人間はAIと「重ならない」ポジションへ
AIは人間と違い、お金さえ払えば24時間365日、100倍、1000倍の速度で無限に作業をこなすことができます。そのため、寝ないで頑張るような作業の経済価値は0に近づいていきます。このような時代に、ビジネスパーソンは組織の中でどう振る舞うべきでしょうか。深津氏が提示する最重要戦略は「AIと喧嘩をしないこと」です。

「中長期で言うと、これからどんどん性能が上がって“寝ないで無限にできて分身の術が使えて永遠に働けるやつ”とライバルになって戦うことになる。今年は人間のほうがいい仕事ができるとしても、来年再来年と考えていくとほぼ確実に負ける戦いになるので、まずはAIと正面衝突で仕事を取り合うポジションにならないようにするというのが最重要ではないかなと思います」
だからこそ、人間はAIと「重ならないところ」へ移動しなければなりません。具体的には、社内の“暗黙知”や“秘伝のタレ”をAIに教える役割、AIが取得できない現実世界の情報(料理の味や椅子の座り心地など)を集めるセンサーの役割、AIの指示に従って現実世界を動かす手足の役割、そして最終的な安全確認や責任を担保する役割などが挙げられます。
どのAIモデルが優れているかという目先の技術動向に惑わされる必要はありません。大事なのは、AIの限界を見極め、AIの「横や上、下」など重ならないポジションに移ることです。
「駆動する方向性と欲望を注入する」最後に残る人間の価値
米国では、大学の卒業式スピーチでAI企業のトップが「君たちの仕事はなくなる」と語り、学生からブーイングが起きたことが話題となりました。何千万もの学費を払って得たスキルがAIに吹き飛ばされることへの反発であり、サンクコストを抱えた人間として極めて自然な感情です。
では、合理的なAIが進化し尽くした先に、最後に残る人間の価値とは何でしょうか。深津氏は「物事に対して意味をつけるところ」だと指摘します。
AIは統計的なセンター値を推進する性質があるため、AIに頼りきると世界は均質化してしまいます。そこで「人間が感情や欲望やポリシーによってより多様な戦略や乱れ(ノイズ)を生み出す」ことが差別化につながるのです。

「あらゆる手段を取ってお金持ちになりたいという人もいれば、周りの人を幸せにしながら無理ない収入が得たいという人もいて。あるいは貧乏でもいいから好きなことやって生きていきたいという人も。その欲望を最初の初期条件としてどう注入するかというのはギリギリまで人間に残りそうな気はします」
人間がAIの「上司」としてスタート地点の羅針盤を示し、駆動するための欲望を注入する。この「始める能力」と「やり遂げる能力」さえ人間が担えば、中間のプロセスはすべてAIがナビゲートして、“1人ユニコーン企業”を作ることも可能な時代が到来しています。