(ブルームバーグ):ヘッジファンド運用会社の間で、自然災害をモデル化する専門人材の争奪戦が繰り広げられている。気温上昇で気象の不安定さが増す中、災害リスクの知見を資産価値の見極めに生かす狙いがある。
保険リンク証券(ILS)の専門家は従来、ハリケーンが都市部を直撃する確率や、それが保険リスクにどう波及するかなどのモデル構築に携わってきた。こうした分析は、総額700億ドル(約11兆円)近い資本市場の一角を占めるカタストロフィー(CAT)債投資家にとって、以前から重要な意味を持ってきた。
今や世界有数のヘッジファンドや銀行では、災害リスク専門家の知見を金融セクターのより広い領域で活用する動きが広がっている。ヘッジファンドにとっての課題は、金融や投資の実務感覚も備えたILS専門家を見つけることにある。
英人材紹介会社セルビー・ジェニングスのヘッドハンター、ミテシュ・パリク氏が今年、米大手ヘッジファンド向けにILS専門家を探し始めた時、適任者の少なさは不安を覚えるほどだった。同氏は「ヘッジファンドの間では比較的新しく、台頭しつつある分野だ」と述べ、「どこの会社も同じ人材を探している」と話す。
パリク氏が米ヘッジファンドの顧客に適任者を見つけるまでには数カ月を要した。同氏は顧客名の開示を控えた。こうした採用の標準的な報酬パッケージは40万-67万ドル程度だという。
銀行やヘッジファンドの間では、破壊的で不安定な気象サイクルが増える世界に事業を適応させようとする動きが広がりつつある。山火事から洪水、さらには社会不安まで、あらゆるリスクをどうモデル化するかを把握する重要性はかつてなく高まっている。
今年は海面水温が特に高くなる、いわゆる「スーパーエルニーニョ」現象が気象パターンに影響を及ぼす可能性もあり、投資家や銀行、保険会社は不意を突かれないよう特に警戒している。

JPモルガン・チェースは、こうした脅威への対応を支援する人材を探している企業の一つだ。同行は、気候リスクに関する災害モデルの導入を率いるエグゼクティブディレクターと、その職務を支えるアナリストをニューヨークで採用しようとしている。JPモルガンの気候・自然・社会担当エグゼクティブディレクター、キャサリン・アンセル氏が公開したリンクトイン投稿による。
世界有数の高収益クオンツ取引会社であるジェーン・ストリートは、ロンドンを拠点とするシニア気象アナリストに加え、ニューヨークの商品取引デスクでも同様の職種の採用を進めている。
既にこうしたチームを整備している企業もある。ブルームバーグはこれまでに、ミレニアム・マネジメントやスクエアポイント・キャピタルなどのヘッジファンドが採用を進めており、適任の気候モデラーには最大100万ドルを支払うケースもあると報じた。シタデル・セキュリティーズでは、約20人の気候・気象専門家が石油やガス、その他商品取引を支えている。

災害リスクのモデル化は今でも主に気象関連ショックと結び付けられているが、ヘッジファンドなどの投資家は、サイバーセキュリティーや社会不安、さらには戦争といった分野でもテールリスク(確率は低いが、発生すれば非常に大きな損失をもたらし得るリスク)の確率を推計できる枠組みに関心を強めている。
一方、人工知能(AI)は災害モデラーのアルゴリズムの能力向上に役立っているが、銀行やヘッジファンドはなお、AIが出力する結果を解釈できる有資格の専門家を求めている。
ムーディーズのプロダクト管理担当ディレクター、フィラス・サレハ氏によると、AIの手法の大半は影響の大きいテールリスク事象のモデル化に向けた設計はされておらず、意味のあるものにするには「慎重な評価と検証」が必要だという。
また、金融機関が自社のリスク管理を目的に災害モデラーを採用している兆しもある。
JPモルガンは、5年以上前から物理的リスクに注力する人材を抱えているとしている。同行によると、エグゼクティブ職に就く人材には、低炭素経済への移行を支援し、物理的な気候リスクへの耐性を高める役割が期待される。
銀行やヘッジファンドがILSや気象の専門家を増やすにつれ、関連ビジネスのエコシステム全体にも資金が流入し始めている。
フィンランドの衛星画像データ会社ICEYE(アイサイ)は最近、洪水や暴風雨などの極端な気象事象が不動産価値に与える影響や、住宅ローンのデフォルトリスクに関するデータを銀行向けに提供し始めた。同社によると、72基の衛星は暗闇だけでなく、雲や煙を透過して観測でき、個々の住宅レベルで詳細データを取得できる。
アイサイの銀行向け営業ディレクター、ポール・ソーデン氏は「銀行は当社のデータと自行の災害モデルを組み合わせて分析している」と述べた。これにより、銀行は「エクスポージャーを把握・削減し、より正確に価格付けできる」という。
原題:Hedge Funds Are Hunting for New Talent to Navigate Catastrophes(抜粋)
(文末の3段落および写真を追加します。更新前の記事で、本文にあった編集メモを削除する訂正を実施しました)
--取材協力:Jack Sidders、Olivia Rudgard.もっと読むにはこちら bloomberg.com/jp
©2026 Bloomberg L.P.