古くて新しい経済安保の研究分野:ジオエコノミクス

経済安全保障を分析する分野にジオエコノミクス(地政経済学または地経学)というものがあるが、これは決して新しい学問ではない。

アダム・スミスが1776年の著書『国富論』にて国防を富よりも重要と指摘したのをはじめ、1920年代~1970年代には様々な著名経済学者が経済的強制、軍事競争、さらに製造業サプライチェーンにおける重要なボトルネックに関する研究をしており、これらが基礎となっている(Mohr and Trebesch [2025])。

なかでも、経済力と政治力の相互作用を示したHirschmann [1945]の考察は、近年の研究で取り上げられることが多い。

ジオエコノミクスは、自由主義経済が重視されるなか停滞したものの、再び脚光を浴び、今、古くて新しい研究分野となっている。

国家間の「パワー」と世界経済の「分断」が近年の重要課題

2026年4月には、ジョンズ・ホプキンス大学とジョージタウン大学が共催したジオエコノミクス・カンファレンスにて、同分野の新たな展開が示された。

近年、これまでグローバル化における協力を志向してきた国家間の「パワー」(権力、勢力、影響力など)の変化と世界経済の「分断」が新たに重要になっているとされ、とくに「パワー」については政治学のフィールドであったものが、経済学の分野で重視され始めたという大きな変化が指摘された。

ただ、この指摘をしたプリンストン大学のヘレン・ミルナー教授は、その変化の重要性を語りながらも、実際に「パワー」が経済にどう影響しているのかなど論争は続いているとしている。

例えば、仮に人民元が世界で流通することになっても今の米ドルと同様の役割を持つかはわからないなど、覇権争いなど注目される分野において、「パワー」の影響については議論の余地が残されているということになろう。

その「パワー」で今最も注目される「ミドルパワー」(大国ではないが一定の国際的な影響力をもたらすことができる程度の力をもつ国家、中堅国)も論点となった。

ルールベースなど方向感の一致した力になる協力に向けては議論の途中であり、まだ多くの課題がありながらも、米中とのバランスをとるための「第三の道」として評価され、この「ミドルパワー」についても今後の展開に注目する必要がある。

一方、もう一つの重要分野である「分断」については、上記「パワー」が過去のグローバル化のような協力ではなく、新たに今は対立を生み出している現実に対し、その影響について様々な分析が行われている。

具体的には、輸出規制や関税など貿易面での影響分析が急速に発展し、企業の個票データの利用に加え、AIを用いた分析(LLMを用いたテキストデータ解析で、文章で示される企業の行動を詳細に分析)も行われ、分析精度は高まっている。

カンファレンスでは、経済制裁はサプライチェーン再編を促進している、関税は価格転嫁可能な一部企業にとってはプラスになっている、などの研究結果が示された。