(ブルームバーグ):イーロン・マスク氏が率いるスペースXの新規株式公開(IPO)計画は、史上最大の株式市場デビューとなる見通しだ。その成功は、宇宙探査、衛星通信、人工知能(AI)にまたがる高い目標を達成できるかにかかっている。
スペースXはIPOで少なくとも750億ドル(約12兆円)を調達し、評価額は2兆ドル(約318兆円)を目指している。ただ、最終的な目標は数週間公表されない。5月20日に開示された提出書類では、マスク氏がスペースXを支配下に置き続けられるスーパー議決権株制度も明らかになった。
スペースXは、宇宙産業の新興企業から、米宇宙計画の基盤を担う航空宇宙大手へと変貌した。ロケット打ち上げ事業に加え、衛星インターネットブロードバンドサービスのスターリンクを保有しており、これが資金創出の柱となっている。
2月にはxAIを買収し、AIアシスタント「Grok(グロック)」を主力とするAI事業も抱えるようになった。X(旧ツイッター)も事業の一角を占める。
スペースXは、AIへの投資を強めている。全事業の潜在的な市場規模を最大28兆5000億ドルと試算しており、このうちAI関連が93%にあたる26兆5000億ドルを占める。
今回のIPOは、宇宙とAIを融合した巨大企業をつくるというマスク氏の構想に投資家が参加できる、市場の一大イベントになりそうだ。データセンターを宇宙に置くなどマスク氏の成長計画は極めて野心的で、高いコストと大きなリスクを伴い、実現までに何年もかかる可能性がある。
スペースXのIPO計画について知っておくべき点は以下の通り。
なぜスペースXは上場するのか
スペースXは現在、主にスターリンクから相当なキャッシュフローを生み出している。しかし、野望の実現にはさらに多くの資金が必要だ。提出書類によると、IPOで得た資金は、AI計算インフラの拡充、宇宙インフラとロケットの強化、衛星網の増強などに充てる計画だ。
上場せずに、未公開市場での資金調達を続ける選択もできた。しかしスペースXの資金需要は、xAI買収により大幅に高まったようだ。関係者によると、xAIはAIモデルの訓練などのため、1カ月に約10億ドルの計算インフラ費用がかかっている。
提出書類によると、スペースXのAI部門は昨年64億ドルの営業赤字を計上し、2026年1-3月期の赤字も25億ドル近くに達した。一方で、スペースXは米AI新興企業アンソロピックとの間で、AI計算能力の対価として29年5月まで月12億5000万ドルを受け取る契約も結んでいる。
業界では各社が数千億ドルを投資し、AIドリームを目指している。スペースXが上場して幅広い市場から資金を調達できるようになれば、OpenAIやアンソロピックが自ら上場する前に、両社より速いペースで資金を集められる可能性がある。
評価額の見通しは
スペースXが最大750億ドルを調達すれば、19年にサウジアラムコが打ち立てた294億ドルという最高記録を大きく塗り替える。評価額も大きく増加し、2兆ドルを超える可能性がある。
大きな疑問は、その評価額が公開市場で維持されるかどうかだ。アナリストは将来の利益と成長、業界競争、利益率に基づいて企業を評価する。ただ、企業価値評価は科学ではない。特に強気相場では、投資家がファンダメンタルズ以外の要素に基づいて、企業の株式に高い価格を払うこともある。
現在の財務内容では正当化しにくいほどの高値がついたとしても、スペースXの宇宙事業が持つ広大な潜在力があれば正当化できるとの見方もあるだろう。一方で、xAI事業を巡る課題は不安要素となる可能性がある。
IPOの日程は
スペースXは26年3月末、関連書類を非公開にしてIPOを申請し、米証券取引委員会(SEC)の審査が始まった。5月20日は提出書類が公開され、スペースXの財務内容が初めて公になった。
15日間の公開閲覧期間を経た後、スペースXは正式に投資家への株式売り込みを開始できる。通常は最終価格の決定前に、一定の価格レンジが示される。価格が決まれば、株式は翌日に取引を開始する。取引開始は、早ければ6月12日にも実現する可能性があるとブルームバーグは報じている。
どの銀行が主導するのか
ウォール街にとって前例のない巨大案件を前にして、スペースXの上場支援を目指す銀行は列をなしている。提出書類によると、IPOには23行が関与しており、ゴールドマン・サックス・グループ、モルガン・スタンレー、バンク・オブ・アメリカ、シティグループ、JPモルガン・チェースが主導している。
誰が参加できるのか
価格レンジが設定されると、案件に関与する銀行は機関投資家から株式の注文を受け付ける。同時に、一般投資家も証券会社を通じて注文できる。
株式が取引を開始する前日、スペースXと銀行団は、初期投資家が支払う最終的な1株当たり価格と売り出し株数で合意する。価格決定にあたり、スペースXと銀行団は、既存株主と新規投資家の双方の利害のバランスを調整する必要がある。既存株主は株式の過度な発行による持ち分の希薄化を抑えたい一方で、新規投資家は株式の配分を受け、初期の値上がり益を得られることを期待している。
上場に落とし穴はあるのか
スペースXにとってIPOの不利な点は、四半期ごとに財務内容を公表し、ウォール街のアナリストや一般投資家に向き合わなければならないことだ。株価が乱高下したり急落したりすれば、スペースXの計画が混乱する可能性もある。
xAI買収はどう影響し得るのか
スペースXがIPO前にxAI買収を選んだことを、誰もが歓迎しているわけではない。xAIには多額の現金が投じられており、スペースXの中核事業、とりわけスターリンクの魅力を薄める可能性があるためだ。
宇宙関連企業への投資だと考えていた投資家は、結果としてAI分野への大きな投資リスクも抱えることになった。AI業界に慎重な見方を持つ投資家にとっては、覇権争いが激しい分野で新たな不安要素を抱え込むことになる。スペースXが大きすぎて扱いにくい複合企業だと見なされれば、期待よりも低い市場価値につながる可能性がある。
スペースXはAI分野でも激しい競争に直面している。OpenAIは今年後半の上場を計画しており、アンソロピックもそれに続く可能性がある。両社の未公開市場での評価額はすでに数千億ドル規模に急騰しており、上場すれば企業価値は1兆ドルを超える勢いだ。
マスク氏の支配権にはどう影響するか
提出書類によると、マスク氏が85.1%の議決権を握り、スペースXを強く支配している。その主な理由は、マスク氏が一般のクラスA株とは異なり、スーパー議決権付きであるクラスB株の大半を保有していることだ。
スペースXの潜在力とマスク氏の実績に魅了される投資家はこの点を気にしていない可能性が高い。ただ、何かがうまくいかず、投資家が経営トップの交代を求めるようになった場合には問題となり得る。
マスク氏は投資家にスペースXをどう売り込むか
一番の売りは、スペースXが宇宙のデータセンターを活用して計算能力を飛躍的に拡大できれば、AIの有力企業になるという点だ。
マスク氏がAI事業を一から再構築するなかで、これは投資家にとって受け入れにくい説明となる可能性がある。それでもスペースXはすでに商業宇宙産業を支配しており、一見広大な成長余地と、防衛や通信といった産業とのつながりを持つ。スペースXはまた、世界規模の高速インターネットサービスを展開するスターリンクという潜在的なドル箱を抱え、巨大ロケットのスターシップで成長を目指すロケット打ち上げ事業でも競争優位を持っている。
投資家にスペースXの巨額評価を受け入れさせるため、マスク氏は自身のカリスマ的人気と実績を訴えることになる。テスラ株は過去10年で約3000%上昇しており、投資家たちに大きな利益をもたらしたことは、一部の投資家にとって何よりの宣伝材料になるかもしれない。
原題:What to Know About the SpaceX IPO: Explainer(抜粋)
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