(ブルームバーグ):政府が物価高対策として検討を進める飲食料品の消費税減税。家計負担の軽減が期待される一方、狙い通りの効果が得られない可能性が指摘されている。時限措置として導入しても恒久化の恐れがあり、財政悪化を懸念する声もある。
消費税を巡っては、2月の衆院選で現行8%の飲食料品の消費税率を2年間ゼロとし、給付付き税額控除に移行すると訴えた自民党が大勝した。ただ、レジのシステム改修に時間がかかるため、政府内では準備期間を短縮しやすい1%に引き下げる案が出ている。
自民党の小野寺五典税制調査会長17日、与野党による社会保障国民会議の実務者会議で、2027年4月に税率を8%から1%に引き下げる案を示した。残る1%分は給付で還元し、実質的なゼロとする。減税と給付全体の予算規模は5兆円に上る。
家計への影響
消費税減税によって家計の負担はどの程度和らぐのだろうか。
大和証券の山本賢治チーフマーケットエコノミストの試算によると、食料品の消費税率がゼロとなる場合、消費者物価指数(生鮮食品を除くコアCPI)をおおむね1.5ポイント押し下げる効果が見込まれる。1%なら効果は1.3ポイント程度だという。5月のコアCPIの前年比上昇率は1.4%だった。
ただ、ドイツなど海外での付加価値税減税の事例では、価格が減税分ほど下がらず、一部が企業側に残る傾向が確認されている。仮に転嫁率が7割程度なら、物価の押し下げ幅は1ポイント強にとどまると山本氏は推計した。
第一ライフ資産運用経済研究所の熊野英生首席エコノミストは、税率1%の場合、外食を除く食料品価格は前年比7ポイント押し下げられると試算。ただ、食料品価格は22年以降、年平均5.8%のペースで上昇しており、物価上昇の勢いが続けば来年4月に合わせて値上げに動く事業者が増える可能性があるとの見方を示した。
消費・GDPへの影響
消費税減税が経済成長や物価動向に与える影響については意見が分かれる。
SMBC日興証券の宮前耕也シニアエコノミストは、食料品の税率が1%かゼロになると、総合CPIの伸びをそれぞれ1.3、1.5ポイント程度押し下げ、個人消費を1.3兆円(0.4%)、1.5兆円(0.5%)程度押し上げると試算。他の需要項目への波及効果を考慮しない場合、実質国内総生産(GDP)押し上げ効果は0.22%、0.25%程度とみる。
ただ、値上げの動きなどで減税分が価格に十分反映されなければ、物価の押し下げ効果は弱まり、消費や成長率の押し上げ効果も試算よりも小さくなる可能性があるとも宮前氏は指摘した。
時限的な措置で、その効果に懐疑的な見方もある。
大和証券の山本氏は、2年間の減税は家計には一時的な負担軽減として認識され、増えた可処分所得の多くは消費ではなく貯蓄に回りやすいと指摘。「恒常的な所得の増加を伴わない限り、消費の基調を押し上げる効果は限定される」と語った。
税収・財政の課題
宮前氏は、26年度の消費税収が国税分と地方税分を合わせて34兆円に達すると想定。これに基づくと、食料品の消費税率を引き下げた場合の減収額は、ゼロの場合が5.3兆円程度、1%でも4.6兆円程度になると試算した。
高市早苗首相は、消費減税は中低所得者を支援する「給付付き税額控除」導入までの「つなぎ」で、2年間の時限措置と位置づけている。財源は赤字国債に頼らない方針だが、減収分をどう補うかの具体像はなお不透明だ。
消費減税を予定通り終了できるかも焦点となる。一度下げた税率を元に戻すことは実質的な増税と受け止められやすく、政治的なハードルは高い。
山本氏は、28年夏の参院選を前に減税終了を巡って判断を迫られる可能性があると指摘。継続なら財源問題が再浮上する一方、終了なら物価上昇や消費の落ち込みを招く恐れがあり、判断は容易ではないという。恒久財源なしでは将来的に金利上昇や円安、インフレなどを通じて負担が回収されるリスクがあるとの見方も示した。
宮前氏は、予定通り減税を終了できない可能性があるとみている。財源の裏付けなしに減税が恒久化し、長期金利が上昇すれば、政府債務残高対GDP比の悪化につながりかねないと警鐘を鳴らした。財源を確保せず「防衛費など恒久的な歳出が別途膨らめば、発散に近い状態に至り得るリスクを警戒する必要がある」という。
自民党の「責任ある積極財政を推進する議員連盟」は9日、飲食料品にかかる消費税率ゼロへの引き下げを「必ず実現」するよう提言。減税の実施期間について2年間に限定せず柔軟に対応するよう促した。
政策の限界
食料品の消費税減税は物価高対策として一定の効果が期待される半面、政策の限界を指摘する声もある。
山本氏は、食料品の消費税減税は物価高に対する幅広い家計支援としては機能するものの、所得階層に応じた再分配という観点では必ずしも効率的ではないと指摘した。
第一ライフの熊野氏は、食料品価格高騰の主因は円安と海外物価の上昇だと指摘。「物価高の原因をそのままにして、消費税減税だけで物価高対策を試みても、しょせんは限界がある」との見方を示した。「持続性のある物価高対策は、円安是正と賃上げにほかならない」と述べた。
消費減税を「悲願」と表現した高市首相は、超党派の国民会議で結論を得ることを前提に、秋に想定される臨時国会に関連法案を提出する考えを示している。税率や実施時期は6月中にも判断する見通しだ。
高市首相は17日、消費減税について、「迅速性と十分性は確保してほしい」とした上で、「最終的な取りまとめに向けてしっかりと議論を見守る」と述べた。
産経新聞とFNNが13、14両日実施した世論調査によると、飲食料品の消費税減税を巡り、レジシステム改修に税率ゼロなら最短1年、1%なら約半年かかるとの見通しを示した上で、「早く実現するなら1%でもいい」との回答が45.1%で最も多かった。「時間がかかっても0%にすべきだ」は27.7%、「減税すべきではない」は25.9%だった。
--取材協力:梅川崇、照喜納明美.
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