利上げ観測が後退する中、雇用統計が利下げ観測へのシフトにつながるか

6月29日の米国債券市場は、雇用統計を前に動意に乏しい展開となった。長期金利は前日比+0.6bp、2年金利は同+1.2bpとなった。10年実質金利は前日比▲1.0bp、10年期待インフレ率(BEI)は同+1.7bpであった。原油価格の上昇を受けて、BEIは小幅に上昇した。
もっとも、インフレ懸念は大きく後退しており、FRBがタカ派色を強める可能性は低下している。したがって、今後の焦点はFRBがハト派方向にシフトするか否かであるが、そのためには足元で堅調に推移している労働市場の軟化が必要となるだろう。7月2日に公表予定の雇用統計を中心に、雇用関連データへの注目が高まる。

ドル高が一服しても、円安圧力が残る

FRBの利上げ観測が後退する中で、ドル高圧力は一服している。ドル指数は6月24日に101.609まで上昇した後、29日には101.108に低下した。しかし、ドル円は上昇基調が続いており、29日には162円台に迫り、約40年ぶりの高水準に接近した。

円安の背景としては、(1)日銀が6月の決定会合で利上げを実施したばかりであり、当面は追加利上げの可能性が低いこと、(2)骨太の方針において日銀の利上げをけん制するような記述が盛り込まれる見込みであり、日銀がビハインド・ザ・カーブに陥るリスクが意識されていること、(3)ドル円が上昇する局面でも為替介入が行われておらず、政府・財務省の防衛ラインが切り上がっている可能性があること、などが挙げられる。

今後を展望すると、(a)FRBの利上げ観測の後退によりドル高圧力は強まりにくいこと、(b)仮に円独歩安の展開となった場合には為替介入が実施される可能性が高いことを踏まえると、ドル円の上昇余地は限定的とみられる。

自民党内のパワーバランスの変化が財政リスクを低下させる公算

各種報道によれば、「骨太の方針2026」には日銀の利上げをけん制する表現が盛り込まれる見込みである。高市首相がリフレ的な政策スタンスを前面に打ち出すことは、債券市場において一定のリスクと受け止められる可能性がある。
もっとも、ロイターによれば、骨太の方針の原案には「市場の信認」という表現が10回程度登場する見込みである。高市氏は2022年の英国で発生したいわゆる「トラス・ショック」の再現を警戒しており、「政府関係者は高市氏がトラス氏と重ねて見られることに神経をとがらせていると説明」(ロイター)している。こうした背景から、骨太の方針において「市場の信認」が強調される可能性が高い。

市場への配慮の姿勢は、財務省の影響力回復という側面も有していると考えられる。財務省と近いとされる麻生自民党副総裁は5月21日に「国力研究会」を発足させ、多くの自民党議員が参加した。自民党内のキングメーカーとして、麻生氏の影響力は依然として大きい。

一方、25日には小渕優子元経済産業相が党税制調査会幹部の辞意を表明した。消費税率引き下げを含む高市政権の政策運営に対する不満が背景にあると指摘されている。積極財政に対する慎重姿勢は党内で着実に広がっている。なお、小渕氏は国力研究会には参加していないとされる(麻生氏とは別の動きである公算)。このように、自民党内のパワーバランスは流動化しているものの、高市氏の求心力にはやや陰りがみられる。いわゆる「高市リスク」(金利上昇・円安)は徐々に低下していく可能性が高いと考えられる。

(※情報提供、記事執筆:大和証券 チーフエコノミスト 末廣徹)