライデー以降、職場の礼節が失われ始め、「職場の服装は顧客に自分たちの価値観や仕事への姿勢を示すものではなく、自分たちの快適さを優先するものだと考えるようになってしまった」と語った。

普段からスリーピースのスーツを着用する同氏は、良い印象を与える装いとして、「体に合った高品質の季節に適したスーツ、ドレスシャツ、できればネクタイ」を勧める。また「靴は茶色か黒の革靴、場合によってはスエードが望ましく、スニーカー風の革靴は避けるべきだ。インターン以外はリュックサックも好ましくない」という。

もっとも、ファーリー氏自身も服装に関して保守的な立場だと認める。長年スーツ着用を義務付けてきた企業の多くも、コロナ禍を機にその規定を緩和した。それでも、長ズボンは相手への敬意を示すものだという考え方は、昔ながらのオフィスで働く人たちだけにとどまらない。

インテリアデザイナーのジョシュ・グリーン氏は、18歳の時にパリでファッション業界紙「ウィメンズ・ウエア・デイリー」のインターンをしていた際、インターン終了時の面談で、編集者から職場に短パンをはいてくるのはふさわしくないと言われた。当時、パリはうだるような暑さだった。

それ以来、その言葉は今も頭から離れず、自身の会社を構えるインテリアデザイナーとなった今でも、職場に短パンで行くことにはためらいがあるという。

マンハッタンで不動産仲介業を営むロバート・ケデリアン氏も、真夏の酷暑の中を歩き回る仕事でありながら短パンは避けている。「短パン姿で物件を案内したことはあるが、毎回後悔した。顧客は何百万ドルもする物件を見に来ているのに、私が短パン姿では不適切だ。以前、短パン姿で物件案内に行った際、別の仲介業者から注意されたことがある。その指摘はもっともだった」と話した。

変化は訪れるのか

2010年代半ばにスポーツウエアを日常着として取り入れる「アスレジャー」が広がると、オフィスウエアにも体の動きや快適さを重視した発想が取り入れられるようになった。

ルルレモンやアスレタは、通気性や伸縮性に優れた素材を使ったビジネス向け衣料で大きな市場を築いた。コロナ禍以降、かつてスーツを着ていたマンハッタン中心部の会社員の多くが、ジョギングにも使えそうな機能性パンツをはくようになった。在宅勤務の普及は、快適な服装でも十分に仕事ができることを証明した。

また、パタゴニアなどが手掛ける実用性重視のアウトドアウエアを街や職場で着る「ゴープコア」というスタイルも人気を集めている。この言葉は、2017年に米ニューヨークの雑誌「ザ・カット」が生み出した。

股下の深いパンツで知られる前衛的なデザイナー、リック・オウエンス氏でさえ、より上品な「ワークショーツ」の展開を始めている。

「仕事にズボンをはかずに出勤してしまう」。イヴ・サンローランはそんな悪夢を思わせるスタイルをランウェイで披露した

こうした流れを見ると、社会は短パンを受け入れる準備ができているようにも思える。そこで私は、リネンからコーデュロイ、マドラスチェックまでさまざまな素材・柄の短パンを販売するブルックスブラザーズのCEO、ケン・オオハシ氏(51)に、職場で短パンは許されると思うか尋ねた。

答えは「ノー」だった。「社会はまだ、職場で短パンをはくことを受け入れていない。われわれ自身も、自社の店舗スタッフの手本となるような服装でいる必要がある」と答えた。

ファッション誌「ハーパーズバザー」やカルチャー誌「ヴァニティ・フェア」に寄稿するファッションジャーナリスト、デレク・ブラスバーグ氏(44)にも聞いたが、短パンで職場に行くことはないと断言した。

ニューヨークの著名な消化器内科医、マシュー・マクニール氏(39)は「あなたの担当医が短パン姿だったらどう感じるか」と、逆に問い返してきた。

もちろん、こうした考え方は珍しくない。メキシコ市、ドバイ、クアラルンプール、ムンバイ、ブエノスアイレスなど暑い都市でも、多くの職場では短パンは好まれないか禁止されている。その代わり、リネンやコットンなど天然素材のゆったりした服装が選ばれている。

ノルウェーを見習おう

職場での短パンに比較的寛容な数少ない地域の一つが北欧だ。

そこで私は、米国でも事業を拡大しているオスロの高級アウトドア衣料ブランド、アムンセン・スポーツ創業者のヨルゲン・アムンセン氏(49)に話を聞いた。アムンセンの服は丈夫で色鮮やかだ。オレンジやブルーの頑丈なコーデュロイの短パン、ギンガムチェックやサファリリネン生地を使ったオックスフォードシャツなど、アウトドア向けでありながら、都市生活にもなじむ服を展開している。

アムンセン氏は「もちろん山岳地帯や海辺のリゾートでも販売しているが、顧客の多くは都市で暮らす人たちだ。普段は都市で生活し、休みには自然の中へ出掛けて冒険を楽しんでいる」と話す。

同氏によれば、ノルウェー人は都市での生活と自然の中での生活をごく自然に行き来する傾向がある。そうした暮らし方を表すノルウェー語もある。「フリルフツリブ(friluftsliv)」だ。直訳すれば「野外生活」を意味し、健康や精神的な充実、長寿のために自然の中で過ごすことを大切にする考え方である。

アムンセン氏は「これは一つの考え方だ。都市にいても山にいても、自然とのつながりを意識して暮らすということだ」と話す。この考え方は、気候の変化に合わせて、服装も体の快適さを優先すべきだという私の考えに、まさに通じるものだった。

私は、都市でオフィス勤務をする人でもフリルフツリブの考え方を暮らしに取り入れられるのか、そして職場で短パンをはくことをどう思うのか尋ねた。

アムンセン氏は「職場では誰もが好きな服を着られるべきだ。服装は、その職業の制服である以上に、その人の個性や生き方を表すものといえる。当社の服は、森の中で着たその足でレストランに行くことも可能であるべきだと考えている。それが一体、なぜそれほど奇妙なことなのか」と疑問を呈した。

われわれは、変化する環境の中で身体の快適さを重視するオフィスウエアへと確実に向かっている。多くの都市で気温がさらに上昇する中、職場での短パンを支持する45%という数値も、少しずつ上向いていくのかもしれない。

原題:Wearing Shorts to Work? That Should Be OK in 2026: Essay(抜粋)

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