(ブルームバーグ):米シカゴ・マーカンタイル取引所(CME)グループのテリー・ダフィー最高経営責任者(CEO)が来年3月に退任する。後任は最高財務責任者(CFO)で、元投資銀行バンカーのリン・フィッツパトリック氏。時価総額900億ドル(約14兆5000億円)余りの同社が、新たに台頭した競合勢にどう対抗するのかを巡り、投資家の懸念が強まる中でのトップ交代となる。
ダフィーCEOはCMEの豚先物の立会場からキャリアをスタートし、同グループを牛やトウモロコシの価格ヘッジを担う事業から、米国債、暗号資産、原油に至る巨大な取引所帝国へと数十年かけて育て上げた。

CME株は年初来10%近く下落している。暗号資産市場で人気のデリバティブ(金融派生商品)、いわゆる永久先物について、規制当局が容認に動けば、暗号資産交換業者や予測市場の運営企業が、取引所の中核事業と手数料収入を侵食するとの警戒が投資家の間で広がっている。
ダフィーCEOはこうした見方を退けてきた。一方で、「perp」と呼ばれる永久先物とそれに伴うレバレッジの拡大については「非常に懸念している」とも述べている。
ビル・カッツ氏らTDカウエンのアナリストは17日、「円滑に交代できるとみているが、発表のタイミングは悪かった」と指摘。ダフィーCEOの契約は今年末で期限を迎える予定だったとした。
事情に詳しい関係者によると、フィッツパトリックCFOは投資家にはよく知られている一方、競合企業や主要パートナーの間での知名度は比較的低い。2013年に入社して現在は株式、外国為替、代替商品の事業を率いるティム・マッコート氏や、最高商務責任者を10年務めてきたジュリー・ウィンクラー氏ら他の上級幹部を抑え、新CEOの最有力候補に浮上した。
今回の昇格により、フィッツパトリック氏はウォール街では数少ない女性トップの一人となる。ニューヨーク証券取引所(NYSE)のリン・マーティン社長、ナスダックのアデナ・フリードマンCEO、シティグループのジェーン・フレーザー氏らに並ぶ存在だ。
一方、ダフィーCEO(67)は、来年3月のフィッツパトリック氏のCEO就任に伴い、執行会長に就き、同社への影響力を維持する構えだ。CMEの担当者は発表資料以上のコメントを控えた。
パイパー・サンドラーのアナリスト、パトリック・モーリー氏はリポートで、「ダフィーCEOの後任は大きな穴を埋める必要があるが、われわれはフィッツパトリックCFOがCMEを成功裏に率いる能力について極めて高い信頼を置いている」と記した。

新興勢との競争
歴史を振り返ると、CMEは農家、エネルギー生産者、メーカー、機関投資家がコモディティー価格の変動といったリスクをヘッジする場だった。近年は、個人投資家に訴求する商品を追加し、顧客層の拡大を進めている。
ロビンフッド・マーケッツのアプリで先物の提供を始めたほか、農産物を対象に、より細かい刻みで取引でき、現物受け渡しではなく現金決済とする新たな「マイクロ先物」も導入した。
ダフィーCEOは市場の変化に常に対応しようとしてきたが、その変化のペースは近年加速している。特に予測市場の運営企業は手ごわい競合となっている。
昨年はフラッター・エンターテインメント傘下のオンライン・ギャンブル部門ファンデュエルと提携し、イベント先物取引を新たに開始して幅広いトレーダーの取り込みを図った。
プライス・フューチャーズ・グループのシニア市場アナリスト、フィル・フリン氏は「24時間・週7日体制の暗号資産取引所が、猛烈な勢いで迫っている」と述べた。
最近では、米予測市場プラットフォーム運営会社カルシが、農産物関連のイベント先物への進出を目指し、同商品を通じて取引時間を長くする取り組みを進めた。ただ、連続取引を懸念する一部の取引所や商品生産者の反発を招いた。カルシは4月、この商品の取引時間を制限すると表明した。
取引所帝国
業界の現状は、ダフィーCEOが1980年代にシカゴ・マーカンタイル取引所で豚先物のフロアブローカーとして働き始めた時代とは大きく異なる。同CEOはその後、自身の会社を設立し、両親が自宅を抵当に入れて支援してくれたことで、取引所の会員権を購入できた。
CMEが上場した02年に会長に就任し、16年にCEOにも就いた。在任中の07年にはシカゴ商品取引所(CBOT)との統合を実現し、翌08年にはニューヨーク・マーカンタイル取引所(NYMEX)を買収した。
同CEOのCMEで働く友人、パット・ケニー氏は「特に初期には浮き沈みがあった。彼は何とか立ち上がり、やり直すことができた」と述べた。「そこから自力で全てを成し遂げた」という。
今回の退任は、シカゴの取引業界を支えてきた地域が再編される時期とも重なる。同業界は1800年代後半に始まり、100年以上にわたりシカゴ経済の柱となった。
かつてシカゴの著名な金融・ビジネス街で、多くの取引業務が集まっていたラサール街は近年空洞化している。ただ、グーグルが来年、この通り沿いに新たなシカゴオフィスを開設する予定で、再生に向かう見通しだ。
CMEは既にグーグルと提携している。21年に結んだパートナーシップは、CMEの全業務をグーグルのクラウドへ移行するのを支援する内容で、グーグルがCMEに10億ドルを出資することも含まれていた。
同CEOは金融界の大物や規制当局、新興勢力に対し、自身の見解を示すことをためらわなかった。暗号資産交換業者FTXの創業者であるサム・バンクマンフリード氏が登場し、FTXが顧客の暗号資産デリバティブ取引の全工程を担う提案を掲げた際は、反発した。
ホテルのバーでの「ちょっとしたもめ事」と同CEOが呼ぶ場面で、バンクマンフリード氏に「詐欺師だ」と告げた。さらに、当時の同氏の価値を上回る額の資金を自分の右ポケットに持っていると述べた。この見方は、FTXが22年末に破綻したことで裏付けられた格好となった。破綻により、検察当局が数年にわたる詐欺とする実態が露呈。FTXは顧客、投資家、貸し手から約100億ドルをだまし取ったとされた。
最近では、同CEOによる永久先物への反発が議論の中心となっている。米商品先物取引委員会(CFTC)が初の永久先物を承認した数日後、同CEOは懸念を表明。レバレッジを伴う先物は機関投資家にとって実用性が乏しい一方、個人投資家には過度なリスクを取る手段を与えるとの見方を示した。
同CEOは今月初めの業界会合で「まさに2007年の再来だと思う」と述べた。「住宅市場に代わって、予測市場などの投機市場が膨らんでいる。いずれ大きな混乱を招く可能性がある」と語った。
原題:CME’s Duffy Cedes Top Title of Exchange Empire at Turning Point(抜粋)
--取材協力:Georgie McKay、Miranda Davis、Erin Ailworth.もっと読むにはこちら bloomberg.com/jp
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