(ブルームバーグ):米国防総省は、米軍が戦闘でどのように攻撃目標を選定するかについてのドクトリン(基本原則)を公にすることなく改定した。将来的にAIが戦時の重要な意思決定を担う道を開いた。
公表されることなく4月に承認された改定版の目標選定原則は、「人間の監視を伴ってAIが行動を開始するシステム」を想定している。これは現状の慣行として説明している「人間が行動を開始する『ヒューマン・イン・ザ・ループ(人間の関与)』システム」からの進展となる
ブルームバーグ・ニュースは、これまで報道されていなかった最新の改定内容を確認した。この文書は機密指定されていないものの、一般には公開されていない。
目標選定に関するこの改定指針は、国防総省がAIの導入を急速に加速させている最新の事例だ。AI技術は既に世界各地の紛争で戦場の在り方を一変させつつある。また、AIの能力の急速な拡大は、新たな脅威や倫理的ジレンマを生じさせ、軍が技術革新に歩調を合わせ、武力紛争に関する法律を順守する能力に課題を突きつけている。
文書では、「将来の戦争のスピードと敵対国によるAI技術の進展を踏まえると、統合部隊は完全に自律的なシステムを採用する必要に迫られる可能性がある」としている。
こうした議論を呼ぶ新たな構想は、目標選定の将来を扱う新章に盛り込まれている。文書は全体として、米軍が戦闘で何を攻撃対象とするかを決定する方法「統合目標選定」の公式な手順を示している。
「民間人への被害軽減」
文書には「民間人への被害軽減」に関する新たな内容も盛り込まれた。国防総省は先に、イラン南部ミナブのイスラム革命防衛隊(IRGC)海軍基地に隣接する小学校への攻撃について、調査を開始すると発表していた。この攻撃では推計120人の子どもが死亡した。
この文書がイランとの戦争から得られた教訓を反映しているかどうかは明らかではない。前回の改定が行われたのは、バイデン前政権時の2024年9月だった。
統合参謀本部の報道官は電子メールの声明で、「今回の目標選定ドクトリンの改定は、演習やウォーゲーム、将来の安全保障環境に関する評価など、さまざまな情報源から得られた教訓を取り入れた複数年にわたる包括的なプロセスの成果だ」とコメントした。
報道官はこの改定内容を「極めて重要」と表現した上で、AIを扱った新章と民間人への被害軽減に関する取り組みの強化の両方を「主要な改定点」と説明した。
この記事についてコメントを求められた国防総省当局者は声明で、「国防総省は重要な作戦上の意思決定では常に人間が関与することを確保している。国防総省のAI技術が自律的に標的を選定したり攻撃したりすることはない。あらゆる意思決定で指揮官が責任を持ち、可能な限り最新かつ正確な作戦状況に基づいて行動できるよう支援している」と述べた。
責任負うのは指揮官
国防総省は25日の早い時点で、戦闘管理、意思決定支援、目標選定を変革するため、高度なAI搭載ツールを実戦配備すると発表した。
同省のスタンリー最高デジタル・AI責任者(CDAO)は発表文で、「われわれは全ての目標選定の決定で人間の判断を中核に据えつつ、指揮官が一段と質の高い情報に迅速にアクセスできる相互運用可能なAIエージェントのネットワークを構築している」と表明した。
過去の統合目標選定ドクトリンは、情報公開法(FOIA)に基づく開示請求などを通じてオンラインで公開されることもあったが、現在一般に入手可能なのは旧版となった18年版のみとなっている。
今回改定された文書は、生死を左右する意思決定から人間を排除しようとする国防総省の狙いをこれまでで最も明確に示すものだ。AIによって「目標感知・検出から攻撃までのサイクル(sensor to shooter cycle)」を短縮し、「作戦テンポを向上させる」と明記した。
同時に、新たなドクトリンはAIに全面的に依存するリスクも認識しており、AIは「深刻な倫理的・法的ジレンマを突きつけるものであり、AIによって強化された意思決定に関する懸念を軽減するには、明確な倫理指針の確立が必要だ」としている。
改定版ドクトリン自体にはそうした指針は盛り込まれていない。ただ、今月公表された新たな国家安全保障に関する大統領覚書(NSPM)では、兵器システムの自律性に関する政策を90日以内に改定するよう国防総省に指示している。
現行の政策では、自律型および半自律型の兵器システムについて、指揮官や運用担当者が「武力行使を巡って適切なレベルの人間による判断」を行えるよう設計されていることを確認するため、審査を義務付けている。しかしこれは、人間による意味のある統制という、一層強力なセーフガードを求める活動家の目標には遠く及ばない。
国連のグテレス事務総長も、自律型致死兵器システム(LAWS)の禁止を求める1人で、これらのシステムを「政治的に受け入れられず」「道義的に到底容認できない」と批判している。
米アンソロピックは、イランでの作戦行動用を含め、国防総省の機密ネットワークにAIツールを提供している。それでも同社は、ダリオ・アモデイ最高経営責任者(CEO)が「完全自律型兵器」と呼ぶ用途に用いるには、AIはまだ十分な信頼性に達しておらず、武力行使の最終判断は人間が下すべきだと主張。国防総省と対立している。
一方、新しい目標選定ドクトリンでは、AIのアルゴリズムは「人間の能力をはるかに超える規模とスピード」でインテリジェンス(情報)の成果を取り込んで分析できると指摘した上で、軍は「人間による監視なしにAIの出力に過度に依存することを避けるため、慎重を期さなければならない」とした。
また同ドクトリンは、目標選定データの品質向上や、情報収集上の空白の補完、データフローの自動化を支援する上で、AIが一層大きな役割を果たすとの考えを示している。
目標選定の複数の専門家は、デジタルシステム同士を接続し、AIの活用を減らすのではなく拡大することが、将来的に目標選定の問題に対処して解決するのに役立つ可能性があると、期待を示している。これには例えば、グーグルマップのような公開サイトとの自動照合を行い、人間による審査が必要となる潜在的な異常について注意喚起するなどの活用が考えられる。
国防総省の文書は、「AIの進歩は目標選定のプロセスを改善し、長距離の精密攻撃を可能にする」と指摘。その上で、統合部隊の優位性を維持するため、指揮官は人間による分析や意思決定、リスク管理を補完するために「AIの力を活用する必要がある」としている。
文書はさらに、「AIは複数のプラットフォームから収集した標的データを迅速に比較し、収集した情報の真偽を裏付けることができる可能性がある」とした。
しかし、目標選定への自動化導入に関する歴史的な「課題」を扱う補足部分で、「自動化は人間の思考や主体的なコミュニケーションに取って代わるものではない」と明記している。
また、どのような自動化ツールを使用する場合でも、作戦地域における「優先順位、効果、タイミング」や、戦時国際法および関連する米軍の交戦規定(ROE)の順守については、「指揮官が責任を負う」としている。
原題:Pentagon Sees Bigger Role for AI in Setting Military Targets (1)(抜粋)
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