エヌビディアのジェンスン・フアン最高経営責任者(CEO)は、台湾や韓国のサプライヤーを訪問するたびに大勢の人々を引き付けるカリスマ的な営業マンだ。ただ、同氏が発する投資家向けのメッセージは、危ういほど楽観的だ。

フアン氏は先週、アジア最大級のAI関連見本市で、台湾は世界最高のサプライチェーンのエコシステムを持つと発言した。台湾株式市場はその後、過去最高値を更新した。韓国のSKハイニックスには「もっとメモリー半導体を作ってほしい」と呼びかけ、年初来で約200%上昇した同社株の上昇にさらに拍車をかけた。

また8日には、先週始まった世界的なハイテク株売りについて、「今は割安に買えるのだから、むしろ喜ぶべき」と述べた。

強気な発言と軽妙な話術で知られるフアン氏だが、今回の発言は軽率で、市場の実態から乖離(かいり)しているように映る。市場では個人投資家による熱狂的な買いやレバレッジの拡大がみられ、自動車メーカーからパソコンメーカーまで、あらゆる企業が人工知能(AI)関連銘柄として買われている。

ITバブル崩壊の再来を避けるために、テクノロジー業界を代表する存在であるフアン氏に求められるのは、過度な楽観論ではなく、具体的な指針だ。

韓国と台湾はいずれも半導体輸出急増の恩恵を受けているが、株式市場には過熱感が出始めている。台湾の主要株価指数の予想PERは足元でS&P500種株価指数にほぼ並んでいる。しかし、業種の多様性や収益の予見可能性ではS&P500種に遠く及ばない。台湾株指数の78%は半導体やハードウエア関連企業が占めるが、これらの企業は景気変動の影響を受けやすい。

サムスン電子とSKハイニックスの2社で韓国総合株価指数(KOSPI)の半分超を占める韓国市場についても、楽観は禁物だ。両社が半導体業界を長年悩ませてきた激しい好不況の波から脱却できるかどうかは、なお見極めが必要だからだ。

エヌビディアがSKハイニックスと複数年契約を結んだことや、フアン氏が世界には大量の半導体が必要だと強調するだけでは不十分だ。市場が求めているのは、より具体的な説明である。

5月下旬に1-3月期決算が出そろう段階までは、投資家は決算内容を通じて、AI半導体株の上昇が本当に業績に支えられているのかを確認できた。米ハイパースケーラーが設備投資を大幅に増やし、半導体メーカーの業績も市場予想を上回ったことから、株価上昇には一定の裏付けがあった。しかし、7月下旬に次の決算発表シーズンが始まるまでは、そうした判断材料は乏しい。

だからこそ、テクノロジー業界のカリスマの発言が重要になっている。実際、フアン氏はAIの潮流を見極め、その方向性を左右する人物とみなされている。LGグループの会長との会談が報じられただけで、傘下企業の株価は過去最高値を更新した。

決算発表の谷間では、世界の投資家は急速に進化する業界の動向を把握するため、フアン氏の発言にこれまで以上に耳を傾けている。同氏の一言一言が市場を動かしているのだ。

それほどの影響力には、それ相応の責任が伴う。AI向けインフラ投資の拡大が続くなか、AIが世界を変革し、今回の半導体サイクルが過去を大きく上回る規模になるとのフアン氏の見方は、おそらく正しいのだろう。

しかし、個人投資家の期待が行き過ぎていないかを判断するため、株価のバリュエーションを十分に検証したのだろうか。そうでないなら、株式投資への助言は控えた方が賢明だろう。

(シュリ・レン氏はブルームバーグ・オピニオンのアジア市場担当コラムニストです。同氏は投資銀行に勤務した経歴もあり、米経済紙バロンズでは市場担当の記者でした。このコラムの内容は意見で、必ずしも編集部やブルームバーグ・エル・ピー、オーナーらの見解を反映するものではありません)

原題:Huang Is Talking Up His Suppliers. It’s Worrying: Shuli Ren(抜粋)

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