AI関連銘柄への一極集中相場は、米国とイランの和平合意をきっかけに転機を迎えたとの見方が出始めている。日本株市場にとって最大の懸案だった地政学リスクが後退し、投資家の視野が広がりやすくなるためで、海外勢による先物の売買動向にそのヒントが隠れている。

Photographer: Soichiro Koriyama/Bloomberg

イラン戦争が始まった2月末以降の日経平均株価構成銘柄の騰落状況を見ると、株価が4.7倍となったキオクシアホールディングスをはじめ上昇率上位に並ぶのは太陽誘電やイビデン、古河電気工業など全てAI関連銘柄だ。ホルムズ海峡の封鎖を受け原油価格が高騰し、企業業績への悪影響が懸念された中で長期的な成長期待が強いAI関連企業に投資資金が集中したことを示している。

しかし、米国とイランによる和平協議の進展で、一時1バレル=100ドルを大きく超えた原油価格は70ドル台まで反落。インフレの加速や業績への不安が高まるリスクが薄れ、投資家は株価収益率(PER)など投資指標からみた割安感、配当利回りなど多様な投資の切り口に焦点を当てることが可能になった。

りそなホールディングスの武居大暉ストラテジストは、アナリストによるAI関連を除く日本企業の来年度の業績見通しは堅調だと指摘。「中東情勢が沈静化するなら、 業績改善見通しも前倒しされてしかるべきだ」とし、非AI銘柄への物色の広がりが既に起こり始めている可能性があるとみている。

その兆候として、武居氏が注目するのが海外投資家の先物売買データだ。日本取引所グループによると、6月2週(8-12日)に海外勢は広範な業種や銘柄で構成される東証株価指数(TOPIX)の先物を12週ぶりに買い越した。買越額は4480億円で、AI関連銘柄の影響力が大きい日経平均先物(ミニ含む)を5220億円売り越したのとは対照的だった。

「戦争終結を契機に需給が変わる過渡期かもしれない」と武居氏は潮目の変化を感じ取っている。

株価指数先物市場では、ヘッジファンドや商品投資顧問業者(CTA)など短期投資家を中心に最も流動性のある日経平均先物への取引ニーズが強い。半面、投資信託や年金基金など中長期投資家がポートフォリオをヘッジする際、半導体・AI関連の一部値がさ株に偏った日経平均型ではなく、TOPIX型を使うケースが多く、TOPIX先物の買い越しは長期マネーが動く予兆の可能性がある。

AI関連銘柄への投資資金の集中傾向が強まった反動で、非AI関連銘柄の見直し機運も高まってきている。着眼点の一つとなっているのが配当利回りだ。

史上初の7万円台まで一気に駆け上がった日経平均の配当利回りは1.38%付近と2007年以来の低水準。これには日経平均採用銘柄に現在まで無配当のキオクシアのほか、アドバンテストやソフトバンクグループなど低配当銘柄が多いことも影響している。対照的にTOPIXの配当利回りは2.15%と年初より高く、日経平均との利回り格差は過去最大に広がっている。

三井住友DSアセットマネジメントの木村忠央チーフファンドマネジャーは「金利が上がっているために配当利回りの魅力が薄れていると言われるが、それ以上に配当利回りは高くなっている」と指摘。市場平均の配当はさほど高くないが、「AI以外の分野で個々に見ると、魅力的な投資対象は多い」と話し、今は高配当銘柄への種まき期間だと言う。

ここ数年にわたるコーポレートガバナンス(企業統治)改革の進展もあり、TOPIX500構成銘柄で配当利回りが3%を超すのは全体の約3分の1に当たる161社。指数の配当利回りがほぼ同水準だった21年9月と比較しても、3%超の企業は増えている。

TOPIX500銘柄の配当利回り分布

もっとも、これまでのAI集中相場に乗り遅れた投資家の間では「FOMO(取り残されることへの恐怖)」を感じている向きも多いため、ベンチマークに対しパフォーマンスが負けることを防ぐにはAI関連株への買いを続けざるを得ないとの見方もある。

みずほ証券の波多野紅美シニアクオンツアナリストは配当銘柄にはディフェンシブ性もあり、中期的には期待できるとしたものの、「市場は現時点でホルムズ海峡正常化に向けた動きを完全には信じ切っておらず、まだ短期投資家に配当株を勧めるタイミングではない」と話している。

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