(ブルームバーグ):暗号資産(仮想通貨)ビットコインに積極投資するマイケル・セイラー氏は、資金を調達してビットコインを買い増し、その後は売却しないという単純な戦略を軸に米ストラテジーを築き上げた。しかし、その賭けは今や複雑な局面を迎えている。
長年にわたりビットコインの購入資金を追加調達してきた結果、ストラテジーは現在、3種類の投資家グループに応えなければならなくなっている。ビットコイン投資家、ビットコインへのレバレッジ投資を求める株式投資家、そして現金配当を受け取る優先株投資家だ。この仕組みは、ビットコイン価格が上昇し、投資家がより大規模な購入資金の提供に前向きだった時期には機能していた。
しかし現在、その3グループ全てが圧力にさらされている。ビットコインは直近の売りを受けて4カ月ぶりの安値近辺で取引されている一方、ストラテジー株は昨年の高値から約70%下落した。また、新たなビットコイン購入資金の調達手段として中核的な役割を担ってきた永久優先株(STRC)も額面を下回って取引されており、新規資本の調達を難しくしている。
こうした苦境は今週、ストラテジーが約250万ドル(約4億円)相当のビットコインを売却したと開示したことで鮮明になった。この売却額は同社が保有する約540億ドル相当のビットコインと比べれば極めて小さいが、象徴的な意味は大きい。2022年後半以降で初のビットコイン売却であり、ビットコインを無期限に保有するという同社の中核的なコミットメントに疑問を投げかけた。
セイラー氏が直面する問題は、もはや単純にビットコイン価格が上昇するかどうかではない。ビットコイン保有資産の価値を守りながら、株価を支え、さらに優先株への信頼を維持できるかどうかだ。
シドニーを拠点とするデジタル資産運用会社DACMの創業者リチャード・ガルビン氏は「三つ全てを守ることは不可能だと思う。二つを守るために、残る一つの痛みを受け入れなければならない」と語った。
問題は、ある投資家グループを助ける行動が別の投資家グループを損なう可能性があることだ。ビットコインを売却すれば現金を確保し優先株投資家を支援できるが、ビットコインを買い増し続けるという同社の投資ストーリーは揺らぐ。新株発行は追加購入資金を生み出せるが、普通株主の持ち分希薄化リスクを伴う。財務基盤の保全は債権者や優先株投資家の安心材料となる一方、多くの株式投資家が期待する積極的なビットコイン購入を制限する可能性がある。
市場環境が厳しさを増す中、こうしたトレードオフを回避することはますます難しくなっている。ガルビン氏はこの構図を天体力学の「三体問題」になぞらえる。ビットコイン、株式、優先株のいずれかを安定させる行動が、他のいずれかを不安定化させるリスクを伴うためだ。
ストラテジーはコメントの求めに応じなかった。
STRCは2025年7月に導入された。空売り投資家のジム・チェイノス氏らが、セイラー氏によるビットコイン購入資金の調達手段としての新株発行に疑問を呈し始めたことを受け、資金調達を支援する目的があった。STRCは現在、年率11.50%の現金配当を毎月支払うが、投資家側から償還を求めることはできず、ストラテジーにとっては財務運営上の柔軟性が高い。
この新たな資金調達スキームにより、新株発行への依存度は低下した。しかし同時に、市場環境がさらに悪化した場合に支え続けることが難しくなる現金配当負担という新たな脆弱(ぜいじゃく)性も生み出した。
ウェーブ・デジタル・アセッツで国際ポートフォリオ運用責任者を務めるラジブ・ソーニー氏は、STRCが額面を下回っている状況を警告サインとみている。
STRCには、株価を100ドルの額面近辺に維持するための仕組みが設けられている。現在のように95ドルを下回って取引される場合、少なくとも50ベーシスポイント(bp、1bp=0.01%)の配当引き上げが推奨される。ソーニー氏によると、現値水準は配当引き上げが予想されるレンジに入っているが、ストラテジーは6月の配当率を据え置くと発表している。
ソーニー氏は「セイラー氏は今や本当の板挟み状態にある。100ドルの額面維持のために配当率を引き上げれば17億ドル規模の配当負担が増加し、市場にストレスのシグナルを送ることになる。一方で据え置けば価格下落が続き、資金調達モデルへの信頼を損なう可能性がある」という。
圧力はSTRCだけにとどまらない。
ビットコインに特化した資産運用会社トゥー・プライムの最高経営責任者(CEO)、アレクサンダー・ブルーム氏は、セイラー氏は「太陽に近づき過ぎたのかもしれない」と述べる。
ブルーム氏によると、ビットコイン購入と株価上昇の好循環が崩れ始めている。この戦略は、市場がビットコイン購入のたびに評価を高め、株価も追加購入を支えるほど堅調だった時には機能した。しかし、ビットコインの下落、株安、STRCの額面割れが同時に進行すると機能しにくくなる。
ビットコインは4日、一時5.5%下落して4カ月ぶりの安値を付けた後、下げ幅を縮小した。優先株は約96ドルで取引され、普通株は3日続落後に約2%上昇した。
ブルーム氏は「セイラー氏の次々と変わる戦略を擁護する熱心な支持者もいるが、市場は懐疑的になり始めている」と指摘。その上で、唯一の救いは現時点でビットコインの強制売却に追い込まれていないことだが、STRCの配当原資を確保するために近く売却を余儀なくされる可能性があるとした。
ただし、弱気シナリオだけが存在するわけではない。ストラテジーが発行する証券の販売を手掛けるストーンXは、より前向きな見方を示している。同社はリポートで、今回のビットコイン売却は、保有するビットコインを大幅に減らさずに必要な資金を確保できることを示したと評価した。また、ストラテジーは主にSTRCと時折の新株発行を通じて資金を調達しながら、今後もビットコインの大口の買い手であり続けると予想している。
原題:Saylor’s Bitcoin Machine Is Misfiring on Every Cylinder (1)(抜粋)
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