任天堂の京都本社は、本来なら祝賀ムードに包まれていてもおかしくない。

家庭用ゲーム機「スイッチ2」は昨年6月の発売以降で2000万台を販売し、同社史上最速で売れたゲーム機となった。また、新作映画「ザ・スーパーマリオギャラクシー・ムービー」も世界興行収入10億ドル(約1590億円)突破が視野に入り、今年のヒット作となっている。

しかし、順風満帆ではない。任天堂株は昨年8月以降で半値近くまで下落し、2008年の金融危機や11年の東日本大震災時に匹敵する下げとなっている。当時は相場全体が急落していたが、今回は日本株が最高値を更新する中で任天堂株が下落している。

投資家は、半導体メモリー価格の高騰や関税による1000億円相当の影響、すでに高価なスイッチ2の値上げによる需要減退リスク、そして任天堂の事業特有の循環性を材料視している。

だが、最も重要なのはゲームで、任天堂にとって最大の利益の源泉だ。発売から1年近くが経過した今もスイッチ2の販売は堅調だが、絶対に欲しいと思わせるタイトルがなお欠けている。さらに悪いことに、有力ソフトの予定も見当たらない。任天堂のラインアップは驚くほど手薄だ。

同社が期待外れのソフト販売見通しを先に公表したのも、それが一因かもしれない。任天堂は27年3月期のソフト販売を6000万本と予想している。保守的な見通しを示すことで知られる点を考慮しても、来年3月までの1年間でスイッチ2のユーザー1人当たり平均1.7本しか買わないと見込んでいる計算になる。

任天堂株の下落は必ずしも不合理ではない。投資家からすれば、分からないものを評価することはできず、任天堂の今年の計画は依然として不透明だからだ。同社は重要な年末商戦向けタイトルを1本も発表していない。

問題は、任天堂が市場に対する透明性よりもユーザーへのサプライズを重視している点にある。プレーヤーを驚かせる力は任天堂独自の強みの一つだ。古川俊太郎社長は昨年、「常に新しい驚きを届ける製品やサービスを提供できるように努めていきます」と語った。皮肉なことに、この発言は当時の上場来高値について尋ねられた際のもので、古川氏は「現状に決して安住することなく」とも話していた。

ゲームファンにとって、ビッグタイトルの突然の発表ほど興奮するものはない。2000年代にネット上で広く共有された有名な画像では、「ゼルダ」新作発表時に、まるで応援チームがスーパーボウルで優勝したかのように歓喜する記者たちの姿が映し出されていた。任天堂はそうした熱狂を狙っており、完成までタイトルを伏せる傾向を強めている。

つい最近も、1997年の名作「スターフォックス64」のリメイク版を来月発売すると突如発表した。他社は通常もっと長い告知期間を設ける。テイクツー・インタラクティブ・ソフトウエアの「グランド・セフト・オートVI(GTA6)」は発表から今年11月の発売まで3年を要する見通しだ。

市場は予見可能性を好む。任天堂株主は少なくとも「隠し玉」がまだ用意されていると信じるべきなのかもしれない。問題は、それがいつ、どのような形で登場するかだ。

古川社長は今月のオンライン説明会で、「新作タイトルをよりタイムリーに、数多くお届けできることが理想ではありますが、ソフトウエアの開発期間は以前と比べて長期化しています」と認めた。ただ、年度後半にはさらなるソフト投入を予定しているとも述べた。

多くのアナリストは、映画人気を追い風に3Dマリオの新作が夏にリリースされると予想している。任天堂は23年の最初の映画公開時にも同様の戦略を取った。同社は6月に新作発表イベントをオンラインで開催することが多い。しかし、それが実現しなければ、コスト圧力やハード1台当たりソフト販売本数の減少により、営業利益で最大2000億円の打撃を受ける可能性があるとジェフリーズのアナリスト、アトゥル・ゴヤル氏は懸念を示している。

任天堂は事実上、自ら期限を設定している。日本では今月25日にスイッチ2の値上げが実施される一方、米欧での価格引き上げは9月まで始まらない。値上げされたスイッチ2には、その価格を正当化する材料が必要だ。今から9月までの間に任天堂がどのようなソフトを発表するかが、株価反転の鍵を握ることになる。

9月までには、値上げが新作ラインアップによって正当化されるか、あるいは市場の懐疑論が正しかったことが証明されるだろう。

任天堂は顧客と投資家に対し、詳細を十分に明かさないまま、同社を信頼してスイッチ2戦略を受け入れるよう求めている。既存のスイッチユーザーを新たなデバイスへ移行させる点では良いスタートを切った。それこそ市場が求める安定性だ。

しかし、毎年のiPhoneアップデートとは異なり、任天堂の強みは、常に予想外の驚きを提供してくれるという期待感にあるのだ。

(リーディー・ガロウド氏はブルームバーグ・オピニオンのコラムニストで、日本と韓国、北朝鮮を担当しています。以前は北アジアのブレーキングニュースチームを率い、東京支局の副支局長でした。このコラムの内容は個人の意見で、必ずしも編集部やブルームバーグ・エル・ピー、オーナーらの意見を反映するものではありません)

原題:Nintendo Gamers Love Surprises. Investors Don’t: Gearoid Reidy(抜粋)

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