(ブルームバーグ):スペースXの新規株式公開(IPO)を巡ってイーロン・マスク氏が持ち出したたとえ話が耳目を集めた。同社の価値を数兆ドルと評価し、数百億ドル規模の資金調達を正当化する文脈で語られたものだったが、一部では首をかしげる向きもあった。
マスク氏はIPO前の投資家向けプレゼンテーションのインタビューで、「スペースXはユニオン・パシフィックのようなものだ」と述べた。同氏がしばしば言及するこの歴史的インフラ事業は、1800年代に米国の東西を鉄道で結ぶ大陸横断鉄道計画として進められた。マスク氏は、建設当時「世間は正気ではないと思っていた」と語り、「だが今やカリフォルニア州は米国最大の州だ」と続けた。
世界で最も成功し、同時に最も評価の分かれる起業家の一人である、マスク氏らしい売り込みだった。世界一の富豪で、初のトリリオネア(兆万長者)となった同氏は、宇宙空間での軌道上データセンターや火星居住計画を掲げるスペースXを、米国が超大国へ成長する上で不可欠だった事業を想起させる会社と結び付けた。数営業日でスペースXの時価総額を2兆5000億ドル(約403兆円)超に押し上げた投資を正当化する根拠としては十分に映る。
今回のIPOは資金調達キャンペーンの終わりではなく、始まりだった。スペースXは既に債券市場に目を向けており、初回案件で少なくとも200億ドルの調達を目指す準備を進めていると、ブルームバーグ・ニュースが報じた。ある推計では、設備投資は2031年までに年7000億ドルを超える可能性がある。マスク氏が言う「スタートレックを現実にする」目標に照らせば、過大な要求と言えるのだろうか。
ユニオン・パシフィックの支援者に聞いてみればよい。鉄道建設は頓挫し、カリフォルニア州まで及ばずユタ州で止まった。政府支援で支えられ、内部関係者に世代を超える富をもたらした計画は、最終的には失敗した。
スタンフォード大学のリチャード・ホワイト名誉教授(米国史)は、当初のユニオン・パシフィックについて「利益相反取引と汚職にまみれていた」と指摘した。
同氏はインタビューで、「自社の将来像のモデルとして引き合いに出すのは、この国の歴史や金融市場、大多数の米国人について甚だしい無知を示すものだ」と語った。
スペースXの担当者にコメントを求めたが、直ちに返答はなかった。
大きな課題
スペースXの人工知能(AI)構想を実現する道のりは険しい。特に同社は黒字ではない。
ゴールドマン・サックス・グループとエバコアISIのアナリストは、同社の支出が30年までに1兆ドルを超えると予想している。ブルームバーグ・ニュースが報じた。支出の大半はスペースXのAI事業に充てられ、宇宙データセンター構想が中心になる。
IPOに先立つ投資家との会合で、同社のブレット・ジョンセン最高財務責任者(CFO)とグウィン・ショットウェル社長は、IPOがスペースXによる最後の株式売却になるとの見方を示した。事情に詳しい関係者が明らかにした。
非公開情報だとして匿名を条件に語った複数の関係者によれば、今後の計画では、株式の追加発行によって株主やマスク氏自身の持ち分を希薄化させる形で数十億ドルを調達するのではなく、IPO手続きの中で投資適格級の格付けをアピールした上で、債券市場を活用する。
大手格付け会社3社は18日遅く、同社に投資適格級の格付けを付与した。
ティモシー・ホラン氏率いるオッペンハイマーのアナリストは、同社の純債務が31年までに4000億ドル超積み増されると予想。数カ月前時点の約130億ドルから大幅に増えるとみる。これは現在、ほぼ全ての米企業が抱える債務を大きく上回り、オラクルの3倍超になる。
同アナリストらは6月18日付のリポートで、同社の資金調達は債務が中心になるものの、約400億ドルの追加株式資本も必要になると予想した。
ただ、債券市場の参加者には疑念がある。
オールスプリングの米投資適格級調査責任者ジム・フィッツパトリック氏は「設備投資の大半は、債券市場ではなく、株式資本で賄う必要がある」と指摘。「特に同社は格付け実績がほとんどないため、投資適格級を維持しながら多額の追加債券を発行する余力はないだろう」と述べた。
スペースXが投資家から資金を集めようとする時期は、アンソロピックとOpenAIが早ければ年内にも、それぞれIPOで数百億ドルの調達を目指す時期と重なる可能性がある。一方、「マグニフィセント・セブン」企業のうちアルファベットなどAIに注力する会社も、さらに数十億ドルを投じている。
ブラウン・ブラザーズ・ハリマンのジャスティン・リード最高投資責任者(CIO)は「データセンターと半導体、エネルギーインフラと衛星ネットワークを同時並行で整備する動きだ」と述べた。「われわれは、資本負担の軽いアプリケーションに資金を出す世界から、今や経済エコシステム全体に資金を供給する世界に移りつつある。だからこそ、必要資本がこれほど尋常ではない規模に見える」と語った。
マッキンゼー・アンド・カンパニーによると、地上のデータセンター整備には30年までに7兆ドルが必要になる。スペースXの軌道上構想はこの数字に上乗せされる可能性が高く、株式市場と債券市場の双方を試すことになる。一部では、スペースXの高い評価倍率を踏まえると、株式の方が調達しやすいとの見方もある。
アステロゾア・キャピタルのCIO、ジョー・ヘジェナー氏は「スペースXについて、バリュエーションに関係なく勢いに乗るなら、少なくとも株式を買えば大きな上値余地がある」とし、「だが債券市場では、得られる上値は利払いに限られる一方、下値リスクは全損に及ぶ」と語った。
銀行関係者は、市場が今後も多額の支出を賄い続けられると楽観している。特に、データセンター整備や、AIの急成長を支えるコンピューティング能力を提供するいわゆるハイパースケーラーに関わる支出が対象だ。
バンク・オブ・アメリカ(BofA)のグローバル資本市場共同責任者リサ・クライド氏は「これら全てが資本市場をかなり大きく変えている」と述べた。「金融商品の垣根や、公募市場とプライベート市場の境界が不明確になっている。企業はオンバランスとオフバランスの資金調達について、より創造的に考える必要に迫られている」と語った。
資金調達の増加により、各種市場で取引が活発化している。ブルームバーグが集計したデータによれば、米国のIPOと株式売り出しは、スペースXのIPOを除いても今年これまでに1630億ドルに達し、前年から28%増えた。JPモルガン・チェースのストラテジストによれば、AI関連の債券発行は11月以降、複数のクレジット市場で3000億ドルを超え、今年の発行額を過去最高に近い水準に押し上げている。
巨額支出
ベテラン空売り投資家で、チャノス・アンド・カンパニーの創業者で社長のジム・チャノス氏にとって、スペースXとマグニフィセント・セブン、アンソロピック、OpenAIが掲げる支出は極めて巨額だ。市場がそのリターンを確認する、あるいはリターンの見込みに確信を持てるようになるまでには、なお何年もかかる。
同氏はインタビューで、「5-10年先、あるいはもっと先の話だ。だからわれわれは、実際に多くの成果が示されないまま、非常に巨額の資本支出を目の当たりにすることになる。例外は、つるはしとシャベルを売る人々だ」と述べた。ゴールドラッシュで自ら金を採掘せずに利益を得る供給業者を指した発言だ。
「世間では、人々の暮らし方だけでなく、生産性の飛躍的向上や国内総生産(GDP)の伸びにも実に変革的な変化が起きると見込んでいる。だが、私はそこまで確信していない」と語った。
マスク氏の資金調達計画の現実を把握するのは難しい。過去の巨大事業になぞらえても、スペースXが実現しようとしている構想の規模にはなお及ばない。ただ、ユニオン・パシフィックを引き合いに出したことは、マスク氏やスペースXが何か不正や違法行為をしていると示唆するものではないものの、一部の懐疑派には核心を突いたたとえに映る。
ユニオン・パシフィックを、いわゆるクレディ・モビリエ事件と結び付ける向きもある。スタンフォード大学のホワイト名誉教授によれば、ユニオン・パシフィックには巨額の資本があったものの、その多くは同プロジェクトの建設会社クレディ・モビリエに流用された。同社は当時、内部関係者が所有していた。
チャノス氏は「ユニオン・パシフィックには19世紀最大の詐欺、クレディ・モビリエ事件が付きまとっていた。鉄道建設を進めるユニオン・パシフィックの下で、建設請負を利用した詐欺が行われていた。少し皮肉ではないか」と述べた。
原題:SpaceX’s Epic Fundraising Campaign for AI Has Only Just Begun(抜粋)
--取材協力:Loren Grush.
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