混乱しながら発展する実験国家
一般論として、内政が混乱した国は衰退するのが常識であるが、米国は依然として力強い。まず、マクロ経済はトランプ関税等にも負けずに堅調な成長を続け、2026年通年の実質GDP成長率は2%台の成長を維持するとみられる。トランプ関税が導入されなければ、3%以上の成長を遂げていてもおかしくない。日欧が1%程度の成長率で推移していることと比べると成長率は高い。また州別で一人当たりGDPをみるとワースト5が5~6.5万ドルの水準であるが、これは、時々の為替変動によって見え方が変わるとしても、総じてみればドイツやフランスと同レベルであり、日本や韓国(約3.5万ドル)よりもはるかに高い。つまり、米国で最も低所得な州であっても、一般的な先進国よりも豊かなのだ。また、AI等の最先端テクノロジーの発展も米国が主導している。軍事力も依然として世界で屈指の力を誇っている。米中対立の行方が今後の注目点であるが、中国は早晩人口減少社会に突入する一方、人口増が続いている米国は相対的に若い国であり続ける。
そして米国は、分断や混乱を抱えつつ、それを自らのパワーに変えるかもしれない。選挙の度に対立が激化するが、選挙を経ることによって政策のイノベーションを起こすことに加えて、既得権益に縛られない人材の抜擢が進むのも事実だ。シンクタンクやロビー会社の活動も依然として活発である。民主党系の「青」と共和党系の「赤」の対立は、それによって米国を磨いている面もある。米国が抱えるもう一つの自由である「表現の自由」さえ守ることができれば、米国は政治・経済・社会の様々な分野で新たなアイデアを切磋琢磨する場であり続けるだろう。さらに、各州の独自性が強いことから、米国全体としては多様性が維持され、各州で実験的な取り組みも可能となる。各州で成功した取り組みを全米展開できるほか、実績ある州知事等が大統領にチャレンジできることが米国の強みともいえる。
日本としては、米国に振り回されている面はあるものの、様々な実験をしながらイノベーションを生み出す米国が同盟国となっている状況は心強い面もある。米国を過大評価することなく、かつ過小評価もしないで、冷静に見ながら付き合っていくべきだ。確かに、ミクロでみれば分断と混乱が深刻化しているのは事実であり、簡単には解消しないだろう。しかしながら、国家全体としては実験国家・イノベーション国家であることに変わりはなく、今後も様々な面で世界をリードしていく可能性は大きい。日本としては、そのことを理解して、適切な距離感と参考にすべき点を常に考えながら、250歳を迎える米国との関係をアップデートしていく必要がある。
<参考文献>
・トクヴィル(著)、松本礼二(訳)「アメリカのデモクラシー」(全4冊) 岩波文庫(2025年)
・J.D.ヴァンス (著)、 関根光宏 (翻訳)、山田文(翻訳)「ヒルビリー・エレジー アメリカの繁栄から取り残された白人たち」光文社(2017年)
(※情報提供、記事執筆:日本総合研究所 調査部長/チーフエコノミスト/主席研究員 石川 智久)