(ブルームバーグ):対話型人工知能(AI)「クロード(Claude)」を展開している米アンソロピックの上級技術スタッフは、トランプ政権の当局者と15日に話し合った。米テクノロジー業界にとって前例のない事態の解決が狙いだ。
同社は12日、最新AIモデル「ミュトス(Mythos)5」「フェイブル(Fable)5」について、外国人による利用を遮断するようトランプ政権から指示を受けた。サンフランシスコに本社を置くアンソロピックはこれに対応し、両製品へのアクセスを全面停止した。
アンソロピックの表現を借りれば、これらは同社がこれまでに投入した中で最高水準のAIであり、サイバーセキュリティー上の脆弱(ぜいじゃく)性を特定し、既存の性能ベンチマークを大幅に上回る能力を持つ。フェイブル5は、一般利用向けに安全対策を施した「ミュトス級」のモデルだ。
この動きはホワイトハウスの注目を集めた。
トランプ政権はAIモデルの自主的な審査制度を打ち出しており、今月に入りAIサイバーセキュリティーに関して大きく踏み込まない方針を発表した。しかし今回のアクセス制限措置は、企業が適切な判断を下すことに依存するリスクを、政権が常に受け入れるわけではないことを示している。
トランプ大統領は2日、AIのイノベーションと安全保障に関する大統領令に署名した。この命令では、これを義務的なライセンス制度の導入と解釈してはならないと明記されていた。
この決定は、中国のようにAIモデルやサービス提供企業に政府のライセンスを義務付けるべきかどうかを巡る内部論争の末に下されたものだった。
自主的な監督を支持するイノベーション推進派がこの政策論争では勝利したが、その歓喜は長く続かなかった。
この急転換の背景には、フェイブル5の安全対策を回避する可能性のある「ジェイルブレイク(脱獄)」手法の発見がある。これが当局に十分な懸念を抱かせ、アンソロピックへの命令発出と、同社エキスパートのワシントン出張につながった。
アンソロピックは公式に反論し、この発見だけでモデルを回収する十分な理由にはならないとしている。
事情に詳しい関係者によると、米政府の一部機関はすでにフェイブル5の一般公開を承認していた。
しかし、特定の方法でプロンプトを与えることで利用者がモデルのサイバー能力をより広く引き出せる手法をアマゾン・ドット・コムが発見したことを、ベッセント財務長官ら政権側が把握すると、輸出管理に関する指令によってアンソロピックはモデル公開から数日後に最新モデルを停止せざるを得なくなった。
今回の対応により、トランプ政権は少なくとも1社のAI企業に対し、自らの懸念事項への対応を強制するために規制権限を行使する意思があることを示した。
この決定が財務面でAI業界に冷や水を浴びせる可能性がある。ちょうど主要なAIモデル開発企業が株式公開企業への移行を進めている時期だからだ。アンソロピックと同社最大のライバル米OpenAIは最近、新規株式公開(IPO)に向けて非開示で申請を行った。
フロンティア・セキュリティー研究所のエグゼクティブディレクター、アイザック・ハリス氏は「イノベーションと安全保障の緊張関係は今や恒常的な課題であり、政権とアンソロピックの応酬はその始まりに過ぎない。米国のAI業界が主導権を維持するためには、政府が明確な安全保障上の境界線を引かなければならない。こうした境界線とガードレールこそが、業界にイノベーション加速に必要な予見可能性を与える」と述べた。
規制方針の転換がイノベーションを阻害する政策上の失策なのか、それとも国家安全保障を守るための重要な緊急判断なのかは、アマゾンがトランプ政権に警告したジェイルブレイクの深刻さに大きく左右される。
ジェイルブレイクとは、プロンプトに巧妙な工夫を施し、大規模言語モデル(LLM)のガードレールを回避して、本来であれば拒否されるはずの有害な回答を引き出す攻撃だ。
上院情報特別委員会の民主党筆頭委員マーク・ワーナー議員(バージニア州選出)はAIに関する先週の公聴会で、「NSA(国家安全保障局)とサイバー軍のトップが来て、このツールは数週間ではなく数時間でわれわれの機密システムすべてに侵入したと説明した」と語った。同議員が言及していたのはミュトスだった。
フェイブルについても、もし実際にそのような強力なサイバー能力を有効化する方法が存在するのであれば、国家安全保障上のリスクとなることは明らかだ。現時点では、問題がどの程度深刻だったのか、あるいは現在も深刻なのかは不明だ。
サイバーセキュリティー研究者のケイティ・ムソウリス氏は、フェイブル5のガードレール回避手法に関する第三者の研究論文を読み、フェイブルは「このコードを修正してほしい」といった防御目的の依頼にしか応答していなかったと述べ、「強引かつ拙速な輸出管理指令は誤った判断であり、撤回されるべきだ」と主張した。
トランプ政権による突然の命令は、敵対勢力がAI能力を兵器化することへの現実的な懸念を示している。同時に、政府の目標はAIモデルがサイバー攻撃を一切支援しないことを保証することなのか、それともサイバー防衛側に先行優位を与えることなのかという根本的な問いも提起している。
コーネル大学のAI戦略・イノベーション担当エグゼクティブディレクター、アイハム・ブーシェ氏は、「これをガードレール修正の要請と表現すると、問題は実際よりはるかに単純に聞こえる。この見方は、モデルのジェイルブレイクがすでに解決済みの技術的問題であり、アンソロピックが単にガードレールを誤って実装しただけだということを前提している。ジェイルブレイクへの耐性は、通常のソフトウエアのバグ修正とは異なる。これはいまだ解決されていない敵対的な問題だ」と指摘した。
(この記事は、テクノロジー業界のビジネスを世界中のブルームバーグ記者が掘り下げて伝えるニュースレター「Tech In Depth」からの抜粋です)
原題:Anthropic’s AI Runs Into DC Rule Inconsistency: Tech In Depth(抜粋)
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