中東情勢の混乱で海上輸送の要衝であるホルムズ海峡の封鎖が長期化し、船舶や貨物にかける「海上保険」の保険料が戦争の危険度合いを反映して高騰している。ホルムズ海峡の通航再開に向けた米国とイランの交渉が進むが、今後の行方次第で保険料は高止まりする可能性がある。

海運支える3つの保険

日本海事広報協会によると、日本の貿易に占める海上貨物運送の割合(トン数ベース)は2024年時点で99.5%を占める。海運は貿易に不可欠な手段で、その輸送を保険が支えている。

保険は3種類ある。船そのものの損害に備える「船舶保険」、積み荷にかける「貨物保険」、石油タンカーからの油漏れや貨物損傷の際に船主の賠償責任を補償する「船主責任保険」だ。

国境を越えて行き来する船舶は、所有者と船の運航者が違う場合があり、積み荷には買い手や売り手など複数の当事者が関わる。それぞれのリスクに備えて必要な保険を手当てする。このため一隻の船の航行に複数の保険が関わっている。国際機関や業界団体などのガイドラインや規制がある一方、各契約は条件によって個別性が強い。

損害保険会社はリスクを分析し、見合った保険料を顧客に提示する。船体の保険料は、船の金額や船齢、航路の海域の危険性などの要素をもとに決まる。貨物保険の場合には貨物の種類や輸送区間、梱包方法なども勘案しながら決まる。

中東情勢の悪化で保険料率引き上げ

戦争や武力衝突に伴う損害をカバーするには追加で保険料率を上乗せする。ホルムズ海峡の封鎖に伴い海上保険が値上がりしているのは、中東を巡って戦争危険に伴う保険料率が上昇しているためだ。

2月末に米国とイスラエルがイランを攻撃して以降、ホルムズ海峡を通過する輸送にかかる保険料は急騰した。ブルームバーグの取材では、3月中旬時点で保険費用は船舶価格の約5%まで跳ね上がり、攻撃当初の約5倍になった。その後も情勢を見極めながら、保険への需要や保険料は変動している。

国際間の輸送では、戦争地帯ではない地域間の輸送であっても基本的には戦争リスクを補償する保険を企業は契約している。リスクが顕在化したときの損害が大きいためだ。中東情勢の緊迫を受けて世界の損害保険各社は中東地域の危険度が高まったと判断し、周辺地域の戦争リスクを補償する保険料率を引き上げた。

日本の大手損保も対応迫られる

国内の大手損害保険会社も対応を迫られている。東京海上日動火災保険と三井住友海上火災保険、損害保険ジャパンの3社は3月、船舶に対して戦争危険を補償する保険料率を上乗せする対象水域を拡大した。

これまではイラン周辺などが対象だったが、ペルシャ湾域内のバーレーン、クウェート、カタールに加え、ジブチやオマーン全域、インド洋周辺海域に広げた。また、3社の広報担当者によると、同時に上乗せする料率も引き上げた。

戦争リスクに係る保険は情勢に応じて条件が変わりやすい。多くの契約では、保険会社が一定の通知期間を設け、補償の範囲や条件を見直したり、失効させたりできる条項がある。7日前に通知するのが典型例とされる。

東京海上日動の遠藤良成常務は5月20日の決算会見で、今後の対応について「紛争状況、航行環境、再保険を含めた市場動向を総合的に勘案して判断していきたい」と述べた。リスクの高い地域での貨物保険についても、輸送開始前に顧客から申告を受け、その都度保険料率を検討しているという。

戦争リスクは巨額に-「保険会社の保険」に余波も

海上輸送では1件の事故で数十億円から数百億円規模の損害が発生することがある。顧客と契約を結ぶ保険会社だけでリスクを抱えるのは難しい。そこで保険会社はリスクの一部を別の保険会社に移転する再保険という仕組みを利用する。

戦争に伴う事故が起きれば補償額が巨額になるため、再保険会社の動向も料率に影響を及ぼす。地政学リスクが高まり、再保険の引き受け条件が厳しくなったり価格が上がったりする可能性があるためだ。

自民党のイラン情勢に関する関係合同会議のメンバーは4月、政府による再保険引き受けの仕組みを検討するよう提案した。再保険の確保は国内損保にとって重要だ。東京海上ホールディングスは3月、米投資・保険会社バークシャー・ハサウェイと戦略的提携を結び、再保険で連携することを決めた。広報担当者は「中東情勢に関わらず、自然災害などのリスクが激甚化している中で、再保険の重要性は増している」と述べた。

保険料は元に戻るのか

複数の米政府高官が5月24日、米国とイランがホルムズ海峡再開に向けた合意に近づきつつあるとの認識を示し、停滞していた両国の交渉が動きをみせる。仮に通航が再開しても、一度引き上げられた保険料はすぐには元の水準に戻らない可能性がある。

英保険仲介大手エーオンの担当者によると、仮にホルムズ海峡の封鎖が解けたとしても保険料の水準が落ち着くまでには一定の時間を要する可能性もあるという。地域全体の安全保障環境が安定したと評価できる状況が整うまでには段階的な対応が必要になることなどを理由に挙げる。

米イランの戦闘終結に向けた交渉の行方は、海運を支える保険の安定にも難題を突きつけている。

(15段落目に広報担当者のコメントを追加します)

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