(ブルームバーグ):イーロン・マスク氏率いるロケット・衛星・人工知能(AI)企業のスペースXは、750億ドル(約12兆円)規模の新規株式公開(IPO)を目指している。当局への提出書類で明らかにした。実現すれば史上最大のIPOとなり、大型上場案件の増加につながる可能性がある。
米証券取引委員会(SEC)への3日付の届け出によると、テキサス州スターベースに本拠を置く同社は、1株135ドルで約5億5560万株を売却する計画。この価格を基準にすると、届け出書類に記載された発行済み株式数ベースの時価総額は約1兆7700億ドルとなる。
マスク氏が投資家からの需要を募る前に公募価格を固定したことは、大規模な米国IPOではほとんど前例がない。欧州やアジアでは一般的な手法だが、米国では多くの企業が通常、投資家向け説明会で株式を売り込む前に想定価格帯を公表する。

スペースXのIPOが750億ドル規模となれば、2019年のサウジアラムコによるIPO(294億ドル)の記録を大幅に上回る。また、OpenAIやアンソロピックの上場への道を開く。両社が早ければ年内の上場計画を進めれば、それぞれ100億ドルを超える規模のIPOを目指す見通しで、AI関連テーマへの投資家の旺盛な需要を取り込むとみられる。
従業員向けストックオプションや譲渡制限付き株式ユニットを考慮すると、同社の完全希薄化後の企業価値は少なくとも1兆8000億ドルとなる。スペースXは、マスク氏のAI企業xAIを買収した今年2月時点で1兆2500億ドルの評価額に達していたと、ブルームバーグ・ニュースは報じている。
企業価値が1兆8000億ドルとなれば、スペースXはS&P500種株価指数構成企業のうち6社を除く全ての企業を上回る規模となり、マスク氏率いるテスラよりも大きくなる。
壮大な目標
ブルームバーグ・ニュースが確認した条件によると、IPOは6月11日に実施され、スペースX株は翌12日に取引開始となる見通しだ。今回の届け出により、同社は4日にIPOの正式な投資家向け説明活動を開始する段階に入る。
マスク氏や経営陣は投資家に対し、いわゆる軌道上での大規模なAIコンピューティングだけでなく、携帯電話への直接通信サービスの拡大、テスラとのAI半導体生産の増強、さらに将来的な月面基地や火星コロニーの建設に至るまで、スペースXの壮大な計画を説明する見通しだ。
ただ、スペースXの壮大な目標と最近の業績をどう整合させるかという課題は残る。届け出によると、同社は昨年、売上高187億ドルに対して49億4000万ドルの純損失を計上した。一方、2024年は売上高140億ドル、純利益7億9100万ドルだった。
届け出によると、スペースXはアンソロピックとの間で、月額12億5000万ドルでAI向け計算資源を提供する契約を締結した。AI事業に伴う多額の資金需要を相殺する可能性がある。両社は90日前通知で契約を解除できる。マスク氏は5月28日にXへの投稿で、スペースXは長期間にわたる計算能力の貸し出しを確約していないものの、「その可能性はある」と述べた。
マスク氏は、上場後もスペースXへの強い支配力を維持する見通しだ。現在の議決権比率は85%だが、IPO後には84.4%となる見込み。マスク氏はクラスB株の93.6%を保有しており、クラスB株には1株当たり10票の議決権が付与されている。そのため、マスク氏は取締役会の51%を選任できるほか、自身のポスト解任の可否も実質的に決定できる。つまり、自らの意思に反して解任されることを事実上防ぐことができる。
このIPOの統治構造については、マスク氏に過度な権限を与えているとの批判がある。複数の非営利団体を代表する「アライアンス・トゥ・プロテクト・シェアホルダー・バリュー」は5月26日の声明で、同社のガバナンス方針について「株主保護を前例のない無謀な形で弱体化させながら、スペースXの経営トップにほぼ全面的な権限を与えようとする深刻な試みだ」と批判した。
「1兆ドル富豪」に迫る
公募価格ベースでは、ブルームバーグ・ビリオネア指数の試算によるマスク氏の純資産は約9880億ドルとなり、史上初の1兆ドル富豪「トリリオネア」まであと一歩に迫る。ただし、株式はより高い価格で取引される可能性があり、IPO銘柄は初日に上昇することが多いため、上場が予定される来週後半にも大台に達する可能性がある。
バロー・エクイティ・パートナーズは開示資料ベースでは、上場後も経済的な持ち分ベースで第2位の株主となる見通しだ。クラスA株の保有比率は上場前の7.3%から6.7%へ低下する。同社の創業者であるアントニオ・グラシアス氏はマスク氏の長年の盟友であり、スペースXの取締役も務める。グラシアス氏は10年以上にわたりスペースXを支援してきた。
届け出書類によると、マスク氏の保有分を含む約78億株にはIPO後の一般的な6カ月を超えるロックアップ期間が設定されている。また、マスク氏が保有する64億株全てにはIPO後366日間のロックアップ期間が課されており、いずれも早期解除の対象とはなっていない。
その他の株主については、単一のロックアップ期間ではなく、段階的なロックアップ解除が適用される。最大9億1150万株は、スペースXが上場後初の決算を発表した後の2営業日目から売却可能となる。さらに、追加の株式については特定の日付や今後の決算発表に連動してロックアップが解除される他、一部の株式には株価がIPO価格を30%以上上回った場合に解除される条件が付されている。
スペースXは、かつて非現実的と考えられていた再利用可能ロケットを実用化し、衛星インターネット事業スターリンクを最大の収益源へと育て上げた。
スペースXは自社の潜在市場を総額28兆5000億ドル規模と見積もっている。その中心はAIインフラ分野で、宇宙空間へのデータセンター設置といった、まだ実現していない技術を活用して市場獲得を目指す構想だ。
スペースXはIPOによる調達資金をAI事業やロケット打ち上げ事業、衛星インフラの拡大などに充てる計画だ。また、特定のデットファイナンスと今回のIPOによる資金を活用し、200億ドルのブリッジローンの少なくとも一部を6カ月以内に返済する必要がある。このローンの大部分は、マスク氏のSNS企業およびAI企業が抱える高金利のジャンク債務の借り換えに充てられた。
今回のIPOは、ゴールドマン・サックス、モルガン・スタンレー、バンク・オブ・アメリカ(BofA)、シティグループ、JPモルガン・チェースが主幹事を務める。他に18行が参加する。同社はティッカーシンボル「SPCX」で、ナスダックおよびナスダック・テキサスへの上場を予定している。
原題:SpaceX Seeks $75 Billion in Record IPO to Fund AI, Launch (2)(抜粋)
(第11段落以降に、マスク氏の議決権や資産などの情報を加えて更新します)
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