(ブルームバーグ):米テキサス州グランベリー市議会は会議を祈りで始める。だが今年1月、ある地元住民は10年前には想像もできなかった形で神に祈りを捧げた。
フッド郡周辺の開発委員会メンバー、マット・ロングさんは、「イエスの名において祈る。あの土地がデータセンターにならないように」と述べた。
彼の訴えや近隣住民の反対の声にもかかわらず、市議会は4カ月後、「プロジェクト・パトリオット」として知られるデータセンター候補地向けに2100エーカー(約8.5平方キロメートル)の土地を再区画指定することを決定した。
こうした反発は同州では異例だ。長年にわたり企業寄りの姿勢で知られるアボット州知事は昨年、テキサスを「人工知能(AI)開発の震源地」と呼んだ。
すでに同州アビリーンでは、ソフトバンクグループとオラクル、対話型AI「ChatGPT」のOpenAIによる共同事業「スターゲート」が、米国内で最も注目される大型開発案件の一つとなっている。
不動産仲介のJLLによれば、テキサス州は2030年までにバージニア州を抜き、世界最大のデータセンター集積地になると予測されている。
ダラスから約70マイル(約113キロメートル)離れたグランベリーで起きていることは、全米各地で起きている対立の一例に過ぎない。ペンシルベニア州やフロリダ州パームビーチなどで住民がデータセンター建設に反対している。
住民の懸念は共通している。騒音や大気環境への影響に加え、大量の電力を消費する施設によって電気料金が値上がりするのではと不安視している。
テキサス州ではAIインフラ建設が急増し、州の電力網運営機関は2032年までに電力需要が4倍に拡大すると予測している。
今年3月に実施された調査に基づくギャラップ世論調査によると、米国人の10人中7人が、自宅周辺でのAIデータセンター建設に反対しており、そのうち48%は強く反対している。
大半の計画は承認されるものの、草の根の反対運動が成果を上げた例もある。調査会社データセンター・ウオッチのリポートによれば、昨年は少なくとも48件、総額1560億ドル(約24兆8100億円)相当のプロジェクトが、地域住民による組織的な反対運動を受けて中止または停滞した。
フッド郡の住民は今年、データセンター開発の一時停止措置導入を2度試みたが、うまくいかなかった。住民はプロジェクト・パトリオットを含む案件に対し法的措置にも踏み切っている。近くのヒル郡では、議会がこうしたプロジェクトに対する1年間の凍結措置を承認した。
ロングさんはインタビューで、ヒル郡の措置について「危険を承知で立ち上がる委員がいるのはうれしい」と語った。その上で、「フッド郡についても依然として楽観している。何か行動するなら今だと思う」と述べた。
一時的な禁止措置が法的に認められるかどうかを巡っては議論がある。住民らは、来週の共和党連邦上院予備選でトランプ大統領が支持する候補で州司法長官のケン・パクストン氏に見解を求めている。
フッド郡の法務責任者マシュー・ミルズ氏は2月、パクストン氏に法的見解を求める書簡を送ったが、返答はまだない。
一部住民の反対にもかかわらず、州政府はデータセンターに大きな期待を寄せている。テキサスは投資誘致のために手厚い優遇措置を提供しており、会計監査当局によれば、これら施設向けの免税措置によって、今後2年間で約30億ドルの売上高税収を放棄する見通しだ。
法律事務所モルガン・ルイス・アンド・バッキアスのコジモ・ザバグリア税務弁護士は、「先走りし過ぎている」と大規模な減税措置を提供するリスクを指摘し、「売上税や使用税の減免が過度で、その見返りとして十分な利益を得られない可能性がある」と述べた。
AIには反対せず
経済的な恩恵が見込まれる一方、多くの住民はデータセンターを「迷惑施設」と見なしている。今月には、2024年からこの地域でビットコインのマイニング(採掘)施設を運営しているMARAホールディングスを相手取り、フッド郡の住民グループが騒音公害を理由に提訴した。
住民側は、騒音が頭痛や耳鳴り、不眠の原因になっていると主張している。
MARAの広報担当者は電子メールで、「責任ある長期的な隣人であることにコミットしている」とし、同社の施設では「静音かつ効率的な液浸冷却技術」を採用していると説明した。
グランベリー市で映画制作や短期賃貸業を営むダニエル・ピアットさんも他の住民と共に市を提訴し、プロジェクト・パトリオット用地の区画指定に異議を唱えている。
訴状は、市当局が水面下で開発会社を誘致し、計画の真の目的について住民を誤認させたと申し立てている。市の担当者は係争中だとしてコメントを控えた。
ピアットさんは、自身を「現実主義者」と表現し、AIそのものに反対しているわけではないと語る。ただ、問題の土地が病院や学校に隣接していることにショックを受けたという。
ピアットさんは家族と共に、全米で何度も「最も魅力的な歴史のある小さな町」に選ばれたグランベリーに移り住んだ。周辺で相次ぐデータセンター計画は、この市の性格と完全に相いれないものだと話す。
「非常に保守的な地域なのに、今では多くの人が政治的に反対側の陣営のような話し方をしている。『水を守らなければならない』『空気を守らなければならない』と言っている」とインタビューで明らかにし、「自分たちに影響が及ぶと、人は考え方を変える」と語った。
全米の自治体は、州政府から開発容認を求める圧力を受ける一方で、住民の反発にも対応を迫られている。こうした対立は、米テクノロジー大手が今年数千億ドル規模を投じると見込まれるAI関連プロジェクトの信用格付け見通しにも影響を及ぼす可能性がある。
S&Pグローバル・レーティングのマネジングディレクター、サラ・サリバント氏は「建設初期段階のデータセンター案件について、多くの発行体と協議している。現在、テキサスは非常に熱い市場だ」と指摘。「こうした取り組みが実を結ばず、透明性も確保されなければ、信用リスクは今後も続くだろう」と述べた。
2月にはテキサスのポール・ベッテンコート州上院議員がパクストン氏に書簡を送り、開発停止措置を導入する郡の調査を求めた。これまでのところ、パクストン氏は公には反応していない。
ロングさんは「州は戦略的に沈黙している」と述べ、「来年、州議会が招集され、この問題について判断を下さざるを得なくなる前に、できるだけ多くのプロジェクトを進めようとしているのだと思う」との考えを示した。
パクストン氏の代理人らはコメント要請に応じなかった。
「売り渡された」
大規模なデータセンター開発に対する地元住民の反発は根強い。投資会社ブルックフィールド・アセット・マネジメントが出資する企業は今月、バージニア州で計画していた800エーカーを超えるキャンパス建設を断念した。同社は計画関連費用として数千万ドルを投じていた。
データセンター・ウオッチの主任アナリスト、ミケル・ヴィラ氏は、「このプロジェクトの中止と強い反対の広がりは、バージニア州がデータセンターに対して以前ほど友好的ではなくなったことを示すシグナルだ。デベロッパー側もそれを意識している」と分析している。
地域住民からの圧力を受け、各地の自治体はゾーニングや高さ制限を通じて開発を抑制する手段を模索している。ペンシルベニア州では、行政が住民の怒りの矢面に立たされている。
ペンシルベニア州タウンシップ監督者協会の広報担当スティーブン・ミスキン氏は、「州議会議事堂や連邦議員の事務所に何百人も押しかけることは普通ない」が、「データセンターとなると、多い時には1000人が地域集会に集まる」と話した。
フロリダ州パームビーチでも、住民らが「プロジェクト・タンゴ」に異議を唱えている。これは、トランプ大統領の私邸「マールアラーゴ」から車で約30分の場所にある200エーカーの敷地で提案されているデータセンター計画だ。
パームビーチ在住で非営利団体ウェスタン・パームビーチ・コミュニティー・アライアンスに加わっているレイチェル・スミスさんによると、データセンターそのものに反対しているわけではなく、責任ある開発を求めている。
彼女にとって、プロジェクト・タンゴはその条件を満たしておらず、自分たちの地域社会が「最も高い値を付けた相手に売り渡された」ように感じているという。
原題:Anti-Data Center Rebels in Texas Pray to Jesus to Keep Them Out(抜粋)
--取材協力:Joe Lovinger.
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