(ブルームバーグ):日本銀行の早期利上げを促す要因が増加している。企業活動が堅調に推移するとともに、円安の進行で日銀の2%の物価安定目標を上回るインフレが生じる可能性があるからだ。
これまでエコノミストの間では、日銀が約半年ごとのペースで利上げを行い、次回は12月の金融政策決定会合になるとの見方が大勢だった。しかし、足元の市場が織り込む日銀の追加利上げ確率は10月会合までが60%程度に達している。
早期の利上げとなる場合は日銀と政府の間で緊張が高まる可能性がある。一方で円安の主な要因の一つは、高市早苗首相が改めて金融緩和を支持する姿勢を示したことだ。政府が利上げに慎重な姿勢を示すとの観測も、円相場を対ドルで1986年以来の安値圏へ押し下げる一因となっている。
市場で米連邦準備制度理事会(FRB)の利上げを織り込む動きが強まる中、トレーダーの間では円相場が1ドル=200円に向けて下落するとの見方も出始めている。
日銀の政策金利が31年ぶりの高水準にある一方で、円相場は約40年ぶりの安値圏という相反する材料が入り交じる中、日本経済はこれまでのところ底堅さを維持している。日銀が1日発表した6月の企業短期経済観測調査(短観)は、市場予想を上回る内容となった。
中東情勢が景況感の重しになるとみられていたが、大企業製造業の業況判断指数は約8年ぶりの高水準となった。日銀が追加利上げに踏み切る前に主要な不確実要因として挙げてきた懸念の一つを和らげた。
三菱UFJリサーチ&コンサルティングの小林真一郎主席研究員は、「日銀の利上げが10月に早まる可能性は高まっている」と指摘。「円安は早期利上げのサポート要因。短観も全体的にみて経済の頑健性について日銀の自信を深めた」と語った。
短観の結果は、これまでの利上げが少なくとも現時点では企業の資金調達環境の悪化につながっていないことを示しており、追加利上げに反対する根拠の一つを後退させた。企業の資金繰り判断は1年ぶりに改善したほか、大企業のコマーシャルペーパー(CP)の発行環境判断も改善した。
これは植田和男総裁の認識とも一致する。植田総裁は6月3日の講演で、企業からのヒアリング情報などによれば、前向きな成長投資の足かせとなり得るのは、調達金利の上昇よりも、人手不足や資材価格等の高騰であるとの指摘が多いと述べた。実際、円安による輸入コスト上昇を背景に、円安関連倒産件数は増加している。
こうした状況を背景に、エコノミストの間では、日銀の利上げペースが従来の想定より速まるリスクを指摘する声が増えている。日銀は6月会合で、政策金利を1995年以来の高水準となる1.0%程度に引き上げた。会合前にブルームバーグが実施した調査では、エコノミストの71%が利上げは半年に1回程度と予想していた。
BNPパリバ証券の白石洋シニアエコノミストは、現時点では10月の利上げを基本シナリオとする一方、9月に前倒しされる可能性も高まっているとみている。実施されれば、植田総裁の下でこれまで実施された5回の利上げの中で、最も短い間隔となる。
白石氏は、需要サイドのインフレ圧力やFRBによる利上げがあるとみており、「日銀の利上げのタイミングが早まる可能性がある」と述べた。日米金利差はこれまでも円安要因となってきた。
短観では、企業が想定する消費者物価の前年比上昇率は、平均で5年後が2.6%と、2014年の調査開始以降で最高となった。日銀は、政府の補助金など一時的な要因を除けば、物価上昇率は2%の物価目標を大幅に上回っていると試算している。
もっとも、政治の動きは逆方向に作用している。
高市首相は、金融緩和を支持する姿勢を示してきた。高市政権が日銀の審議委員に任命した佐藤綾野氏と浅田統一郎氏はいずれも金融緩和を支持するハト派とみられている。浅田氏は6月会合で利上げに唯一反対票を投じたほか、今週就任した佐藤氏も会見で緩和寄りの姿勢を示した。
政府が6月30日に公表した「経済財政運営と改革の基本方針(骨太の方針」の原案では、「強い経済」の実現に向けて、適切な金融政策運営が行われることも「非常に重要」と明記された。市場では、日銀が金融政策の正常化を慎重に進めざるを得ないとの見方が強まり、円安が進んだ。
小林氏は、高市首相の金融政策に対する姿勢を背景に、市場で日銀の利上げ先送り観測が強まると円安が進み、その結果としてインフレ圧力が高まり、結局は日銀が利上げを余儀なくされる「悪循環になっている」と指摘した。
日銀の内田真一副総裁は先月の記者会見で、次回利上げのタイミングについて明確な手掛かりはほとんど示さず、今後の政策判断については先行きの経済・物価情勢次第だとの説明を繰り返した。
日銀はすでに、多くの市場関係者が想定していた着実な正常化の道筋から軌道修正を余儀なくされている。米国の関税措置や高市氏の予想外の首相就任、中東情勢の混乱が重なり、日銀の政策運営を巡る環境は一段と複雑になった。
政策当局が今後注視すべきもう一つの要因は、政府の財政政策だ。ガソリンや電気・ガス代への一時的な補助金は、インフレ率の抑制に寄与してきた一方で、高市氏が掲げる「責任ある積極財政」は時間の経過とともに基調的物価の上昇圧力を強める可能性がある。
日銀元理事の山本謙三氏は、財政支出は「理屈としては物価の押し上げ要因」と指摘。インフレ圧力を早く抑制するためには「やはり金利を上げないといけない状態が今起こっている」と述べた。
原題:Sliding Yen, Robust Economy Give BOJ More Grounds for Early Hike(抜粋)
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