ベッセント氏が日銀の利上げを望んでいるというのはやや古いイメージ

片山財務相は5月11日夜、来日したベッセント米財務長官と会食した。片山氏とベッセント氏は5月12日にも改めて正式に会談する予定である。市場では、ベッセント氏が円金利の上昇が米金利の上昇に波及するというパスを懸念しているという見方から、円安やインフレ懸念を抑制するための利上げを要求するという見方が少なくないようである。特に為替市場において日銀がビハインドザカーブに陥っている可能性は否定できないことから、「べき論」としてベッセント氏が日銀は利上げをすべきと考えている可能性はあるだろう。

もっとも、過去の発言を振り返ると、今回の会談で日銀の利上げが最重要テーマとなる可能性は低いと、筆者はみている。ベッセント財務長官が日銀の利上げに関心があるという見方が多いのは、25年8月のBloombergインタビューの発言だろう。ベッセント氏は米国債の利回りは日本やドイツといった外国の金利動向による影響を受けていると指摘した上で、「日本はインフレ問題を抱えており、確実に日本からの波及がある」(Bloomberg)としていた。もっとも、この発言は関税ショックによるドル離れや米金利の上昇という動きに対して問われた際に、日本やドイツの金利上昇を米金利上昇のスケープゴートとしたかったことが背景にあるのだろうと、筆者はみている(当時もそのようにレポートに記していた)。その後、日銀は25年12月に利上げを実施したことや、26年1月に公表された米財務省の半期為替報告書において日銀に利上げを求めるような表現が削除されたことも踏まえると、ベッセント氏が今回の来日で日銀に利上げを求める可能性はあまり高くないだろう。

他方、ベッセント氏は26年1月、当時の日本の金利上昇について「6標準偏差」の値動きが起きたと話した(Bloomberg)。ベッセント氏は「米市場の反応を、日本で国内要因によって起きている動きと切り分けるのは極めて難しい」(同)と述べ、このときの円金利の上昇に不満を示していた。言うまでもなく、当時の金利上昇は財政リスクの高まりを反映したものである。前述した米財務省の半期為替報告書について、米財務省高官は「半年前は(金融政策が)課題と見なされていたが、状況が変化した。我々の焦点はほかの要因へと移行している」とし、「新政権による拡張的な財政政策の見通し」も円安要因になっていると指摘したという(日経)。

ベッセント氏が日本に対してメッセージを残すとすれば、財政リスクの高まりを抑制すべきであるというものとなる可能性が高い。日銀の利上げ観測が高まる可能性は低いだろう。

(※情報提供、記事執筆:大和証券 チーフエコノミスト 末廣徹)